余波
「権藤所長はいらっしゃるんですよね!?」
「権藤所長にお話を!」
「おい!権藤を出せよ!!」
WLSの正門にはあらゆる媒体のマスコミが拡散された動画の真偽を聞こうと殺到していた。WLSは当面の間、関係者以外立ち入り禁止とされ、警察との協力で押し寄せるマスコミを規制していた。
「今権藤所長は安静だ!近々にご報告するのでお引き取りを!」
「今はまだお話出来ることはありません!教習生たちもいますのでお静かにお願い致します!」
花澤と大林が集まる人々に向け言う。
「あなた方もWLSの職員なら説明する義務があるでしょう!」
マスコミのうちの一人が言った。大林が返す。
「説明できることが現状まだございません!準備が出来次第ご報告を致します──!」
「今後の対応は協議しなくてはいけませんね」
能力管理局副局長、シオン・クロフトはWLSの応接間で権藤と対峙していた。
「申し訳ありません。」
権藤はシオンに頭を下げる。
「こちらで把握していなかった情報まで、今回の件で拡散されていますが、実の所はどうなんですか?真偽としては」
「概ね、事実です。」
「そうですか…参りましたね…。一度この話は管理局に持ち帰り協議いたします。まずは混乱を最小限に食い止めねばならない。この混乱はすぐに世界に波及する。世界が混乱すれば、いよいよWWAの介入も考えられる。そうなっては我々管理局としての指揮系統は完全に吸収されてしまう。」
「決定がありましたら、すぐにでも会見を開ける準備をしておきます。矢面に立つのは、私で構いません。」
「分かりました。連絡を待ってください。しかし…驚きですね、能力発現のきっかけがまさか人工物によるものだったとは」
「……」
「私の祖国は外界との交流を拒絶していますので、この件が届くのは時間がかかるとは思いますが…」
「拒絶…?」
「ラニーカイナ、ご存知ありませんか」
「…!特別保護地、ラニーカイナ島ですか…!」
「ええ。信仰のある国ですからこんな話が届いてしまったら、きっと内戦が起きるでしょう。あの島で内戦が起きてしまったら…世界を巻き込んで大変なことになる。そうなる前に、なんとかしなければ。権藤所長、諸々覚悟をしておいてください。」
「わかりました…。それから大事なことをもうひとつ」
「?」
「私のことは良い。賊軍に捕らわれている当校の教習生、宮國真樹の救出をどうかお願い致します。」
「鋭意捜索中です。」
「よろしくお願いします。」
部屋を後にするシオンの背中に、権藤は深く頭を下げた。
「ということで、今君たちを帰すことは出来なくなってしまった。」
教壇に立つアレンは言った。小田桐が返す。
「てことは私らはここでしばらく監禁ってことか?」
「そんな乱暴な言い方はよしてくれ。あくまで一時的な保護だ。ここの寮でしばらく過ごしてもらいたい。必要なものは大体揃えてある。暫し、我慢を強いることになるが君たちを守るためでもある。理解してくれ。」
「外に出さない理由は」
久瀬が聞く。
「先ほども言った通り、保護だ。外には今回の話を聞こうと多数のマスコミがいる。彼らは情報を待っている。世間も同じだ。WLSの現役教習生というだけで、良からぬことを企む輩もいるかも知れない。今、権藤所長と管理局上層部が発表のために準備を進めている。それが済めば少しは落ち着くだろう。それまでは君たちにはここにいて欲しい。」
「そうですか、分かりました。」
「寮内の案内については彼らに頼んである。」
アレンが入口を指すと男女が二人入ってくる。
「…!!」
「知った顔も多いから今更自己紹介も必要ないと思うが、前澤だ」
「こんにちは!わたしははじめまして!川崎イチゴです!よろしく!」
「彼らは入寮生だ、寮の中のことは彼らに聞いてもらえれば大丈夫だと思う。自己紹介の前に前澤に関しては数名、すでに関わりがあるようだが…」
「ホント前澤くんって危なっかしいよね」
川崎が前澤の頭を人差し指でツンツンとつつく。
「うるせえ」
前澤は川崎を見ずに答える。アレンが続ける。
「まあ今回、教習生を勝手に連れ出し、挙句戦闘をさせたことについては、首謀者の前澤を厳しく処罰する。もう二度と、勝手なことはやめてくれ」
アレンは今回の事件に関係した人間を一瞥する。森田や郷原が顔を伏せる中、武尊はまっすぐに前澤を見ていた──。
その後、寮内の案内は男子組と女子組に別れ、前澤が男子寮、川崎が女子寮を案内することになった。案内の途中で、武尊は前澤に聞いた。
「なんであんなこと」
「あんなことってなんだ」
「首謀者とか処罰とか」
「実際そうだろ」
「俺たちも前澤さんと同じことしたのに」
「お前らは幹部とザコの逮捕に貢献してる。それでチャラだ。俺はなにもしてねえからな、ただお前らを連れ出して危険に晒したんだ、当然だろ」
「そんなこと…」
「俺のことはいい。それより、今回の動画のことだが一切宮國のことについての話がなかったな」
武尊はうつむく。
「これ以上向こうからの動きはないかもしれない。あの動画たった一本で世間はこの通りの大混乱だ。管理局も警察も動いてるみてえだが、そもそも見つけられるかも分からん。」
「そうですね…」
「あいつの指はもうダメなのか」
「帰ってすぐに光本に聞きましたけど、すでに時間が経ちすぎてて追えないみたいです」
「そうか…」
前澤は寮の食堂の扉を開ける。
「ここは食堂だ、ここのメシは美味…」
前澤は言いかけて止まる。
「前澤さん?」
「どういう意味だお前…!」
前澤の視線の先を見た武尊は驚いた。
「……!なんで…!」
その視線の先には藤丸が座っていた。
「久しぶりだね、武尊」




