正義
「膠漆獣衣、鳥獣の型…!」
「どういうこと…?」
ミランダの額を冷や汗が伝う。
「どういう理屈かはわかりませんが、あなたの能力はケンケンには通じないみたいですね」
森田が答えた。
「なによケンケンて」
「友達です、僕の」
「意味わかんない…!」
ミランダが森田に向かって飛び出す。ミランダの蹴りが森田を狙う。しかし森田の防御に防がれる。
「ちっ…なんで…!」
ミランダは猛攻をしかけるが全て防がれる。森田が反撃する。鉤爪と化した両手は、ミランダの身体に傷をつける。
「くっ…!!」
ミランダは思わず距離をとる。
「森田…すげえ…!」
武尊は森田を見て感嘆の声を出した。
「僕がすごいんじゃない、ケンケンのおかげ。これで戦えそうだ…!」
ミランダは生まれてすぐから優しさを受けて育った。物心がついてからは、更に顕著に、周りの男から優しくされた。小、中、高校では数えきれないほどアプローチされるような、モテる女。就職してからも、男たちからの明らかな羨望。多少のミスは全て男たちが守ってくれるような人生だった。ある時、優しかったはずの当時のパートナーが自暴自棄になる。彼女に物を投げるなどするようになっていった彼は、エスカレートして暴力を振るうようになる。その時彼女の中ではあらゆる感情が渦巻いていく。
「なんで私が──」
優しくされることが、彼女にとっての常識だった。父も、友人も、教師も、職場の同僚も。男たちは彼女を守るのが当然だというように振る舞い、彼女自身もそれを疑わずに生きてきた。
それなのに、守るはずの手が傷つける。彼女の世界の前提が、音を立てて崩れた。
理解できない。
認められない。
受け入れられるわけがない。
「違う。」
私が殴られる世界なんて間違っている。その歪んだ願いに呼応するように、彼女の中で眠っていた能力が目を覚ました──。
「無傷乃愛、重愛…」
「な、なんだ!?」
森田はその場から勢いよくミランダに引き寄せられる。ミランダの肘打ちが森田の顔面にヒットする。
「がっ…!」
倒れる前に再び森田はミランダに引き寄せられた。ミランダの蹴りが森田の腹部に直撃し、窓側の壁に激突する。
「森田!」
立ちすくむ武尊もミランダに引き寄せられる。
「うわっ…!」
武尊の腹にミランダの拳が直撃した。
「ぐはっ…!」
武尊は入口側の壁に衝突した。
「武尊くん…!」
立ち上がりながら森田が言う。
「当たるならこちらも当てればいい。そんなことで攻略した気になってるんじゃないわよ…!」
「引き寄せる能力…」
「そんなんじゃないわ。あなた達は能力への解釈が浅いのね…全てはその能力の本質に帰属する。全ては派生なのよ。火照りの熱も、引き寄せの引力も、無傷乃愛の中の1つ。」
「あなたにはそんな才能があって、なんでこんな形で…」
「こんな形?じゃあ他にどんな形があるっていうの?ライセンスなんてものを持たされ管理される側に入ったその瞬間から、個人の意見なんてものに意味はなくなる。人生を搾取され、こうあるべきという理想をなぞることでしか生きられなくなる。誰かがやらなきゃ変わらないのよ」
「でも…それでも他にやり方があったはずだ…他人を傷つけてまでやる事ですか…!」
「そうまでしないと変わらないってことなんだけど、あなたとは分かり合えないわね」
「そうみたいですね…ケンケン…力を貸して…!」
森田とミランダは攻撃の応酬で打ち合う。武尊は立ち上がりながら森田を見る。
「森田…!」
「いい加減にしなさい!」
ミランダの渾身の右の打撃が森田の顔面にヒットする。森田がよろけた。
「重愛!」
「…!!」
引き寄せられた森田の腹部にミランダの蹴りが突き刺さる。
「ガハッ…」
森田はその場に倒れる。
「森田!」
駆け寄ろうとした武尊に、森田は膝をつき、手で制するような形をとる。
「よく分かった…あなたにはあなたの正義がある。それが中途半端な気持ちじゃないこともわかった。だから頭ごなしにあなたのことを否定するつもりはない。でも…僕には僕の正義がある。僕は友達を傷つけられることを黙って見てはいられない…!」
森田は立ち上がり、構える。
「まだ立つのね…もう諦めなさい!」
森田はミランダに引き寄せられる。
「森田!!!」
「鳥獣の型、一葉…」
森田は翼で身体を反転させ、回転する。
「!?」
「雉神楽!!!」
ミランダの首筋に森田の鉤爪の蹴りが直撃する。引き寄せられる力と回転の遠心力によって生まれるその威力は、ミランダを勢いよく吹き飛ばした。ミランダは強く壁に打ち付けられ、その場に倒れた。
「あなたの気持ちは分かる。でも、僕は友達を助ける…!」




