膠漆獣衣
「現示物語、膠漆獣衣…!!」
「あら、そんなこと出来たのね?」
膠漆獣衣。従来の森田の顕現より濃度を調整し、完全顕現の少し手前で固定する。サルの腕、キジの翼、イヌの足のみを顕現し、森田自身の身体へ憑依させる、森田自身が自ら戦うための新しいスタイル。
「森田…それって…!」
「今まではジョージ達が顕現して戦ってくれていればそれで十分だと思ってた。でも、前澤さんに言われた通り、僕自身は戦えない。鬼ごっこの時も、三浦さんに僕自身が狙われてポチに守ってもらってしまった。それでは意味がない。みんなの足を引っ張るだけの状態だった。でも、これなら僕も戦える…!」
武尊の中で、森田に対する感嘆する感情と、置いていかれている実感が重くのしかかっていた。
「武尊くん、前澤さんは厳しくああ言うけど、大丈夫。キミはまだ出来ることが分からないだけだ。理解すればいい。僕たちと比べて、キミは能力に触れている時間が極端に短い。出来ることを探して。とりあえずここは僕がやる…!」
「すまねえ…。」
「何を言ってるんだ、友達でしょ。」
「熱い友情…青春ね。さあ…やりましょうか!」
ミランダが踏み込んで突進してくる。
「武尊くん、嫌だと思うけど僕の後ろにいてくれ!」
「…わかった…!」
ミランダの右の打撃を森田は猿の手で受け止めた、はずだった。森田の両手はミランダの右腕を避ける。
「え?!」
ミランダの拳が森田の顔面へヒットする。
「なんだ…今の感覚…?」
再度ミランダの腹部を狙った蹴り。森田は腕でガードする。ガードはミランダの蹴りをまたしても避ける。
「!?」
ミランダの蹴りが森田の脇腹へ直撃する。
「がッ!」
森田は窓枠へと吹き飛ばされる。
「森田!!!」
「っ…!なんだ…ガードが『できない』…!」
「え!?」
「くっ…!」
森田は立ち上がり、ミランダへ攻撃をしかける。
森田の打撃はミランダの頭部を狙う。ミランダは避ける素振りを見せない。
「よし!当たっ…」
武尊の期待とは裏腹に森田の攻撃はミランダを避けるように逸れた。森田の攻撃は奥の氷の壁にあたり、氷の壁を崩した。森田はミランダに振り返る。
「…!どうして…!」
「そんなの決まってるじゃない、私が魅力的だからよ」
「ふざけないでください…!」
「ふざけてなんかないわ、無傷乃愛、れっきとした私の力よ。私の力は『魅力』。私の魅力にあてられたものは私に傷をつけられない。」
「魅力…?!」
「魅力的すぎるのも罪よね…♡」
「前澤さんの氷は…?」
「言ったでしょ、魅力にあてられて私に傷をつけないように避けたって話。」
「そっちじゃなくて…どうやって溶かしたんですか…!熱関係だと思ってましたけど…」
「私の力の副産物なのよね、私から触れたものは『火照る』みたい。」
「無茶苦茶な…!」
「今更何を言ってるのよ。この世界、こんな力が突如として現れてからそもそも無茶苦茶なのよ。力を持っているものと、持たざる者。持たざる者を守るために、持っているものを規制し、管理し、押さえつける。それがこの世界のやり方なの、おかしいと思わない?力を持つものは、それを使うために免許なんてものを取らされて、国に奉仕することを強制させられる。自由に生きるという選択肢を洗脳で除外する。そういうやり方、息苦しいと思わない?」
「そうしないとあなた達みたいなのが現れるからでしょう…!」
「やだ、悪者に見えてるの?私たちは能力者を解放しようとしてるのよ。縛られて制限されるこのルールから。その為にあの権藤という人が必要なの。」
「真樹は…!」
武尊が問う。
「真樹はなんで…!」
「ああ、あの女の子?知らないわよ、藤丸くんが進言したみたいだけど。何のためかは知らされてない。志は同じでも私たちは友達じゃない。それに、果核の人たちが考えてる事は私たち末端には分からない」
「言いたいことはわかりました。あなたの言っていることも一部理解出来る。でも…」
森田が立ち上がる。
「あなた達は僕たちの友達である久瀬くんを傷つけた…!」
「友情…ね。知ってる?友情って愛より脆いのよ」
森田の手足が揺らめく。
「脆いかどうかは知りません…ただ僕は友達を傷つけたあなた達を簡単には許せない…!」
森田がミランダに飛びかかる。
「学ばない子ね…」
森田の蹴りはミランダを避ける。その後も攻撃を繰り出すが、ミランダには当たらずに空を切る。
「当たらないって分からないの?!」
ミランダの打撃が森田に直撃する。
「ぐっ…!」
森田はまたも吹き飛ばされた。
「森田…!」
武尊は前澤から受け取ったライターを振るうが、微弱な炎が風に揺れ消えた。
「くっそ…!こんな時に俺は…!」
すると森田の翼がバサバサと羽ばたく。
「な、なんだ?!」
程なくしてどこからともなく声がする。
「まさよ……まさ…まさよし!!」
「?!」
森田が耳を傾ける。
「あなた、なにしてるの!?」
「この声…ケンケン!?」
「やっと気付いた!?私が全然意味ないじゃないの、なんなのこの翼は?飛ぶ気もないくせに」
「いや、ケンケンといえば翼だから…っていうかその状態で喋れるの?!」
「そもそも最初からキジが喋ってるんだからその辺はもう目瞑りなさいな」
「まあ、そうか…」
「ジョージとポチは多分ダメ。私に任せなさい。あの女に教えてやるわ、本当の魅力」
「どういう意味…?」
「ポチとジョージは戻しなさい。私だけを憑依させるの。あなたは私たちのことを考えすぎるあまり、全員をそれぞれ憑依させることばかりを考えて、なにも活かせてない。今のあなたは、ただ私たちを身体に貼り付けているに過ぎない。まずはそれぞれがどう戦えるかを理解するべきよ。今回は私に任せなさい。」
森田は手足の憑依を解く。ジョージとポチは本の中へと戻っていく。
「背中の私をそのまま拡張するのよ。私の姿を想像して。手足にイメージする…」
背中の羽から墨が手足へ伸びていく。手足は鳥の鉤爪へと変化した。
「変身?意味ないと思うけど…♡」
ミランダが森田へ飛びかかる。ミランダは森田の顔面へと蹴りを放つ。
「森田!避けろ!!」
武尊が叫ぶ。
ガンッ!!
森田の左腕がミランダの蹴りを防御した。
「?!」
「え?!」
森田とミランダは同時に驚く。
「なんで…さっきまで防御もできなかったのに…」
すると森田の変化した足が勝手に動きだす。
「うわっ!」
バランスを崩した森田の上半身は翼で立て直される。
「な…!?」
ミランダを森田の手の爪による攻撃が襲う。
「無駄だって言っ…」
森田の打撃はミランダの右肩を捉える。ミランダは右肩から滴る血を見る。
「どういうことなの…!」
ミランダは森田を睨む。
「いや、僕にもどういうことなのか…これは…ケンケン…?」
「当たったわね…やっぱり男にはあの女は相手させられないわ…」
ケンケンが言う。
「どういう意味…」
「あの女の魅力は男に対して大きく力を発揮する。私にはあの女の力は通じない。ここからは女の喧嘩よ」
「膠漆獣衣、鳥獣の型!」




