対敵
数時間前、AdamTerrace拠点『家』。
「場所を移動する?」
神田は藤丸に聞き返した。
「うん。念には念をだ。ここで権藤の記録の引き出しをしてもいいんだけど、あれだけ大袈裟に事を起こしたからね。管理局も警察も動くだろうが、各地の萌芽の事件が効いてる。それよりも警戒すべきはWLSの教官数名と前澤、特に前澤は権藤のことになると何をするか分からない」
「ずいぶん買ってるんだね、前澤を」
「買ってるんじゃない。あれは何にも与しない猛獣だよ。獣は敵を見つけたら噛み付くだろ」
「僕がいれば負けることはないけど…わかった、じゃあ場所を移動しよう。全員を招集してくれ」
「いや、全員で移動しなくていいと思う。宍戸とミランダ、果核の高円寺はここに置いていこう」
「?」
「誰でもいいけどここに仮に到達した人間がいた場合、誰もいないとなるとすぐにまた別の捜索が始まる。ただ、もし数人がここにいた場合、心理的にここが本丸だと錯覚する。特に宍戸のような好戦的な人間を見張りの位置に配置しておけば尚更だ」
「なるほど、藤丸は狡猾だね」
「知略的と言ってほしいね」
「わかった。権藤とバニシングポイントを連れて移動しよう。俊以外の果核、宍戸とミランダ含め萌芽数名はここに置いていこう」
「灯台下暗し、何か起きたらすぐに察知も出来るように同ブロックに拠点になりそうな場所を見つけてある、そっちに移動しよう──」
「斬塔!!」
「呪蹴梦…!」
久瀬は宍戸の斬撃をかわし、宍戸の腹部に蹴りを叩き込む。
「ぐっ…!」
宍戸は後ろへ引きずられるように後退した。
「クソが…!」
宍戸は久瀬を睨む。
「怨霊調節」
禍々しい空気があたりに充満する。
「あなたは恐怖に疎いようですね」
「恐怖?なにを言ってんだお前は」
「恐れですよ。あなたからはそれを感じない」
「なにを恐れることがあんだよ」
「そうですか…花子!」
「はあ゛い」
久瀬の横に花子が現れる。
「なんだその女は?盾か?」
「花子、彼は怪異を恐れてない。みんなもいないし、普段通りでいいよ」
その言葉を聞いた瞬間に久瀬のまわりを揺蕩っていた禍々しい空気が花子に収束し、弾けた。
「え?いいの!?」
「うん、彼には意味を成さない」
「やった!いつもいつも嫌なのよね!あの声出すと喉も痛いし、そもそも可愛くないし!この目にかかった髪の毛も邪魔だし…!」
花子は顔の前にかかった髪の毛をかき分ける。
「よし、これでいい!可愛い?涼太郎!」
「集中はしてくれ、花子」
「いいじゃん…久しぶりに普通に外出られたんだから!ケチ!」
久瀬と花子のやりとりに宍戸が言う。
「お前、どういうつもりだ?そんなクソやかましい女連れ出して、ナメてんのか!?」
「ほら、花子。怒ってる。」
「わかったわかった、ちゃんとするよもう…」
「閉扉綴」
宍戸の周りを多数の扉が囲む。
「…!?」
宍戸は驚いて後ろへ飛んだ。
「先ほどまでは僕の力だけで使用していた術。例えばその扉は出せて同時に2つが限界でしたが、花子が顕現している間、僕らの力は共有される。先ほどまでの術の質量は単純に倍になります。」
「そうかよ!関係ねえな!それごと叩き潰し…」
その瞬間、宍戸の背後に花子が現れる。
「な!?」
「呪蹴梦ゥウ!!」
「がっ!?」
宍戸の頭部に花子の蹴りがクリーンヒットする。宍戸は蹴り飛ばされた。
「瞬間移動か…ややこしいなクソが…!切斬舞威…斬雨!!」
宍戸の高速回転する両腕から斬撃が飛び散る。
「…!!」
久瀬の肩を飛ぶ斬撃がかすめた。
「涼太郎!」
「大丈夫だよ花子、かすり傷だ」
「あいつゥ…!!」
「なんだよ、2人がかりでそんなもんかザコが!とっととくたばれよ!斬雨!!」
またも飛ぶ斬撃が久瀬と花子を襲う。
「閉扉綴」
「閉扉綴ァ!」
久瀬と花子は同時に言った。斬撃の先に扉が複数現れる。扉が開き斬撃は扉の中に吸い込まれる。
「なんだ!?ややこしいなクソが…!」
「ひゃっほーう!」
花子はその中の一つの扉の中に入る。
「!?」
花子は宍戸の近い位置の扉から再度現れる。
「スクロール!!」
宍戸を細く長い紙の連なりが巻き込む。
「んだこれは…!!」
「アーンド…ベンザブロック!!」
U字型の枷が宍戸の両腕を地面に打ちつけた。
「?!」
「はい、終ーわり!!」
花子は宍戸に蹴りを落とす。
「終わってねェよ!斬塔!」
宍戸は地面に拘束されながら地面をえぐり、拘束を解いた。
「うわぁ!」
花子は砂埃を払い、久瀬の隣へ戻る。
「ねえ!涼太郎!目に入った!砂!」
「集中してくれ花子」
「テメェら…もう謝っても殺す…!!」
「地下ってどうやって探せば…」
森田の問いに郷原が答える。
「手分けするか!?」
「ダメだ、俺から離れるな」
前澤はすぐに郷原の意見を退けた。
「メガネはともかく、お前は未知数、息吹はまだ未熟だ。どんなのが出てくるか分からねえ以上、俺から離れる方が危ない」
「やっぱり俺…足手まといなのか…」
武尊はグッと拳を握る。
「ここまできてお前のメンタルケアなんかするつもりはねえぞ、保護者じゃねえんだ、それが悔しいならお前が成長してみせろ。お前の幼なじみを助けてえって気持ちはそんなに簡単に折れちまうもんなのか」
前澤の問いかけに武尊は言葉を返すことができない。
「前澤さん、そんなに言わなくても」
森田が言うと同時に部屋に差し掛かる。中に立っていた女に前澤が言葉を発した。
「お前は?」
「あら?お客さん?いらっしゃい」




