いざ敵陣②
「は?!4人が一気に病休申請?!」
佐久間は驚いたように言う。
「久瀬、森田、息吹、郷原の4人…なにかウイルス性のやつかしら…あなた達も気をつけなさい!」
佐久間は37期戦闘班の教習を行っていた。
「あの4人が病欠って…考えられる?」
柿沼の言葉に対し、三浦が答える。
「なんか怪しいよね…なにかしてるんじゃ…?」
「あいつら…!」
小田桐は拳を握り机を叩いた。
「仲間じゃなかったのかよ…!あたしも連れてけよクソ…!!」
「小田桐さん…?」
三浦が驚く。
「帰ってきたら絶対ボコボコにする…!」
「小田桐さん、なにか知ってるの?」
三浦が問う。
「知らされてねえから怒ってんだろうが…!」
「…?」
「お?なんだ正義の味方の登場か?」
「安い挑発してんじゃねえ…真樹、返してもらうぞ…!」
構える武尊を前澤が制す。
「見張りってとこか、ここでデカい音でも出して警戒されるわけにはいかねえ。ここは俺がやる。あの奥に建物が見えるだろ、多分あそこに権藤さんと宮國がいる。お前らは侵入できそうなところバレないように探っとけ」
前澤が前に出ようとした時、それを遮るように久瀬が前に出た。
「前澤さん、あなたは先に行ってください。時間がない、実戦経験が豊富なあなたが先に行った方が都合がいいでしょう」
「もう大丈夫なのか?」
「そのための同行です。二回目はない。」
「厳しいな…自分に」
前澤はフッと笑った。
「何をごちゃごちゃ言ってんだァ?早くやろうぜ!切斬舞威!!!」
手首が唸りを上げるように高速回転する。宍戸が一直線に踏み込んだ。それと同時に久瀬が飛び出した。
「呪蹴梦!!」
久瀬は宍戸の腕を蹴りで払う。
「行ってください!」
久瀬の号令に合わせて全員が駆け出す。
「頼む!久瀬!」
すれ違いざまに声をかけた武尊に、久瀬は目を合わせなかったが、久瀬から漂う覚悟を武尊は確かに受け取っていた。
「怨霊調節、閉扉綴」
宍戸の両脇に扉が現れる。
「なんだァ?こりゃあ……!」
その扉の外側から4人は駆け抜け侵入する。
「行かせ…」
「水洗禍…!」
宍戸が振り向いたその先には大きな水の渦が現れる。
「くそ…なんだよこれは…!?」
宍戸が扉から伸びる手を避けながら渦をかわした後にはすでに4人の姿はなかった。
「お前が俺の相手ってことか…お前は一回死にかけてるよなァ?勝てるつもりか?病み上がりがよ」
「いくよ、花子」
侵入した4人は廃校のような建物の前に到着した。
「久瀬…大丈夫かな…」
「お前はなんにも分かってねえな」
武尊の心配に対し前澤は答える。
「経験値こそ未熟かもしれねえが、素の力はお前らの中で頭ひとつ抜けてる。俺とでもいい勝負だ。」
「え…?!」
「さすが名家ってところだな、あれで家系由来の継承術だろ、寒気がするぜ」
前澤はタバコに火をつけた。
「ちょ、前澤さん!こんなところでタバコなんて」
「しっ!黙ってろ、なるべく息吐くな」
前澤はタバコを建物に近付ける。
「こっちだな」
前澤はゆっくりと煙の向く方へ歩き出した。
「な、なにをしてるんですか?」
建物に沿うようにタバコを這わせながら前澤は言う。
「隙間があれば空気の流れができる。煙はそういう流れに乗る。」
前澤は大きな鉄の扉の前で止まった。
「ここだな」
前澤はふーっと息を吐く。
「千手寒音…!」
前澤が扉に触れるが、何も起きない。
「前澤さん…?」
森田の声にも反応せずに前澤は目を閉じた。その姿を見て、3人は押し黙った。扉の中からなにかが当たるような音が聞こえる。数秒後、金属の外れる音がした。
「よし…」
前澤が扉に手をかける。扉は重い音を立ててゆっくりと開いた。
「え…!?」
開いた扉の内側には氷の粒が付着している。
「どうやって…!」
「扉の中に氷で作った手みてえなもん作って、それを中から開けたってだけだ」
「そんな使い方が…!」
驚く郷原に前澤が答える。
「何度も言うが能力ってのは理解すればするほど、使い方ってのは増えてくんだよ」
「やっぱり経験値が全然違う…!」
圧倒的な戦闘スキル。能力への理解。武尊は前澤との差を嫌というほど思い知らされていた。
「とにかくあとは誰にも会わずに2人と合流できりゃ一番だが…そうもいかねえだろうな、とりあえず探すしかねえが…これだけ広いとアテもなく探し回るのはどう考えても悪手だ、どうするメガネ」
「えっ?!」
森田は急な前澤の問いに驚く。そして少し間を置いて話しだした。
「あくまで推論ですが、見張りを立てるということは外部からの突入と偵察を警戒しているということになります。そして、外からの偵察を警戒しているということは、建物の外側、窓側の部屋に置くとは考えにくい。僕が向こう側なら、建物の中央、もしくは窓のない部屋、例えば地下に幽閉します。地下なら逃げ道も少なく監視しやすい。」
「たしかに!すご……!!」
大きい声を出そうとした郷原の口を武尊が焦りながら抑える。それを見ながら前澤が言う。
「見かけ倒しじゃねえな、メガネ。よし、建物の中央って線は後に回す。まずは地下があるかどうか探すぞ」




