良きお家のお方②
「久瀬を引き込む…?」
「うん。彼に協力してもらおう。戦力として彼がいるのといないのとでは雲泥の差だ。」
「でも、どうやって」
「それを一緒に考えようって話だよ」
一方、医務室。
「怪我の具合はどうだ、久瀬の坊」
「その呼び方はやめてください、柳当主」
休んでいる久瀬に柳が声をかけた。
「柳当主、か。ここでは一応教官なんだがな。先生と呼んでくれても構わんのだぞ」
「そのようなことは出来ません」
「頭の固さは父親譲りか」
「ご要件は」
「賊軍についてだ。なにかわかっていることはあるか」
「宍戸という戦闘員。奴は手首より先の手指が刃物に変わる能力のワンダーでした。自身を萌芽隊と名乗っていました」
「萌芽…」
「藤丸聖は果核二番だと。彼の能力についてはWLSが把握している以上のことは分かりません。」
「萌芽と果核か…そして二番。番手のようなものが存在するのか」
「宍戸よりも藤丸が上官だという印象でした」
「果実のように外側の萌芽、そして内側に位置する果核という序列というわけか」
「話している内容などから分かった情報はそれぐらいです」
「AdamTerraceと名乗っていたそうだな」
「ええ、その名前には覚えがありませんね」
「私もだ、アレン先生から聞いた話では神田と名乗る若者が権藤所長の略取に関わっているらしい」
「神田…宍戸が言ってました。神田さんに言われている、と」
「ではその神田が少なくとも萌芽の頭、もしくはそれ以上というわけだな」
「恐らくは。」
「分かった、花澤先生の治療で治ったとはいえ、彼の治療には体力がいる。今は休んで教習に戻れるようにするんだな」
「分かってます」
「寒十郎は達者か?」
「祖父とWWAの案件で海外へ。もう2ヶ月ほどは顔も見てません」
「そうか、WWA所属も多忙なのだな」
「私も早くライセンスを取得して、追いついてみせます」
「そうか、期待している」
同刻、AdamTerrace拠点『家』
「所長さん!?」
「キミは37期生の……!?」
全面がコンクリート覆われた地下室。湿度が高く、埃っぽさのあるその部屋は、無造作に置かれたロウソクの火のみが明かりを灯していた。
「なんで所長さんが…?!」
「未来のためさ」
真樹の腕を取っていた藤丸が答えた。
「未来未来って、なんなんですかさっきから」
「そのままだよ。宮國さん、この世界はおかしいと思わないかい?」
「なにがですか…!」
「体制だよ。今や多くの人間がそれを常識として捉え始めてる。常識はやがてもっと深く浸透して、そして常識は真理になる。」
「何を言っているのか分かりません…!」
「じゃあもっと簡単に説明しよう。この星ができて、人類が生まれたその瞬間から、我々は能力なんてものが使えたと思うかい?」
「はい…?」
「知ってると思うが使えなかった、が正解だ。どういうわけかこの能力というのはおよそ160年前に突如として報告された変異だ」
「知ってますよ…それぐらい学校で習うから…!」
「そこに疑問を持たないことがおかしいって話だよ。元々存在しなかったものが、160年前に急に現れた。だが原因は不明。学校教育なんてこんなもんさ」
「そうですけど、それが?」
「元々この星に存在しなかった能力。その変異の原因が僕らと同じ人間によるものだとしたら?」
「……?!どういう…」
「それを確かめるために、彼がいる」
藤丸が権藤を指す。
「その子はなんの為だ。人質か?」
権藤が問いかける。
「貴方と同等に、始点の林檎構想、僕らの理想の為ですよ」
奥の階段から降りてきた神田がその問いに答えた。
「おかえり、光希」
「藤丸、そいつが言ってたバニシング・ポイント?」
「ああ、そうだ」
「バニシング…?」
権藤が言った。
「あだ名みたいなものですよ。あなたとこの子では役割が違う」
そう言って藤丸は柱に縛られた権藤の横を通り過ぎ、奥にある部屋に真樹を押し込んだ。
「…っ!」
勢いで真樹は床に倒れる。
「宮國さん、キミはまだ自分のことが分かっていない」
「どういうこと…?」
「君のその能力は、世界を根本からひっくり返せる可能性がある。」




