vanishing point
裏切り…!
「宮國さん!」
37期医療班、光本和真は目を必死に開きながら声を上げた。微かに見える真樹の方へ近付く。
「斬塔」
「うわぁ!!」
光本の肩口を宍戸の斬撃が通り抜けた。光本は肩を抑え、その手からは血が流れている。他の教習生の悲鳴があがった。
「ん?斬ったと思ったが…まあいい、勝手に動くんじゃねえよ、次は腕落とすぞ」
「光本さん!」
駆け寄ろうとする真樹の肩を藤丸が抑える。
「宮國さん、これ以上はやめよう。必要以上に傷つけるつもりはない。一緒に来てくれ。」
「藤丸さん…どういうことか説明して。」
「もちろんさ、僕たちの『家』でしっかり説明するよ。」
「家…?」
「ああ、とにかく行こう。これ以上友達が傷つくのを見ていたくはないだろう?」
真樹は肩から血を流して倒れている光本と怯える同期たちを見た。
「私が行けば、誰も傷つけない?」
「もちろんさ」
「ダメ!宮國さん!」
うずくまり、震える声で石川愛が声をあげる。
「愛ちゃん、大丈夫。ちゃんと藤丸さんとお話してくる。」
「物分りがよくて助かるよ」
藤丸はニコリと笑った。
藤丸の後を追うようにして、真樹は扉から出ていった。
「なんということだ、これだけの教官がいながら所長と教習生が連れ去られるとは」
ワンダー社会において久瀬家と同等に名を知られる名家のひとつ、その名家の現当主であり、WLS臨時外部教官の柳宗憲は言った。
「賊軍の目的は」
「所長と、37期医療班、宮國真樹の略奪。それ以上のことはなにも」
柳の問いに松岡が答える。
「教習生に怪我人も出したそうだな」
「はい。37期戦闘班、久瀬涼太郎、同じく37期医療班の光本和真。両名ともに花澤教官の治療済みで、光本は軽傷だったため、医療班にすでに合流、久瀬は現在安静にしているところです。」
「久瀬の坊か…我々が外に出ている時にこんなことが」
「それが目的だったのでは」
柳の言葉にアレンが返す。
「というと…?」
「今回、関東地域で7箇所同時多発的に起きたワンダー事件。あれは陽動だったのではないか、と」
「ここの戦力を外に出すためということか」
「あくまで推論にはなりますが」
「周到、内情を把握しているな」
「37期、藤丸聖。奴がここに派遣された諜報員でした」
WLSには警察の捜査が入っていた。
それぞれの教習生たちにも警察の事情聴取がされ、事件概要は見えてきたものの、今回の大規模ワンダー事件と、所長と教習生1名がテロ集団に連れ去られるというWLS設立以来の大事件。
この情報は、国民の混乱を招く可能性があるとして、能力管理局の管轄となり一部の『規制』を以て報道されることとなった。
教室には医療班と戦闘班が合同で集められていた。教壇の松岡は37期生に向かって話し出す。
「今回のことだが、もう知っている通りだ。所長と医療班の宮國が連れていかれてしまった。現在、警察と能力管理局が捜査にあたっている。我々にできることはない。このまま教習を続けたいと思っている。」
「無理でしょそんなの…!」
武尊は机を拳で叩いた。
「息吹、お前は宮國と幼なじみだと言ってたな。お前の気持ちも分かる。だが、我々としても仲間と所長を連れ去られたんだ、悔しい悲しいなんてもんじゃない。こういうことが起きてしまった以上、我々に出来ることは教習を滞りなく修了し、プロワンダーとして他に犠牲者を出さないようにすることだ」
「正論はいいっすよ…!大丈夫だって言いましたよね…!」
「ああ、言った。だからこうして全員集まった。」
前の扉から教官たちが入ってくる。
「今回の件、君たちを守りきれず申し訳ない。」
教官たちは全員頭を下げた。その姿を見て、教習生たちの中に叱責するものはいなかった。
「くっそ…なんで真樹だよ…!」
「我々としても早急な解決に出来る限りの協力はしていくつもりだ。それぞれの心中お察しするが、くれぐれも教習に集中をして欲しい。今回の一件で外に出ていた教官も帰ってきている。これ以上君たちを危険な目に合わせたりしない。」
やり場のない怒りが武尊の中に充満した。教官たちが出ていく中で、机に伏せて強く拳を握った。
「息吹さん」
突然後ろから声をかけられ、振り返る。
「はじめまして、医療班の光本と言います。宮國さんの居場所、僕なら分かります。」




