重圧
久瀬はニコリと笑う。
「ずいぶん余裕だな、これで花子は封じた…!」
「封じた…?」
花子はゆっくりと前へ歩き出す。
「瞬きの瞬間にしか動けないなんて言ってませんよ。捉えた視界の中から完全に消えるその一瞬に、目的地へ瞬間的に到達する、というだけです。」
「なるほど!よっぽどオバケだな!ハッハッハ!」
久瀬は花子を前に置く。
「閉扉綴」
「くっそ…ヒューマロッ…!」
久瀬の前に現れた扉に花子が入っていく。それと同時に武尊と郷原の両脇に扉が出現する。その扉がゆっくりと開く。
「!?」
2人は一斉に後ろへ下がる。扉の間にいた石人形が扉の中へ引きづり込まれる。
「そんなことも出来んのかよ…!」
扉は次々と出現する。武尊と郷原は扉から逃げまわる。
「捕まったら終わりだろうな!これは!」
「だろうな…とにかく逃げねえと…こんなんじゃ集中できねえ…」
「壊してみるか?!」
「おい!やめろバカ!」
「デ・コ・ピ・ン!!」
郷原の放ったデコピンは空を切る。郷原が引きづり込まれそうになる。
「お前っ!!!」
武尊が郷原の腕を掴み引き戻した。
「お前オバケに物理で対抗すんなよ!マジで脳みそまで筋肉か!!」
「だがこのままではどうにもならんぞ!!」
「三散苦吐」
久瀬は郷原に近付き拳を連打する。
「なんのこれしき!」
防御する郷原がカウンターを狙う。
「そんなものは効かん!!デコピン!」
「閉扉綴」
また扉が現れる。
「くっ…!」
郷原が攻撃をやめ、前へかわしたと同時に久瀬が郷原のボディへ向けて殴打する。
「力では負けんぞ久瀬くん!」
郷原は力を込める。その瞬間久瀬の殴打は郷原の腹部へ直撃した。
「ぐぅ?!」
郷原は後ろへ吹き飛んだ。武尊が驚くように言う。
「郷原が力負けした!?」
郷原は肩の風船を守りながらすぐに起き上がる。
「…!殴られてこんなに吹き飛んだのは初めてだぞ…!」
「三散苦吐、三撃目の威力を三乗する。先程僕の打撃を郷原さんはガードして受けました。今のが三撃目です。これですぐに立たれたのは初めてですが…驚くほど頑丈ですね郷原さん」
「万能かよ久瀬…!」
「いえ、キミと違って理解が深いだけです。」
「みんなして理解理解とうるせえなあ…!ヒューマロック!巨人!」
武尊は再度石の巨人を構築する。
「武尊くん、キミはこれで一体何をするつもりなんですか?」
「は?どういうこと…」
「石の巨人、確かに面白いアイデアだ。初見なら驚きもするでしょう。ですが、このデカイだけの人形を出して、こちらの動きに集中すると、キミ自身への集中が削がれる。」
「だから何を言って…」
ヒュッ!
武尊の足に石がコツコツと当たる。
「やば…」
「こういうことです…!三散苦吐!!」
「ぐぁあ!!!」
「武尊!」
郷原は吹き飛ぶ武尊をキャッチする。
「痛ってェ…腕イッたろこれ…!」
「加減はしましたよ。武尊くん、キミはどうにも意識が定まっていない。」
「どういうことだよ…」
武尊は腕を抑えながら答える。
「テレビゲームで例えましょうか。キミは格闘ゲームをしている最中に、後ろから殴りかかられてもそれをかわせるんですか?」
「…なに?」
「今キミがやってるのはそういうことって話です。目の前のキャラを戦わせるのに、幾つものコマンドを入力しなくてはならない。そこに脳のリソースを使っているから、自分自身への集中が疎かになる。」
「郷原さんは逆に、自らの身体であるが故に、出力は自然ですが限界も自分で決めてしまっている、という感じですか。偉そうに講釈を垂れるつもりはありませんが、同じ戦場に立つなら、今のままではとても背中は任せられない。」
「さすがだな久瀬家…!」
「家は関係ないと言っているでしょう。僕は僕のやり方がある。」
「んな事言われたってどうすりゃいいんだ…」
「武尊、ヒントになるかは分からんが、俺の能力は身体能力向上だ。今の久瀬くんの話で言うと、俺は能力で全身に力を込めたりはしない。」
「ん?どういう意味…」
「殴るなら腕、蹴るなら足、守るなら腹といった具合にな、それぞれの箇所に集中する。これは無意識といってもいいな。」
「さっきも言ってたなそれ…」
「武尊くんには僕らと決定的な差がある。それは僕らは生まれた時からこの能力と一緒だということ。長くいるからこそ、理解は深まる。武尊くんはつい最近だって言ってましたね。まだ借り物のような使い方をしている。誰かに借りたのではなく、それは自分の力ですよ」
別の物だという意識があるから良くない…?ゲームのキャラクターとして、操ろうとするから。自分自身の手足を動かすのに意識を割くことはない。それと同列にする…?自分の能力は自分の手足と同じ…。
「生命判断…!」
武尊のまわりの石が武尊の肩部分にゴロゴロと集まっていく。その石はもう二本の『腕』となり、武尊の肩から伸びている。武尊はその石の腕で地面を押して立ち上がった。
「なるほど…自分の身体として力も扱えってことか。自分の意識の外じゃなく、無意識に落とし込めるように。今の俺にできる、限りなく無意識に近い形──。さすが久瀬…! 郷原もありがとな。だいぶ分かってきた気がする…!」
武尊の肩部から石の2本の腕がゆらゆらと揺れる。
「これが今俺が出来る最大限の『無意識』!」
「ヒューマロック・シヴァ!!!!」
残り20分。




