プロワンダーになるためには
この社会の仕組みが分かる回です。
中に入ると、外から見るよりも更に広く感じる。こんなに広大な建物だったのだと改めて実感させられた。
「これは…すごいね」
真樹が口をあんぐりさせてキョロキョロしている。
「やめろ、田舎モンみたいだ」
「武尊もびっくりしてるくせに」
「あれ?37期の人?」
声が聞こえた先に大人の女性が立っている。
「37期…?」
「今回の募集で来た人?」
「そうです!」
真樹が答えた。
「それならこの先の突き当たりの部屋だと思うよ、説明会があると思うから。部屋の前に能力に関する事前アンケートがあるから記入と提出忘れないようにね。」
「そうですか!ありがとうございます!」
武尊は黙って2人のやり取りを見ている。
「私ここの教官の佐久間です。よろしくね」
「よろしくお願いします!」
真樹と武尊は去っていく佐久間に会釈した。
「あっちだね」
真樹が先導で言われた通り突き当たりの部屋へ向かう。部屋の外にアンケート用紙と記入用の机がある。
氏名:
能力名:
能力の内容:
主な使用用途:
武尊は迷わず書き込む。
生命判断
「能力の内容ってどこまで書くの?」
真樹が尋ねる。
「知らん、適当」
「じゃあ適当でいっか」
記入を済ませ、机にある提出用のボックスに投函する。部屋の中には段差ごとに大きな机が立ち並び、まばらに数人が座っていた。この広さには似つかわしくない少数。
「失礼」
あまりの広さに呆気にとられている2人の後ろから声がした。
「…!すみません。」
咄嗟に道を譲るように2人は間を開ける。
「ありがとう。君たちも今回の応募者かい?入って座ってたら良いみたいだよ。」
「あ、ありがとうございます。」
こういう時は決まって真樹が対応する。この役回りは昔からで武尊はいつも関係ないみたいな顔をしている。
「僕は藤丸。修了のタイミングは違うかもしれないけど、僕たちは同期だ。一緒に頑張ろう。」
嫌味のない笑顔。薄紫色の長い髪に中性的な顔立ち。パリッとしたワイシャツ姿はいかにも『ちゃんとした人』という印象の男は席に戻って行った。
「あんな人ばっかなのかな」
真樹は少し不安そうに口を開く。
「あんなんもいるぞ」
武尊がアゴで差した先には窓際に座ってボサボサ頭に眼鏡をかけた地味そうな男が本を読んでいる。
「なんか、少しだけ安心するね」
「性格悪いと思われんぞ」
ホッと胸を撫で下ろす真樹の後に着いて行きながら、ガラッと空いた区画の席に2人並んで座った。
「あ」
真樹が何かに気付いたように声を出した。
「どした」
「ほら、あそこ、さっきの人」
真樹が指した先には廊下側の前列に座る仰々しい登場の美男子が座っている。
「あの人も応募の人だったんだね、ここの偉い人の関係者だと思ってた」
「良きお家のお方なのでしょう」
「やめて言い方」
ジリリリリ…
聞き慣れない音のチャイムが鳴り響いた。同時に全身カッチリとしたスーツを着た男が入ってくる。
「皆様ようこそ、WLSへ。今回の説明会を担当いたします、教官のアレン・タカハシと申します。早速ですが、これから皆様にはワンダーについての基礎知識と、ライセンス取得までのカリキュラム、そして、プロワンダーとしての矜恃をご説明致しますので、しっかり聞くようにお願い致します。」
部屋中にピリッとした空気が流れるのが分かる。と同時にまた空気が変わった。
「すいませんっした!!!」
坊主頭にタンクトップ、大きなカバンを肩からさげた筋肉男が部屋に駆け込んでくる。
「すいません!今回の募集に応募した郷原です!遅れてすいませんっした!!」
明らかに暑苦しそうなその男は深々と教官に頭を下げている。
「構いませんよ。好きなところにお座り下さい。」
「あざっす!!」
暑苦しいその男は最前列の教卓の前に着席した。
「普通あそこ座るか?」
「わたしは座らない、というか座れない」
小声で会話を交わし終えた頃に、再びアレンが話し始める。
「では、仕切り直して、これから話すことは基礎であり、皆様の基盤になるお話ですので、しっかり聞くようにお願い致します。」
「はい!」
筋肉男が返事をすることで緊張感が緩む。
「寝たらヤバいかな?」
武尊が小声で真樹に尋ねる。
「ダメに決まってるでしょ」
アレンが続けて話し始める。
「まず、基礎としてワンダーとは皆様のように特殊能力を持つ方々の総称であり、ここ日本での発現率は約0.1%。およそ1000人に1人の割合で存在します。さらにその中でも先天性・後天性の両方が存在し、用途や能力も千差万別です。指先から少しだけ火が出る、数センチだけ浮遊できるものから、即時軍事利用可能なレベルの能力まで様々です。」
「真樹はせいぜいエンピツの濃さ変えたりするだけだしな」
「うるさい、蹴るよ」
「蹴る…?!」
「ワンダーの能力保持はもちろん違法ではありません。しかしご存知かとは思いますが、能力の他者への使用、業務などの商業利用や、公の場で使用するためには国家資格である「プロワンダーライセンス」が必要となります。」
「はい!いいっすか!」
タンクトップ筋肉が意気揚々と挙手している。
「どれぐらいで取れるんですか!」
「期間のことですか?」
「はい!そうです!」
「最短1ヶ月で修了する方や2年以上かかる方もいらっしゃいます。修了率はおよそ70%ですね。」
「70%?」
「途中で辞退される方もいらっしゃいます。理由は様々ですが。」
「ライセンス取得者は私有地以外での能力使用、他者への能力使用、能力を活用した業務が許可されます。ここでいう他者への能力使用ですが、当然傷付ける為の能力使用などは処罰対象です。あくまで能力によって治癒など、対象者に有益な場合や自らの身を守るため、そして社会秩序を保つための使用に限定されます。」
「昨日のは最後のやつだね」
真樹が小声で囁く。
「まあ結果オーライだったけどな」
「また高い専門性を持つ能力は国防・軍事・医療・教育・研究など多くの分野で活用されます。皆様の中には、自分の能力が何に向いているのか分からない方もいるでしょう。ここWLSは皆様にプロワンダーとしての学びを得ると共に、皆様の能力の適正を見定めていただきます。」
「そしてこれもご存知かと思いますが無免許状態で能力を不正使用した場合、能力管理局によって拘束され、『能力使用法』に基づいて処分が決定されます。能力を使用した違法行為や犯罪行為は、能力非所持の方よりも厳しく罰されるようになっています」
先程まで筋肉タンクトップがほぐしていた緊張感がもう一度張りつめた。
「ここまでが大体の説明となりますが、話だけ聞いていても退屈でしょう。事前のアンケートを見る限りこの部屋でも差し支えなさそうなので、早速ですがこの場で皆様の能力を確認させて下さい。」
「よっっしゃあ!!」
タンクトップ筋肉が立ち上がり声を上げた、それと同時にパンッ!という音と共に教室は静まり返った。
教卓の前では、アレンが手を打った姿勢のまま静かにこちらを見ていた。
「……!?」
「なんかあいつ口動いてねえか…?」
武尊が不穏な表情で真樹に言う。
「私もそう思う…。声が…出てない…?」
「安心してください。声が出なくなったわけではありません。郷原さんから出る『音を消しました。』私語厳禁、私の能力です。」
読んで頂きありがとうございました。
次回、天才現る。




