鬼ごっこ③
「郷原…ありがとな」
「なにがだ?」
「俺一人だったら多分やられてた」
「そんなことはないだろう!場所が悪かっただけだ!」
「そっか」
武尊と郷原は小田桐に勝利し、岩場を探して歩いていた。
「てか、岩場の場所ホントに覚えてないのかよ」
「ああ、こっちだったはずなんだが…」
未だに岩場を見つけられずに生い茂る草場を歩く。
「お前はいいよな、場所選ばないから」
武尊は郷原に向けて言う。
「場所は選ばないが、純粋なパワー上昇能力だからな、元々の基礎能力がものを言う。それに比べ武尊の能力は便利でいいな!」
「扱い難しいんだけどな…」
武尊は足元の葉を拾ってクルクルと回す。
「おお!動かせるじゃないか!」
「こんなん出来てもしょうがねえんだよな…」
「二人で仲良くお喋りか!危機感がないな!!」
「!?」
前方からの声に同時に前を向き直す。
「息吹が2つ、郷原は3つか!優秀優秀!!」
「松岡教官…!」
「2人で固まって動いてずいぶん余裕だな!いいのか?」
「好きで2人で動いてるわけじゃないっすよ」
「ひどいな!武尊!」
「では早速いくぞ2人!構えろ!熱血速攻!!」
「くるぞ!」
武尊と郷原は構える。松岡が陽炎にゆらりと揺れ、空気が破裂するような風切り音がする。
パァン!!
郷原の右肩の風船が割れる。
「?!」
松岡はすでに後ろにいた。
「俺の能力は熱血速攻!俺の身体能力、主にスピードを爆発的に向上させる!」
「いくらなんでも速すぎだろ…!」
武尊の頬を冷や汗が伝う。
「この能力相手に逃げるは悪手だな、どうする!武尊!」
「どうするもこうするもねえだろ…」
「まだまだいくぞ!構えろ!」
松岡が再度腰を落とす。
「くる…!」
「浮筋浮筋!」
途端に松岡の蹴りが郷原の腹に突き刺さる。
「ぐぅっ…!」
「なんだ、防御が間に合ってないぞ!トレーニング1週間では足りないか!」
「トレーニングの時は能力使ってなかったっすよね…!」
武尊が言う。
「そういうことを言ってるんじゃない!考えろ!頭を使え!身体は鍛えてやったはずだ!」
「どういう意味…」
「分からん!どういうことだ武尊!」
「ボケっとするなよ!」
またも松岡が腰を落とす。武尊は足元の葉に目を落とした。
「いくぞ!構えろ!」
「やるしかねえ…!」
武尊は松岡の爆発的なスタートと同時に葉を投げた。
チッ!
松岡は郷原と武尊の寸前で直角に曲がる。止まった松岡の顔の切り傷から微量の血が滴っている。
「ほう!なるほどな!いいぞ息吹!」
「な!?どういうことだ武尊!」
「ほぼ賭けだったけどな…あのスピードは武器にも弱点にもなる。普通ならなんてことない落ち葉も、あのスピードで突っ込みゃ反動もデカいだろ、高速の自転車で顔に虫が当たった時痛いのと同じ原理だ」
「なるほど!すごいな!」
「いいぞ息吹!だが、もう通用しないぞ!」
松岡はゆらりと揺れまた爆発的に加速する。
「くっ…!」
武尊はまたも落ち葉をつかみ投げる。その下を潜るようにして松岡の手が武尊の足を掴んで払い上げた。
「うわっ!」
武尊の身体はくるりと反転し地面に背中を強く打ちつけた。
「痛って…!」
「うむ!お前ら!全然ダメだ!!」
松岡が叫ぶ。
「…?!」
「まず郷原!お前は肉体に頼りすぎだ!基礎能力に依存する分、そこを鍛えるのはいいが頭を使え!なんでも力で解決しようとするな!そして息吹!能力に対する理解が甘すぎだ!お前は逆に自身の能力を知らなすぎる!もっと理解を深めろ!」
「なんか…怒られてる…よな?」
「そうみたいだな!」
「ここでお前たちの風船を割り切るのは簡単だが、それでは意味がない。よく考えろ!」
「はい…」
松岡は踵を返し、手で顔の血を拭いながらまた森の方へ歩いて行った。
「痛ててて…」
「だいぶ背中を強く打ったな、大丈夫か武尊」
「ああ、これも松岡先生の地獄の1週間のおかげかもな…」
武尊は背中をさすりながら答える。
「郷原ってどうしてる?」
「なにがだ?」
「能力への理解ってのがイマイチ、ピンときてねえんだよな」
「さっきも言ったが、俺のは身体能力向上だからな、松岡先生と似た性質だ。力を込める、ということに頭を使ったことはないからな。武尊のは自分の身体じゃない分、難しそうだが」
「だよな…能力への理解か…」
「まだ使えるようになって浅いと言ってたな?」
「ああ…1ヶ月くらいだな」
「初めて使った時はどうだったんだ?」
「初めて?」
「ああ、初めて能力を使った時はいつ、どんな時だった?」
「初めては親父の仏壇のろうそくに火つけようとした時、マッチを持ったら火がついた。」
「それは頭を使ったのか?」
「は?どういうこと…」
「マッチは当たり前に『火がつくもの』だろ?無意識にそう思ってる。俺もそうだ。力を込める、自然に力が入る。こういう意識が大事なんじゃないか?」
「真樹も似たようなこと言ってたな…」
「まあ俺には扱いが難しそうで分からん!はっはっは!」
郷原は豪快に笑っていたが、武尊は考えていた。理解、意識。砂や石、葉への意識、理解。石を積むというイメージを意識してヒューマロックを作り、それを人が動くイメージをして動かした。もっと自分の手足を動かすように自然に…?脳の処理を最小化して自然に使えるようにする…。
「武尊!大丈夫か?考えすぎると熱が出るぞ!」
「お前とそんなところで気が合うとは思わなかったよ。そうだな、ありがとう郷原。」
郷原と武尊はまた歩き出した。
残り50分。




