鬼ごっこ
「森田!気合いだ!!」
「は…はい…!」
相変わらず松岡の苦手を克服するフィジカルトレーニングが続いていた。武尊は膝に手をつきながら声をかける。
「きっついすね、これ」
「はあ…そうだね…想像以上…。」
藤丸も肩で息をしながら答える。
「森田くん、生きてる?」
「…はあ…はあ……なん、とか…。」
「あいつらはなんであんなに元気なんすかね」
武尊は郷原と小田桐を指した。
「おいコラ筋肉てめェ!今ズルしたろ!」
「そんなことしない!俺は一生懸命なだけだ!」
藤丸が笑いながら答える。
「彼らはすごいね、フィジカルは抜けてるな」
「もう一週間もフィジカルしてますよ」
「そうだね…そろそろ机が恋しいよ」
松岡が全員にむけ声をかける。
「よし!じゃあ今日はここまで!一週間よく頑張ったな!明日からはこの基礎トレーニングで鍛えたものを実戦形式に落とし込んでいく!」
「まだやるんだ…」
翌日、教習所の裏手に集められた37期生たち。
「流石に広すぎねえか…?」
武尊はあまりにも広大な山か森のようなその敷地に唖然としている。森田が答えた。
「すごいよね、さすがWLSって感じ。」
「よし!全員集まったな!!今日の種目は鬼ごっこだ!鬼は俺とくじ引きで決めた3人を含めた4人!90分、全員先週のトレーニングを活かして本気で追い、逃げるように!」
鬼
松岡・小田桐・三浦・久瀬
逃走者
郷原・柿沼・森田・息吹・藤丸
1.逃走者側は頭と両腕に計3つの風船をつけて逃走する。
2.全ての風船が割られた時点で脱落とする。
3.逃走者側は逃走、潜伏、迎撃を可能とする。
4.鬼側が全員行動不能、もしくは戦闘不能になった場合、逃走者側の勝利とする。
5.制限時間内に風船が残っている場合は逃走者側、残っていない場合は鬼側の勝利とする。
6.松岡の名のもとに能力の他者への使用を許可する。
「チーム分けとルールは以上だ!」
「なるほど、どんな手を使ってでも逃げ切ればいいってことだね」
藤丸が言う。森田が答える。
「そうですね、鬼側もですけど。」
「固まっといた方がいいのか、バラけた方がいいのか」
武尊の問いに藤丸が答える。
「セオリーはバラけた方がいいだろうけどね…」
「じゃあバラケますか」
「了解、健闘を祈る。」
「それじゃ逃走者側スタート後、5分後に鬼側がスタートだ!よーい!スタート!!」
ピーーーー!
「にしても広いな、岩場探さねえと…!」
武尊は広大なフィールドを駆けていた。武尊は荒い息を吐きながら、鬱蒼と茂る森を駆け抜けていた。先週の地獄のようなフィジカルトレーニングのおかげか、足取りは驚くほど軽い。だが、迫る鬼のプレッシャーは、筋肉の疲労とは別の冷や汗をかかせていた。
ルールは単純だが、松岡が「能力の他者への使用」を許可した時点で、これはただの鬼ごっこではない。実戦のシミュレーションだ。
木々の隙間から光が差し込む開けた場所に出た瞬間、武尊は違和感を覚えた。正確には「何か」が動く気配がした。
「……っ!」
咄嗟に横へ身体を避けた。身体の横を鋭い針のようなものが通過し、木に刺さった。
「この能力…!」
「息吹ィ!まずはお前からだ!」
「小田桐…!ずいぶん早えな…!」
「今回は風船割りゃいいんだろ?私が近接だけだと思うなよ…!髪質壊善、ハリカミ!」
硬質化した髪の毛を針のように投げつけ、武尊の風船を狙う。
「あっぶねっ!」
武尊はなんとか横に跳躍し避ける。
「逃げてばっかじゃどうにもならねえぞ!!!」
「くっそ…!」
武尊は横の草場に隠れる。
「息吹ィ!今回は傷つけちゃいけねえなんてぬりいルールもねえんだ!バチバチでヤりあおうぜ!」
小田桐は髪をかけて木の上に登った。
「あの不良女め…!」
武尊は足元の落ち葉に目を向ける。
「生命判断…!」
木の葉が力なくフワフワと浮く。すると直ぐに落ちた。
「イメージ…!葉っぱのイメージ…?どうも印象ねえな…!」
武尊は記憶を反芻する。枯れて落ちる葉、燃える、水に浮かべたこと、風に揺れる。
「風…出来んのかそんなこと…!」
「息吹ィ!いつまで隠れてるつもりだ!そろそろ出てこいよ!」
「くっそ…やるしかねえな…!」
武尊は飛び出した。小田桐はすぐに武尊を視界に捉える。
「やっと出てきたか!観念しろよ!ハリカミ!!」
針のような髪の毛が武尊を襲う。
「生命判断…頼む!!」
武尊は地面に手を当てる。周りの落ち葉がクルクルと小さな竜巻を作り立ちのぼる。小田桐の髪の毛は竜巻にあたり方向が逸れた。
「ほう…?器用なことすんな」
「初めてやってるよ…!」
「風…じゃねえな、風は感じねえ。竜巻みてえに見えるが、葉っぱが回ってるだけのニセモノか」
「とりあえずお前の針はこれで封じた…!」
「だったらなんだよ!」
小田桐は凄まじいスピードで武尊との距離をつめに来る。
「くっ!」
「1個封じられたぐらいでダメになるほど芸がねえわけじゃねえ!カミトリィ!!」
小田桐の髪の毛は竜巻を無視して武尊を狙う。武尊はギリギリで避ける。
「そこだ!!」
小田桐の針が左肩の風船を捉えた。
パァン!! という乾いた破裂音が、森の静寂を切り裂く。
「くっそ…!」
武尊は左肩を抑える。
「この調子であと2つもあたしが取ってやるよ…!」
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