理由
いよいよ大将戦!
「あそびましょ」
武尊と藤丸の間には二つ結びの小さな女の子が立っていた。二人は咄嗟に距離を取った。
「怨霊調整」
久瀬は自らにのしかかっていた石の人形をどかしながら言う。
「能力を使わずにと思ってましたが、負けるわけにはいかないので、すみません。」
藤丸が冷や汗をかきながら返す。
「召喚系ってやつかい…?」
「少しだけニュアンスは違いますが、まあそんなところだと思ってください」
「女の子…?」
武尊は恐る恐る現れた影にようやく焦点が合う。
久瀬は答える。
「聞いたことありませんか?トイレの花子さん」
「ないやついないだろ…!その花子さんってことかよ…!」
武尊は震える膝を叩いた。
「くっそ…止まれ…!!」
「武尊くん、それは仕方のないことです。恐怖は平等に人が持っている自衛の本能なので」
「…!こんなすげえの出来ていいとこの坊ちゃんで、さぞいい人生だったろうな…羨ましいぜ…!」
「家のことは関係ないと言ったでしょう。僕は僕です。僕は僕の力で名を守っていきます」
「家嫌いなのか?」
「好き嫌いの話ではありません。そうあるべきということです。」
「そうかい…色々あんだな。俺にはむずいわ」
「理解して頂かなくて結構ですよ」
久瀬はゆっくりと歩き出し、藤丸のストラップを取った。
ビーーー
「模擬戦終了、久瀬・森田ペア勝利」
「それではみなさん、模擬戦お疲れさまでした。幸い大きな怪我もなく終了出来たことは、素晴らしいことです。ですが小さな怪我であったとしても今日中に治療をして頂きたいので、ある方は医務室へ向かってください。本日の模擬戦成績はこちらになります。」
久瀬・森田 3勝0敗
息吹・藤丸 2勝1敗
小田桐・郷原 1勝2敗
柿沼・三浦 0勝3敗
「なお、今回の模擬戦につきましてはこちらで把握しきれていなかった能力等もあった兼ね合いで、チーム戦力に差が生じてしまっておりましたので、成績に大きな影響はないと思ってください。明日の教習については外の連絡板に貼り出しておりますので、ご確認をお忘れなく。それではお疲れ様でした。」
大林の案内が終了した後、武尊と藤丸は動けずにいた。
「武尊、大丈夫かい?」
「ああ、全然大丈夫っす。」
「そう。医務室行こうよ、僕らもすり傷とはいえ少し怪我もあるし」
「藤丸さんって、なんでライセンス取りに来たんですか?」
「ん?ああ、ウチ貧乏でね…僕がライセンス取って稼がないといけないんだ」
「俺も、ライセンス取って稼げたらいいなって、それぐらいで思ってたんすよね。でもなんか、久瀬の話聞いて親父のこと考えて」
「能力測定の時に喪中って言ってたけど、もしかしてお父さんのこと?」
「はい。久瀬みたいに越えなきゃとかはないっすけど、すげえなって思って」
「まあ、あそこは特殊でしょ」
「そんだけ有名なとこで生まれて、期待もされて、色々言われてきたんだろうなって」
「そうだろうね…僕らには想像もつかないだろうね」
「なんか、せめて親父に胸張れるように生きなきゃって」
「そっか。そうなれるように頑張ろう。」
「……そっすね。」
武尊は微笑んだ。
教習所長室。大林は所長の権藤に報告をしていた。
「今回の37期生ですが、やはり能力の申告不備が見受けられました。やはりすぐの実技模擬戦の実施は功を奏した形になったかと」
「そうか。能力測定だけでは見えん部分も多いからな。」
権藤 厳。ワン校創設時から在籍する創設メンバー。
「具体的に気になるワンダーは?」
「森田正義。彼は過少申告でした。内向的で性格的に戦闘には不向きだろうという判断でしたが、能力がそこを補って余りあります。」
「それと、藤丸聖。彼は能力種別的に見た目では判断がしづらいというのもありますが、底が見えません。恐らくですがまだ何か隠しているかと」
「わかった。注視してくれ。」
「かしこまりました。」
医務室 担当 花澤麗
武尊と藤丸は医務室の前に立っていた。
「こんなベタな名前あります?」
「ザ・保健の先生って感じだね」
「期待しちゃうっすね」
「そうだね」
武尊と藤丸は医務室の扉を開ける。
「失礼しまーす…」
「どうぞー」
医務室の扉を開けると、毛むくじゃらの大男が立っていた。
「あ、すみません、治療してもらいにきたんすけど、花澤先生は?」
「俺の事だが」
「あ、いや、花澤麗先生…」
「俺の事だが」
「……」
武尊は笑顔で扉を閉める。
「武尊?治療しないのかい?」
「いや…いやいやいや…」
「?」
「詐欺じゃないっすか…サギというか熊じゃないすか…」
「何を言ってるの…?」
医務室の扉が開く。
「なんだお前ら、治療せんのか?」
武尊は苦笑いで答える。
「します……。」
「医務室長の花澤だ。」
「はい…そうみたいですね…」
武尊は明らかにうなだれている。それを見て藤丸が微笑んだ。
「どこが怪我だ、見せてみろ」
武尊は腕をまくってみせる。
「ああ、この程度か」
花澤は武尊の腕に指を当てる。そして武尊のすり傷を絆創膏のように剥がした。
「え!?」
剥がした怪我を自らの手の甲に貼り付ける。するとその怪我は微量の煙を吐いて完治した。
「俺の能力は救命措治。他人の怪我を自分に『移植する』。俺自身の治癒能力も上がってるからこの程度の怪我ならすぐに治る。ちゃんと痛てえけどな」
「すげえけど…すげえけど……!」
「けど、なんだ」
「その見た目で名前も能力名も可愛いのはなんなんすか…」
「俺が決めたわけじゃねえ、細かいこと気にすんな」
「細かくないっすよ…ジェノベーゼ頼んだら豚骨ラーメン出てきたみたいな感じっすよ今…」
「意味がわからん」
花澤は藤丸の処置もすぐに終えた。
「また怪我したら来い。すぐに治してやる」
「ありがとうございました…」
「なんか、武尊怪我治る前より元気なくない?」
「なんなんすかあれは…キャラデザふざけてるでしょ…」
「キャラデザ…?よくわからないけど、明日は筆記講習みたいだから早く帰ろう」
「筆記…!勉強……!」
武尊はさらにうなだれながら帰路についた。
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