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ギルド長



レイヴン冒険者ギルド。


街の中央付近に建てられた、大きな石造りの建物だった。


中へ入ると、酒と鉄の匂いが混ざった空気が鼻を掠める。


朝だというのに、中には多くの冒険者がいた。


武器を整備する者。


依頼書を見ている者。


大声で笑っている者。


様々だ。


「相変わらず騒がしいですね……」


セラが小さく息を吐く。


「まあ、これがいつものギルドだ」


ガイルは慣れた様子で受付へ向かう。


すると——


「お、ガイルさん!」


受付の女性が顔を上げた。


二十代前半くらいだろうか。


栗色の髪を後ろでまとめた女性だった。


「久々に戻ってきましたね」


「ああ。少し長引いた」


ガイルが軽く笑う。


受付嬢はその視線をこちらへ向けた。


「その人たちは?」


「森で拾った」


「拾ったって……」


リナが苦笑する。


「まあ間違ってはないですね」


セラも頷いた。


受付嬢は困ったように笑う。


「ガイルさんらしいですけど……また変なことしてませんよね?」


「してねえよ」


「本当ですか?」


「信用ねえな俺」


そんなやり取りを見ながら、周囲を眺めていた。


不思議だった。


初めて来たはずなのに。


どこか懐かしい感覚がある。


視線を動かす。


武器。


防具。


冒険者。


そのどれもが、妙に馴染む。


「……どうした?」


ガイルが気づく。


「いや」


「なんでもない」


その時だった。


ギルドの奥から、重い声が響く。


「騒がしいと思ったら、ガイルか」


空気が少し変わる。


冒険者たちが視線を向けた。


奥から現れたのは、大柄な男だった。


鋭い目。


傷だらけの顔。


圧だけで分かる。


強い。


「バルド」


ガイルが軽く手を上げる。


男——バルドは、こちらを見る。


その瞬間。


目つきが変わった。


「……ほう」


低い声。


まるで値踏みするような視線だった。


「お前」


「名前は?」


「……分からない」


「記憶喪失か?」


「多分」


バルドは数秒黙る。


そして。


「面白え」


口元を歪めた。


リナが呆れたように言う。


「ギルド長、それ第一声ですか?」


「面白いもんは面白い」


バルドは笑う。


「ガイル」


「あ?」


「こいつ、どこで拾った」


「森だ」


「ざっくりしすぎだろ」


だが、ガイルの表情は真面目だった。


「変異種を一撃で倒した」


その瞬間。


ギルド内が静まり返る。


「……は?」


受付嬢が固まる。


周囲の冒険者たちもざわつき始めた。


「おい、今変異種って言ったか?」


「しかも一撃?」


「嘘だろ……」


だが、バルドだけは笑わなかった。


むしろ。


鋭くなっていた。


「本当か?」


「ああ」


ガイルが頷く。


「俺も見た」


セラも続く。


「普通じゃありませんでした」


リナも小さく頷いた。


バルドはこっちを見る。


まっすぐに。


「……なるほどな」


そして。


壁に立て掛けられていた剣を掴む。


「なら、試させろ」


空気が張り詰める。


「ギルド長?」


受付嬢が驚く。


だが、バルドは構わない。


「安心しろ」


剣を肩に乗せながら笑った。


「死にはしねえ程度だ」


次の瞬間。


バルドの姿が消えた。


速い。


巨大な体とは思えない速度。


一瞬で目の前まで迫る。


剣が振り下ろされた。


だが——


体は、自然に動いていた。


避ける。


ほぼ反射だった。


「ほう」


バルドが笑う。


次。


横薙ぎ。


それも避ける。


三撃。


四撃。


全部。


紙一重。


周囲が息を呑む。


「おいおい……」


「ギルド長の剣を……」


「全部見えてるのか?」


冒険者たちの声が漏れる。


バルドが一度距離を取る。


そして。


ニヤリと笑った。


「やっぱ面白えな、お前」


その瞬間。


頭に、何かが流れた。


——斬れる。


知らない感覚。


だが。


自然だった。


落ちていた短剣を拾う。


踏み込む。


一瞬だった。


ギン——ッ!!


鋭い音が響く。


次の瞬間。


バルドの剣が宙を舞った。


「……は?」


誰かが呟く。


バルド本人すら、少し目を見開いていた。


沈黙。


そして——


バルドが笑い出した。


「ハハッ!!」


豪快な笑い声がギルドに響く。


「いいな、お前!」


バルドは楽しそうに言う。


「名前ねえんだったか」


「なら——」


ニヤリと笑った。


「今日からお前はナナシだ」

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