異世界の常識
森の中を、四人で歩いていた。
さっきまでの戦いが嘘みたいに、静かだった。
「……にしても、無茶するな」
前を歩く男が、振り返らずに言う。
「さっきのは普通の魔物じゃねえ。“変異種”だ」
「そうなのか」
「この辺でも滅多に出ねえ。見たら逃げるやつだ」
(弱かったけどな)
とは、言わないでおいた。
少しの沈黙のあと——
「……さっきは助かった」
男が、軽く息を吐く。
「正直、あれは俺じゃ無理だったな」
少しだけ口元が緩む。
「大したもんだ」
「別に」
軽く返す。
「でも……本当に助かりました」
後ろから、少女が声をかけてくる。
「私たちだけじゃ、危なかったです」
「気にするな」
横で、もう一人が静かにこちらを見ていた。
観察するように。
「……あの一撃」
「魔法の詠唱も、スキルの発動も見えなかった」
「なら、何だ?」
「分からない。だから見てる」
短いが、はっきりした声だった。
「……俺はガイルだ」
前を歩く男が言う。
「こっちはリナ。見習いだ」
「よ、よろしくお願いします……!」
「……セラです。魔術師です。解析を担当しています」
視線だけ、こちらに向く。
「で、お前は?」
三人の視線が集まる。
「……好きに呼べばいい」
「は?」
「気づいたらここにいた」
一瞬の沈黙。
ガイルが肩をすくめる。
「……なるほどな」
それ以上は聞かなかった。
「まあいい」
「ここは魔物の縄張りだ」
「しかも変異種が出た。長居は危険だ」
「街に向かうぞ」
「街?」
「レイヴンの街だ」
「ここから半日。この辺じゃ一番まともな場所だ」
「規模もそこそこ。冒険者ギルドもあります」
セラが補足する。
「登録すれば、依頼と身分証が手に入ります」
「身分証?」
「ないと宿も借りられません」
「じゃあ……まずはそこですね」
リナが小さく頷く。
「その通りだ」
ガイルが答える。
「とりあえず、お前も連れてく」
「野垂れ死にされても困るしな」
軽く笑う気配。
三人が歩き出す。
俺も、その後を追った。
(……異世界、か)
改めて、そう思う。
だが。
不思議と、違和感はなかった。
むしろ——
(……こっちの方が、しっくりくるな)




