消えていくもの
魔物の残骸を前に、三人のうちの一人——少女が息を呑んだ。
後ろでは、残りの二人が距離を取ったまま動かない。
一人は剣を構えたまま固まり、
もう一人は状況を理解できていないようだった。
誰も、すぐには言葉を発さなかった。
少女は、ただ俺を見つめている。
視線が揺れている。
一歩、後ずさる。
それだけで、十分だった。
(……そんなにか?)
自分のやったことを思い返す。
魔物を斬った。
それだけだ。
俺は軽く剣を振る。
血はついていない。
手応えも、ほとんどなかった。
まるで紙を切ったみたいに。
(……まあ、いいか)
強いなら、それでいい。
この世界で生きるには、それが全てだ。
俺は周囲を見渡す。
気配はない。
少なくとも、今すぐ襲ってくるものはいなさそうだ。
(……少し試すか)
そう思った瞬間、頭の中にイメージが浮かぶ。
“強くなる”感覚。
力を底上げするイメージ。
(……これも、作れるのか?)
「……強化」
呟いた瞬間——
体が軽くなった。
同時に、内側から力が満ちてくる。
一歩、踏み込む。
それだけで、さっきとは明らかに違う。
地面を蹴る感覚が、軽い。
視界が、わずかに広がる。
(……なんだこれ)
試しに、近くの倒木に手をかける。
軽く押す。
それだけのつもりだった。
ミシッ——
嫌な音がした。
次の瞬間、倒木が割れた。
「……」
自分でやったことに、一瞬遅れて理解が追いつく。
(……強すぎるな)
だが、不思議と恐怖はなかった。
むしろ——
当然のように受け入れている自分がいた。
(使えるなら、それでいい)
その時だった。
――ズキッ
頭の奥に、鋭い違和感が走る。
「……っ」
思わず目を細める。
さっきよりも、はっきりしている。
何かが、消えている。
(……なんだ?)
考える。
思い出そうとする。
だが。
出てこない。
そこにあったはずの“何か”が、ぽっかりと抜け落ちている。
ほんの数秒前のことすら、曖昧になる。
(……今、何を考えてた?)
分からない。
思い出せるはずなのに、思い出せない。
まるで、その部分だけ切り取られたみたいに。
(……気のせいか)
そう結論づける。
こんなことで立ち止まっていられない。
生きるためには——
この力を使うしかない。
そうだ。
それしかない。
――そのはずなのに。
胸の奥に残った違和感だけは、消えなかった。
まるで。
何か大事なものを、少しずつ失っているような。
そんな感覚だけが——
静かに、確実に積み重なっていく。




