「代償」
魔物の死体を前に、しばらく立ち尽くしていた。
静かすぎる。
さっきまで、あれだけの異形が目の前にいたのに。
今は、ただ風の音だけが響いている。
(……終わった、のか)
そう思っても、実感がない。
だが一つだけ、はっきりしていることがあった。
——俺は、この世界で戦える。
それも、かなり余裕を持って。
手の中の剣を見る。
どこにでもありそうな剣だった。
だが、なぜか異様に手に馴染む。
これを“作った”のは、俺だ。
そう思った瞬間、頭の中にイメージが浮かぶ。
(……試してみるか)
燃え上がる炎。
焼け焦げた地面。
「……火」
呟く。
次の瞬間——
地面が燃えていた。
爆ぜるように炎が広がり、
熱風が吹き荒れる。
「……は?」
思わず声が漏れる。
掌から放った感覚はない。
魔力を撃ち出した感覚も。
ただ。
“燃える結果”だけが、
そこに存在していた。
地面が焼け、
焦げた匂いが立ち込める。
思っていたより、
威力が大きい。
ほんの軽くイメージしただけで、
これだけの現象が起きている。
(……なんだ、この力)
剣だけじゃない。
炎すら、
イメージだけで現実になる。
現実感がなかった。
まるで、
世界そのものが、
自分の思考へ従っているみたいだった。
だからこそ。
その違和感に、
気づくのが遅れた。
(……あれ)
頭の奥に、
妙な引っかかりが残っている。
何かを思い出しかけて思い出せない。
大切なことだった気がする。
だが。
どれだけ考えても、
そこだけ綺麗に抜け落ちていた。
(……気のせいか)
そう結論づける。
今は、生き残ることが先だ。
だが。
その違和感は、
最後まで消えなかった。
——何かを、失っている。
その感覚だけが、
胸の奥に静かに残り続けていた。




