「創造」
目を開けた瞬間、空気が違った。
土の匂いが濃い。
湿った風が、肌にまとわりつく。
見渡す限り、木々に囲まれた森。
聞いたことのない鳥の声。
揺れる葉の音。
——明らかに、日本じゃない。
(……ここが、異世界か)
頭では理解している。
だが、妙に現実感があった。
夢じゃない。
そう、本能で分かる。
その時だった。
ガサッ——
背後で、何かが動いた。
反射的に振り返る。
そこにいたのは、明らかに“普通じゃない生き物”だった。
黒く濁った皮膚。
異様に長い腕。
目だけが、ぎらついている。
低く唸りながら、こちらを見ている。
(……なんだ、あれ)
ゲームや漫画でしか見たことがない存在。
だが、これは現実だ。
(逃げるか?)
一瞬、そう考える。
だが——
体が、否定した。
足は動かない。
いや、違う。
動かないんじゃない。
「動く必要がない」と判断している。
——戦える。
そう確信していた。
理由は分からない。
だが、怖くなかった。
魔物が一歩踏み出す。
地面を踏む音が、やけに大きく響く。
距離が縮まる。
その圧に、空気がわずかに揺れた気がした。
次の瞬間——
俺の体は、勝手に動いていた。
だが、手には何もない。
武器がない。
それでも、焦りはなかった。
(……そうだ)
頭の奥に、言葉が浮かぶ。
俺は、“創造”を選んだ。
なら——
作ればいい。
⸻
「剣」
⸻
呟いた瞬間、空気が歪んだ。
そして、手の中に“それ”は現れた。
まるで最初からそこにあったかのように。
重さも。
握り心地も。
違和感が一切ない。
(……なんだ、これ)
考えるより先に、体が動く。
踏み込む。
振る。
一閃。
魔物の体が、あっさりと切り裂かれた。
手応えは、ほとんどない。
まるで紙を切ったようだった。
魔物は、そのまま崩れ落ちる。
動かない。
終わった。
静寂が戻る。
風の音だけが、やけに大きく聞こえる。
——強い。
いや。
これは、俺が強いんじゃない。
この力が異常なんだ。
(……何でも作れるのか?)
剣を見つめながら、そう思う。
その時だった。
頭の奥に、わずかな違和感が走る。
何かを思い出そうとして——
思い出せない。
ほんの一瞬だけ、胸の奥がざわついた。
だが、それもすぐに消えた。
大したことじゃない。
そう判断する。
——この時は、まだ。




