黒い結晶2
第20話 黒い結晶
ギルド長室には、重い空気が流れていた。
机の上に置かれた黒い結晶。
それを見つめるリゼリアの表情は、
険しい。
「まず確認したいのですが」
静かな声。
「この結晶は、
変異種の体内から発見されたんですね?」
「ああ」
バルドが低く答える。
「オーガ変異種の中に埋まってた」
リゼリアは小さく目を伏せた。
「……やはり」
その反応に、
ガイルが眉をひそめる。
「知ってんのか?」
数秒の沈黙。
やがて、
リゼリアは静かに口を開いた。
「その結晶は、
十五年前にも確認されています」
部屋の空気が変わる。
「魔王災害で現れた変異種。
その一部の体内から、
同じものが発見されました」
リナの顔が青くなる。
「じゃ、じゃあ……
また魔王災害が起きるってことですか?」
「まだ断定はできません」
リゼリアは冷静に答える。
「ですが、
可能性は否定できないでしょう」
ガイルが舌打ちした。
「冗談じゃねぇぞ……」
セラが黒い結晶を見つめる。
「この結晶は、
何なんですか?」
リゼリアは少しだけ迷った。
だが。
静かに告げる。
「……魔王由来の物質です」
その瞬間。
部屋の空気が凍りついた。
「……は?」
ガイルの声が低くなる。
リナも息を呑んでいた。
「待ってください……
魔王由来って……」
リゼリアは頷く。
「黒い結晶は、
魔王の魔力と酷似しています」
「当時の王国でも、
そう結論づけられました」
沈黙。
嫌な空気が広がる。
そして。
ガイルが低く呟く。
「……なら、
魔王が復活したってのか?」
「本来なら、
あり得ません」
リゼリアの声は静かだった。
だが。
その言葉には、
確かな重みがあった。
「十五年前、
師匠は魔王を追って
黒い門の向こうへ消えました」
ナナシの眉がわずかに動く。
「……俺が?」
リゼリアは静かに頷いた。
「はい」
「魔王災害の最後の日。
師匠は一人で、
魔王を追って門へ入りました」
部屋が静まり返る。
リゼリアは、
どこか遠くを見るような目をする。
「そして数日後——」
「黒い門は、
崩れ落ちるように消滅したんです」
リナが小さく息を呑む。
「じゃあ……」
「私達は、
魔王は倒されたのだと思っています」
静かな声だった。
だが。
その視線だけは、
真っ直ぐナナシへ向いていた。
「……真相を知っているのは、
師匠だけです」
ナナシは答えられなかった。
頭の奥が、
妙にざわついている。
黒い門。
赤い空。
崩れた世界。
断片的な何かが、
脳裏を掠める。
だが。
思い出せない。
「……何も、
覚えてねぇ」
小さく漏れた声。
リゼリアは、
そんなナナシを見つめる。
その目には、
悲しみと、
少しだけ安堵が混ざっていた。
「……生きていてくれただけで、
十分です」
部屋が静まる。
その時だった。
「……おい」
ガイルが低く口を開く。
「待てよ」
険しい顔。
「もし魔王が死んでるなら、
なんで黒結晶がまた出てきてんだ?」
誰も、すぐには答えられなかった。
静寂。
その沈黙を破ったのは、
セラだった。
「……誰かが、
再現している可能性があります」
全員の視線が向く。
セラは黒い結晶を見つめたまま続ける。
「十五年前の災害を、
意図的に」
空気が冷える。
バルドが低く吐き捨てた。
「最悪だな」
そして。
リゼリアは静かに目を細める。
「……だからこそ、
私達が動いています」
その瞳には、
冷たい殺気が宿っていた。




