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17/21

仮面



夜のレイヴンは、昼とは別の顔を見せていた。



石畳の通りには橙色の灯りが並び、

酒場からは賑やかな笑い声が漏れている。



ナナシはドレンの後ろを歩いていた。



「どこ行くんだ」



「湿っぽい話ばっかしてると、

こっちまで気が滅入る」



ドレンはぶっきらぼうに返す。



「少し付き合え」



二人が入ったのは、

冒険者御用達の酒場だった。



扉を開けた瞬間。



熱気と喧騒が押し寄せる。



酒の匂い。


笑い声。


酔った冒険者たち。



だが。



店の空気が、一瞬だけ止まった。



「……ドレンさん?」



カウンターの店主が目を丸くする。



「珍しいな……酒場来るのいつぶりだ?」



「しかも連れいるぞ」



冒険者たちがざわつく。



ドレンは面倒臭そうに眉をひそめた。



「うるせぇ」



「今日は飲みに来ただけだ」



そう言いながら、

空いていたカウンター席へ座る。



ナナシも隣へ腰を下ろした。



その時だった。



今度は別のざわめきが起こる。



「……誰、あの人」



「見ない顔ね」



「すごい綺麗な顔……」



女冒険者たちの視線が、

ナナシへ集まっていた。



ナナシは少しだけ視線を向ける。



女性に見られるのは、

別に嫌な気分じゃなかった。



その様子を見て、

ドレンが鼻で笑う。



「……昔と変わってねぇな、お前」



「何がだ」



「その顔で無自覚なとこだよ」



ナナシは眉をひそめる。



「知らねぇよ」



ドレンは小さく笑った。



どこか、

懐かしむような笑みだった。



店主が酒を二つ置く。



「おごりだ、ドレンさん」



「気味悪ぃな」



「アンタが誰かと飲んでる方が気味悪いっての」



周囲から笑いが起きた。



ドレンは舌打ちしながら酒を煽る。



ナナシもグラスを手に取った。



口に含む。



少し苦い。



だが、不思議と嫌じゃなかった。



酒場の喧騒を聞きながら、

静かに飲む。



そんな時間が、

妙に落ち着く。



「……お前、昔はここでよく騒いでたな」



ドレンが呟く。



「俺が?」



「ああ」



「女連中に囲まれて、

くだらねぇ話して笑ってた」



ナナシは少し意外そうな顔をした。



「……そんなタイプには思えねぇけど」



「創造の代償が出る前はな」



ドレンの声が少し低くなる。



「お前、昔はもっとうるさかった」



「よく笑って、

誰より人の中心にいた」



ナナシは黙る。



想像できなかった。



今の自分とは、

まるで別人みたいだった。



二杯目の酒を飲み終えた頃には、

少しだけ身体の力が抜けていた。



不思議と、

口元が緩む。



それを見て、

ドレンが目を細めた。



「……久々に見たな、その顔」



「ん?」



「いや」



ドレンは小さく笑う。



「少しだけ、

昔のお前に戻ったみてぇだった」



ナナシは意味が分からず、

眉をひそめた。



だが。



その言葉は、

妙に胸へ残った。



その時だった。



ドレンが懐から、

黒い仮面を取り出す。



「……まだ持ってたんだな、それ」


ナナシは仮面を見る。



さっき触れた時よりも、

妙に手に馴染む感覚があった。



「最後の頃のお前、

ずっとそれ付けてた」



ドレンが低く言う。



「そいつには魔力認識阻害の術式が入ってる」



「顔を隠すだけじゃねぇ」



「気配や印象をぼかす魔道具だ」



ナナシは静かに仮面を受け取る。



そして。



ゆっくり顔へ付けた。



視界が少し暗くなる。



だが。



妙に落ち着いた。



まるで、

ずっと前からそうしていたみたいに。



その時だった。



酒場の扉が勢いよく開く。



「ナナシーー!!」



聞き慣れた声。



リナだった。



その後ろには、

ガイルとセラの姿もある。



「こんなとこいたのかよ」



ガイルが椅子へ腰掛ける。



「おっさん、酒場で飲んでるとか珍しすぎだろ」



「うるせぇ」



ドレンが睨む。



リナは仮面姿のナナシを見て、

少し驚いた顔をした。



「えっ……その仮面……」



「似合ってるじゃねぇか」



ガイルは軽く笑う。



だが。



セラだけは違った。



彼女はじっと、

仮面越しのナナシを見つめている。



その瞳が、

わずかに揺れた。



そして。



小さく呟く。



「……その仮面」



ナナシが視線を向ける。



セラは少しだけ迷うように目を伏せた。



だが。



静かに続ける。



「……どこで、それを?」

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