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預かり物



ギルド長室を出た後も、空気は重かった。



「……頭いてぇ」



ガイルが大きくため息を吐く。



「魔王だの、英雄だの、急に話がデカくなりすぎだろ」



「私は普通に怖いです……」



リナもまだ顔が青い。



セラだけは黙ったまま歩いていた。



ナナシは、自分の手を見下ろす。



セラの言葉が、頭から離れない。



“結果だけが起きている”。



炎。



身体強化。



剣技。



創造の力でできることは、理解している。



だが。



なぜ、自分はここまで自然に使えているのか。



なぜ、この力に“慣れている”のか。



そこだけが、思い出せなかった。




胸の奥がざわつく。




「今日はもう休め」



ガイルが言った。



「お前、どう見ても限界だ」



「……そうかもな」



疲労とは違う。



もっと嫌な感覚。



何かが、自分の中から削れていくような。



その時だった。



「そういや、武器や防具を揃えるならドレンのとこ行っとけ」



ガイルが何かを思い出したように言った。



「ドレン?」



「ああ。この街一番の武器職人だ」



ガイルが肩をすくめる。



「ハーフドワーフでな。昔から生きる伝説みてぇな男だよ」



「……ハーフドワーフ?」



ナナシが聞き返す。



すると、リナが少し驚いた顔をした。



「え、知らないんですか?」



「知らない」



ガイルが苦笑する。



「ドワーフは鍛冶と鉱石加工に特化した種族だ」



「寿命も長ぇ。純血種だと二百年以上生きる奴もいる」



「その血を半分だけ継いでるのが、ハーフドワーフ」



「ドレンは見た目は人間に近いが、腕は化け物クラスだ」



セラも静かに口を開く。



「特にドレンさんは有名です」



「王都の騎士団や上級冒険者の装備も、彼が手掛けています」



ガイルが鼻で笑う。



「気難しいがな」



「認めた相手の装備しか作らねぇ」



「へぇ……」



ナナシは小さく呟く。



不思議だった。



まだ会ってもいないはずなのに。



その名前だけが、

妙に胸へ引っかかっていた。



翌日。



ナナシは街外れにある鍛冶屋を訪れていた。



店の前には、大きな鉄槌の紋章。



中からは、鉄を打つ重い音が響いてくる。



扉を開けた瞬間。



熱気が押し寄せた。



「……いらっしゃ——」



奥にいた男が顔を上げる。



鍛え上げられた巨体。



鋭い目。



分厚い指には、無数の火傷跡が刻まれていた。



そして。



男の動きが止まる。



ガラン——



手から工具が落ちた。



見開かれた目が、ナナシを捉えている。



「——お前……」



掠れた声だった。



男の唇が震える。



「……まさか」



ナナシは眉をひそめた。



「……俺を知ってるのか?」



男は答えなかった。



ただ。



信じられないものを見るみたいに、

ナナシを見つめている。



そして。



「……生きてやがったのか」



ドレンは顔を背けた。


だが。


震える肩だけは、隠せていなかった。


ナナシは言葉を失う。



目の前の男が、

なぜこんな顔をしているのか分からなかった。



「……誰だ、あんた」



男はしばらく黙っていた。



やがて。



ゆっくり息を吐く。



「……ドレンだ」



「武器職人のドレン」



その名前を聞いた瞬間。



ナナシの胸が、妙にざわついた。



知らないはずなのに。



どこか懐かしい。



ドレンはナナシを見つめたまま、小さく笑った。



だが、その目は赤い。



「全部忘れちまったのか……」



「何の話だ」



ドレンは答えなかった。



代わりに、店の奥へ歩いていく。



重い足取り。



そして。



古びた箱を持って戻ってきた。



丁寧に布で包まれている。



ドレンは、それを静かにナナシへ差し出した。



「……預かり物だ」



「預かり物?」



「ああ」



ドレンが低く言う。



「最後の戦いに行く前、お前が俺に預けたものだ」



ナナシの心臓が、大きく跳ねた。



ドレンは布を開く。



中にあったのは。



黒い仮面。



そして。



紫色の結晶が埋め込まれたネックレス。



「これは……」



「記憶を守る魔道具だ」



ドレンが静かに言う。



「お前、自分で分かってたんだよ」



「力を使えば、全部失うかもしれねぇってな」



ナナシの喉が鳴る。



ドレンはネックレスを見つめたまま続けた。



「だから最後の戦いの前、俺にこれを預けた」



——多分、全部忘れる。



不意に。



知らない声が、頭の奥で響いた。



——記憶も、名前も……大事な奴のこともな。



ズキッ——



激しい頭痛。



視界が揺れる。



——燃える空。



——黒い門。



——血だらけの自分。



断片的な光景が脳裏を掠める。



「ッ……!」



膝をつく。



呼吸が乱れる。



ドレンが苦しそうに目を細めた。



「やっぱり、そうか……」



ナナシは震える手でネックレスを握る。



知らない。



知らないはずなのに。



胸の奥が、痛いほど叫んでいた。



“これは、自分のものだ”と。

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