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魔王災害



ギルドへ戻る頃には、空は赤く染まり始めていた。



だが、誰一人として軽口を叩かなかった。



森で見つけた“黒い結晶”。


それが、全員の頭から離れない。



「……で、それは結局なんなんだ」



歩きながら、ガイルが低く言う。



セラは布に包んだ結晶を見下ろした。



「分かりません」



短い返答。



だが、その目は険しい。



「ただ、普通の魔物ではあり得ない反応です」



「魔力が脈打っていました」



「まるで、生きているみたいに」



リナが露骨に嫌そうな顔をする。



「やめてくださいよ……」



「俺も聞きたくなかった」



ガイルがため息を吐く。



だが、空気は重いままだった。



ナナシだけは黙っていた。



頭の奥に、まだ違和感が残っている。



『……また、忘れるの?』



あの声。



思い出そうとすると、胸が締め付けられる。



銀色の髪。



赤い空。



崩れる街。



知らない光景のはずなのに。



なぜか、“懐かしい”と感じてしまった。



(……おかしい)



俺は、この世界に来たばかりのはずだ。



なのに。



どうしてこんな景色を知っている?



「ナナシ」



不意にガイルが振り返る。



「本当に覚えてねえのか?」



「……何をだ」



「戦い方だよ」



ガイルの目は真剣だった。



「変異種相手に、迷いが無さすぎる」



「初めて実戦やる動きじゃねえ」



ナナシは答えられなかった。



覚えていない。



なのに。



体は自然に動く。



まるで。



“そうなるように作られている”みたいに。



その瞬間。



頭の奥で、何かが弾けた。



——燃える街。



——泣き叫ぶ人々。



——巨大な黒い門。



そして。



血だらけの剣を握る、自分。



「ッ……!」



突然、激しい頭痛が走る。



足が止まった。



「おい、大丈夫か?」



ガイルが眉をひそめる。



「……いや」



呼吸が浅い。



嫌な汗が流れる。



だが、それ以上に。



今見えた光景が、妙に現実味を持っていた。



(なんなんだ、これ……)



知らない記憶。



知らない戦場。



なのに。



胸の奥だけが、“覚えている”と訴えてくる。



ギルドへ戻ると、中はざわついていた。



「ガイルたちだ」



「変異種を倒したって本当か?」



視線が集まる。



だが、ガイルは気にせず受付へ向かった。



「バルドを呼べ」



受付嬢が空気の異常を察したのか、すぐに頷く。



数分後。



ナナシたちはギルド長室へ通された。



重い扉が閉まる。



部屋の奥では、バルドが腕を組んで待っていた。



「随分早かったな」



だが。



セラが黒い結晶を取り出した瞬間。




バルドの表情が消えた。



「……どこで見つけた」



低く押し殺した声。



部屋の空気が、一瞬で張り詰める。





「変異種の体内です」



セラが答える。



沈黙。



バルドは結晶を見つめたまま動かない。



そして。



苦々しく呟いた。



「……あり得ねぇ」



ガイルが眉をひそめる。



「知ってんのか?」



バルドはしばらく黙っていた。



やがて、低い声で口を開く。



「昔、一度だけ見たことがある」



その瞬間。



部屋の空気が変わった。



「十五年前——“魔王災害”の時だ」



ナナシの頭に、再び激痛が走る。



——赤い空。



——崩れる世界。



——銀色の髪。



『……また、忘れるの?』



「ッァ……!」



頭を押さえる。



視界が揺れる。



息が苦しい。



その時だった。



「……まさか」



小さく漏れたバルドの声。



ナナシへ向けられた視線だけが、妙に鋭かった。

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