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黒い結晶



森に、静寂が落ちていた。



真っ二つになったオーガ変異種。


その巨体を前にしても、誰もすぐには動けなかった。



「……いや、待て待て」


最初に口を開いたのはガイルだった。



「なんで倒してんだお前」



ナナシは首を傾げる。



「ダメだったか?」



「そういう話じゃねえ」



ガイルが頭を押さえる。



「変異種だぞ?」



「しかもオーガ級だ」



「Aランクでも単独討伐は危険視される相手なんだが……」



リナはまだ固まっていた。



「片手で止めましたよね……?」



「止めてたな」



「え、あれ人間にできます……?」



「普通は無理だ」



ガイルが即答する。



ナナシは自分の手を見る。



だが、やはり実感がなかった。



強い。


そうなのかもしれない。



だが、自分ではよく分からない。



ただ。



「……こうすればいい」



そんな感覚が、頭に浮かぶだけだった。



その時。



「静かにしてください」



セラの声。



全員の視線が向く。



セラは、オーガ変異種の死体を調べていた。



「これを見てください」



肉をかき分けた先。


そこには、黒い結晶が埋まっていた。



不気味だった。



小さく脈打っている。



まるで心臓みたいに。



「なんだ、それ」



ガイルが眉をひそめる。



「分かりません」



セラは首を横に振る。



「ですが、普通の魔物には存在しないものです」



リナが顔をしかめた。



「気持ち悪い……」



次の瞬間。



黒い結晶が、ドクンと脈打つ。



同時に。



ナナシの頭に、激しい痛みが走った。



「ッ……!」



突然よろめく。



「ナナシさん!?」



リナが慌てて支える。



頭の奥が焼けるように痛い。



その瞬間。



——赤い空。



——崩れる街。



——大量の化け物。



断片的な映像が、頭の中へ流れ込む。



そして。



銀色の髪。



知らないはずなのに。



胸が締め付けられた。



そして。


頭の奥に、声だけが残った。



『……また、忘れるの?』




だが、次の瞬間には、全部消えていた。



「……あれ」



頭痛も消える。



残ったのは、妙な喪失感だけだった。



「大丈夫ですか?」



セラが鋭い目で見る。



「……分からない」



ナナシは額を押さえる。



今、何かを見た。



そんな気がする。



だが、思い出せない。



ガイルが真剣な顔になる。



「……帰るぞ」


ガイルが低く呟く。


その表情は、オーガと戦っていた時より険しかった。



「これは完全に異常事態だ」



誰も反対しなかった。



セラが黒い結晶を布で包む。



「ギルドで調べましょう」



森を戻り始める。



だが。



ナナシだけは、後ろを振り返っていた。



オーガ変異種の死体。



その奥。



森の暗闇。



誰かに見られている。



そんな感覚があった。



だが、そこには何もいない。



「ナナシ?」



リナの声。



「……いや」



気のせいか。



そう思いながら、森を後にする。



その頃。



森のさらに奥深く。



闇の中で、一人の男が立っていた。



黒いローブ。



顔は見えない。



男は、小さく笑う。



「……やはり、いたか」



低い声が森に溶けた。



その視線の先には——



去っていくナナシたちの背中があった。

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