待ち伏せ
都会と違って、田舎の夜は暗い。
久しぶりに帰省すると、それが予想外に怖かったりする。
怖いと思いながらも、特に何事もないのが常であるが、今回ばかりは違った。
家の前、すぐの電柱の裏に、誰かがいるのである。
電柱の裏から、ずっとこっちを見ている。
背丈200㎝はあり、肩幅が広い男性だ。その大きさに身体が隠せていない。
電灯に照らされているし、隠れているのかすら分からないが、そもそもそこに人がいるなんておかしいし、ただただ怖い。
距離にして、50mくらい手前で気が付いてよかった。
今ここで通報するべきか。
しよう。
しなければ。
私はスマホをカバンから取り出す。
手が、震えていた。
あっと思った瞬間、カバンから出したスマホが手元からするりと落ちてしまい、脇の田んぼに落ちてしまった。
前から、人の気配。
「大丈夫ですか?」
声をかけてきたのは、電柱の裏にいた男だった。
「は、は、は、は、はい。」
手だけではない。声も震えていた。
慌ててスマホを拾おうとするが、電源が落ちてしまい真っ暗になってしまった。
「落ちたの、ここら辺でしたか?」
男はスマホのライトで、田んぼの中を照らしてくれた。
「あ、あった、あった。これですよね。・・・はい、どうぞ。」
男は自分が汚れることを躊躇せず、田んぼの中に入り、落としたスマホを拾ってくれた。
私は恐怖のあまり、黙って見ているしかなかった。
「乾かせば、大丈夫だと思いますよ。とりあえず一晩。電源を入れずに乾かしてください。・・・それでは。」
男は私にスマホを渡すと、田んぼの闇の中へと消えていった。
とても、ありがとうなんていえる状態ではなかった。
正直、怖くて泣きたかった。
そのまま家に帰り、鍵を閉める。
「どうしたの、そんなに慌てて。」
親が、寝間着の姿で起きてきた。
涙を流しながら訳を説明すると、意外にも驚く様子はなかった。
変質者は、田舎でもよく現れるらしい。
警察に連絡しても、実害が無ければ動いてくれないだとか。
親に話すと、ようやく涙が止まった。
少し、ほっとしたからだろうか。急に眠くなり、とりあえず自分の部屋で寝ることにした。
(スマホ、直るかなあ。)
田んぼに落としたせいで、手帳型のスマホケースは泥だらけだった。
(やば、洗わなきゃ。)
スマホの本体を外す。
すると、ペラッと何かカードが落ちた。
私はこの中に何もしまっていない。
拾ってみると、それはマイナンバーカードだった。
『高野聖』
と書かれた名前。画像に映っているのは・・・・・・・あの男だった。
『バンバン!』
私の部屋の外から音が。
ベランダの窓を誰かが叩いている。
「すみませーん。忘れ物しちゃって。」
家前の電灯に照らされた大きな影が、なんとなくカーテンに映し出されていた。




