マッドサイエンティストの邂逅
「こんにちは。」
自分以外の人間が存在しないはずの研究室において、背後から女性の声がしたものだから驚いた。
「誰だ?ここは誰も入れないはずだ!!!」
隠し持っていた銃を構える。
銃口の先にいたのは、オレンジ色のワンピースを着た日系の若い女性だった。
「驚かせてしまって、ごめんなさい。悪気はなかったの。」
「まずは質問に応えなさい。なぜ私以外の誰かがここにいるのだ。ここは国家秘密の・・・国のお偉い方のひとにぎりしか、その存在すら知らない研究室だぞ。」
「そのようね。新型ウイルスを勝手に開発したのは良いけど、そんなことが他国にバレたらあなたの存在どころか、国の存在が危ういし、世界大戦にまで発展してしまうものね。」
「なぜ、そのことを知っているのだ。」
「それでも、あなたは告発文を書いて海に流した。今まで国のために『見ざる聞かざる言わざる』を貫いてきたあなたが。」
「ああ。確かに。私は初めて国に反発した。しかし、あの文章だけでは、この場所が分かるとは思えないし、この厳重な警備がある施設には入れないと思うが。」
「そうね・・・その辺は私の努力の結果ということで。」
「努力してどうにかなるものでは無い。」
「・・・ふふっ。」
女性は笑っていた。銃を恐れる様子すらない。
むしろ、私の動向を愉しんで観察しているようである。
「しかし、あなたって分からないものね。どうして意味のない告発をするわけ。あなた自身分かっているはずじゃないの。そもそもこの世界から核兵器が無くなることはありえない。それが分かっているのに、告発する理由なんてなくない?」
「それは、ウイルスの脅威を知らしめることで、この世界から核兵器をなくしたいと思える人が少しでも増えればよいと思い・・・。」
「その気持ちは本当かしら。自分の存在を示したいだけなような気がするけど。」
「そんなことは無い!」
「まあ、そんなことはどうでもいいわ。あなたにチャンスを与えたくて私はここに来たの。」
「チャンス?」
「そう。自由になるチャンスを。」
女性が差し出す手の上には、錠剤が乗っていた。
「これは強力な薬。飲んだ時点で、あなたは普通の人間には戻れなくなる。ただ、自由になる可能性が得られる。」
私は、ねばつく唾液をゴクリと飲み込んだ。
「・・・・・ここで生活している時点で、私は普通の人間ではないよ。」
そして、差し出す薬を受け取り、飲み込んだ。
「あなたが貫こうとしてきた『見ざる、聞かざる、言わざる』が正しいとは限らない。あなた自身がきゃっと驚く魔法の力よ。」
飲み込んでから数秒のうちに、燃えるように体が熱くなった。
何か異常なことが体内で起きていることは明らかだ。
「副作用でちょっと見た目が変わるかもしれないけれど、それは容赦してね。さあ。ここを出ましょう。」
「出るって、どうやって?」
「大丈夫よ。今のあなたには力がある。サルのような学習能力と、ネコのような身体能力が。」
「なんだそりゃ?」
「まあ、いずれ分かるわ。それでは、私はこれで。」
「まて、お前は結局何者なのだ?」
「私?私の名前は目堂里美。日本で待っているわ。」
「待て。それと・・・私は何と名乗ればいい?私はこの世に存在しない者だ。存在しない私にチャンスを与えてくれた、どんなに努力したって手に入らなかったものをくれた、あなたに名前を付けて欲しい。」
目堂は少し悩んだ末に応えた。
「モンキーキャット。そのままだけどね。サルとネコの能力を得たから。」
「・・・・・分かった。感謝する。」
「では、また。」
爽やかな香りを残し、目堂は煙のように、その場から消えてしまった。
私は今まで諦めていた脱出を試みた。
それは想像以上に、意図も簡単なものであった。私が本来持っていた頭脳を上回るサルの学習能力。その場で暗号を解読してドアを解除。ネコのように気配を消し、危険を察知し、高い身体能力で、そびえたつ壁もひとっ飛び。
あれよあれよの脱出劇。
「私は・・・自由だ!!!!!!!」
雨がザーザーと降り続ける中、ずぶ濡れになりながら、つい叫んでしまった。
寒くて身震いがした。
異常に水滴が体にまとわりつく。見ると体中から毛が生えている。まるでサルだ。
そう。私の名前はモンキーキャット。これまでのように『見ざる聞かざる言わざる』なんてしない。きゃっと驚く力で、世界を変えて見せる。




