鳩のご馳走
退職してから2ヶ月が経とうとした頃に、一通の連絡が。お世話になった先輩からだ。
「あれから連絡ないけど、俺のこと嫌いになっちゃった?」
面倒くさいと思う気持ち半分。うれしい気持ち半分。ふと、そんな先輩との思い出が頭に浮かぶ。
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その日はひどく寒い日だった。
3月にしては珍しく、雪が降った。
「良かったなあ、電車が止まらなくて。今日は俺のおごりよ!じゃんじゃん飲もう!」
先輩とは初めての呑みである。テンションが上がっていた。
「どこか場所は決めているんですか?」
「おうよ!オススメの店にいくんだ!」
先輩のオススメのお店。
そこはよくあるチェーン店の居酒屋だった。
「いくら飲み食いしたっていいよ!なんたって給料日間近なんだから!」
「給料日・・・ですか。」
正直、そこまで喜びがなかった。
というのも、あまりにも低いことが分かっているからだ。基本給がそもそも低いのに、そこから税金諸々で3分の1は差し引かれる。
「どうしたんだよ、俺と一緒にいるのが楽しくないの?」
「そうではないですよ!」
「じゃあ何だっていうんだよ。」
「給料が入っても、なんか、その。」
言葉に困っていると、先輩は日本酒をぐいっと飲んだ。
「分かるよ、分かる。でも、歳を重ねていくうちに、それなりになっていくよ。」
「なら・・・まだ希望があります。」
「あとは、残業をすることだね。」
「残業ですか?」
「まだ決められた時間しか残れないと思うけど、それが解放されたら稼げるよ。」
「そんなに稼げるんですか?」
「うん。深夜になれば手当がついて割高になるし、45時間残業すれば、普段の倍近くにはなるよ。」
「そ、そうですか・・・。なら・・・良いのですかな?」
「・・・やっぱり、お前楽しくないだろ。」
急に先輩の態度が変わった。
見ると、先輩の顔が真っ赤である。
「楽しくないだろ。」
「楽しくないことはないんですけど、もしかして先輩お酒あんまり・・・。」
「飲めるよ。飲めるけど、今日はちょっと体調が悪いかもだけど。ウッ!」
「先輩、出ましょう!会計は済ましますので!」
慌てて店を出る。
先輩は間一髪のところで、店の外で吐き出した。
「ごめんよ・・・後で金は返すから。」
「いえいえ、お気になさらず。」
足元で、バサリと音がした。
見ると、鳩だった。
日は落ちているのに、飲み屋街で明るいからだからだろう。一羽だけではなく、数羽集まってきた。
そして、鳩たちは先輩の吐瀉物をついばみ始めた。
「惨めなものだよな・・・俺が吐いたゲロをさも美味しそうに食べているんだからなあ。」
先輩は、鳩たちを鼻で笑っていた。
一方で、鳩たちは僕たちの存在なんか一切気にせず、白い湯気が立ちこめるソレに夢中であった。




