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転生調理令嬢は諦めることを知らない  作者: eggy
番外編 後日譚

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 リュシドール子爵領領軍少数兵の前で、砦の厚い扉が閉じられた。十ガターほど前まで接近した軍は、そこで足を止めた。

 こちら側から砦内に入る口は、他にない。厚い扉は当然、剣も弓矢も通さない。巨大な破壊槌でも持ち出せば別だが、この軍はそれほどの大荷物を携えていない。

 ふつうに考えて、進入は難しいところだ。

 高さ五ガターほどもある門扉の上に、隙間が空いている。そこにいくつも、矢尻が覗く。


「盾、構え!」


 それを見てとり、小隊長が号令した。

 あまり大きな隙間ではなく横並び十に満たない数ごとに射かけられる矢を、先頭の兵がすべて盾で受けた。

 数度射かけられ、わずかに間が空く。

 そこへ、


「行きます」


 少女の声がかけられ、門の上空に茶色の球形が現れた。次々に横並び、三個。

 それが風魔法で吹き広げられ。

 次の瞬間、炎と化し。射手たちが並ぶ高所に吹き落ちた。


「ぎゃあああーーー!」

「あちちちちーー!」


 どど、と扉向こうから聞こえてきた衝突音は、弓兵が乗っていた台から落下したものか。


「わああ!」

「何をしておる!」

「相手は少数だ、情けない!」

「怯まず蹴散らせ!」


 などと、遠く鈍い声が聞こえてくる。

 こちら百名の軍では、小隊長と荷車に乗った令嬢が頷きを交わしていた。

 小隊長の指示で、後方に引かれていた荷車から二名が、そこに載せられる程度大ぶりの木槌を一つずつ取り上げる。

 再び、少女の声が上がった。


「行きます」


 一呼吸ほど後。何処からかミシミシ、という重い音が響き出た。

 木槌を持った二名が、足速に門扉に走り寄る。

 そうして、頭の上あたりの高さを思い切り一撃。

 すぐさま全速で、後ろに飛び退く。

 直後、扉に異変が起きた。

 かなり厚さのある巨大な二枚の木板が、ガラガラと崩れ落ち出したのだ。一つずつは数百ミター(ミリ)ほどの破片と化して。


「わああ!」

「何だあ!」

「危ない、扉から離れよ!」


 砦内から狼狽の声が飛び交い。

 たちまち、砦の前庭が眼前に展開される。

 扉の破片は内側に向けて撒き広がっている。

 木槌の二名が駆け寄り、邪魔になる数個の破片を退けた。

 行く手を遮るものがなくなり、少数軍は前進を再開した。

 すぐに、枠組みだけが残る門を抜ける。


「わああ!」

「何だあ!」

「化け物だあ!」


 横並びに配置されていた多数の兵たちが、足をすくめ今にもちりぢり逃げ出しそうな及び腰になっている。

 そこへ、声がかかった。後方にそびえる石造りの砦、高所の見張り台からのようだ。


「怯むな、相手は少数だ、殲滅せよ!」

「は、は――」


 軍のお偉方から、直々《じきじき》命令らしい。やや引けていた腰を立て直し、兵たちは槍と剣を構える。

 その先頭数十名の前に、また次々、茶色の球形が出現した。

 すぐに吹き撒かれ、多数の頭が茶にまみれ。

 間髪を容れず、炎が放たれる。


「ぎゃあああーーー!」

「あちちちちーー!」

「助けてくれーーー!」


 頭髪から衣服まで炎に包まれ、何十もの兵士がのたうち回る。

 その後方にいた者たちはもう前に出る気力を断たれたように、後退あとずさりを始めていた。


「た、助け――」

「剣を合わせるならともかく、こんなところで焼け死にはご免だあーー」

「勘弁してくれえーー」


 誰かが振り向き逃げ出すと、他の者もすぐにそれを追い始めた。

 ばたばたと先を争って、砦の中へ駆け込んでいく。


「馬鹿者、何たるざまか!」

「逃げるな! 戦え!」


 上官から叱責が飛ぶが。

 農民などから召集されたこれら歩兵たちに、炎に包まれてのた打つ仲間の姿は斬り死にに勝る恐怖を与えたようだ。

 一人が逃げ腰になるともう抑えが効かず、我先にと重なり合いそうなばかりの勢いで屋内に逃げ込んでいくのだ、

 建物の入り口庇の下に、先刻まで外で指揮を執っていた中隊長と取り巻き数名だけが残り、必死の形相で剣を構えるのみになっていた。

 その目の前、十ガターほど手前まで、小軍は歩み寄った。

「止まれ」とこちらで小隊長が指示を出し、百名ほどの歩みが止まる。

 火の攻撃に備えてだろう。対する中隊長たちは両腕で顔の前を覆った。

 そこへ、少女の声がかけられた。


「あなたたち、頭上注意しなさい」

「え?」


 一瞬虚を衝かれた顔で、中隊長たちの視線が揺れる。

 次の瞬間、ガラ、と異様な音がした。


「な――」

「わああ!」


 異変に気づき、慌てて敵兵たちは横へ飛び退いた。

 ガラガラガラ、と直前まで彼らの立っていた地面に衝突音が響いた。すぐ頭上の石の庇が、崩れ落ちてきたのだ。

 一つずつは数百ミターほどの大きさだが、脳天に食らえば命を落とすことになりそうだ。

 ひええ、と中隊長を始め数名が、腰を抜かしている。

 こちらの小隊長エテュアンが、鋭く声をかけた。


「動くなよ。次は予告なしに落とす」

「は、は――」


 もうすっかり、戦意を喪失したらしい。

 確かめて、エテュアンは建物の上方を仰いだ。

 この位置からは見えにくいが、真上付近の見張り台におそらくここの司令官がいるはずだ。

 一息吸って、エテュアンは大声で呼ばわった。


「砦内にいる者に告ぐ! 今この庇を破壊したのは、警告である! 今すぐ武器を捨て投降して、入口前の広間に集まれ! 十数えるまでに司令官が投降せねば、この建物すべてを破壊する!」

「な、な――」

「何を戯れ言を! 敵は少数だ、全軍出て迎え撃て!」


 中隊長はただ、腰を抜かしている。

 対照的に勇ましい司令官らしき声が聞こえたのは、三階に当たる見張り台と思しき窓からのようだ。

 数歩下がって、エテュアンはその窓を見上げた。

 すぐ隣の荷車に乗る、鎧姿の令嬢と頷きを交わす。


「武器を持って兵たちが動くなら、直ちに破壊するぞ! 石造り建築の下敷きになって、全員助からないであろう! もう一度だけ警告を与えてやろうか!」

「何を――」


 声とともに、窓の内側に人の姿が動く。

 次の瞬間、その見張り台窓の上枠がガラガラと崩れ落ちた。


「わあ!」

「納得したか? 次には建物すべてが同様に崩れることになる。何処かに隠れても、すべてを破壊したら命は助からぬぞ! くり返す。十数えるまでに、司令官を先頭に投降せよ! 一、二、三――」

「わ――分かった、待て――すぐ降りる」



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