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聞いて、フラヴィが向かいを覗き込んだ。
「何なの小母ちゃん、どうしようって」
「いや――ね、あんたたちはちゃんと取り調べを受けて、あたしと無関係と証明されるのがいいんだろうねえ」
「まあそれで、無罪放免ってやつになるならねえ」
そのやりとりを聞いて少し考え。
格子に寄って、ジョスランは斜め向かいの牢に低めた声をかけた。
「いや小母ちゃん、そううまくいかないんじゃねえかな」
「どういうことだい」
「きっと昨日のうちに、ヤニクが向こうに森の中でのことを話している。最近の森の異状を領軍でも調べているだろうから、俺たちがどうやって森を抜けてきたか知りたいだろうさ」
「ああ、そうだね」
「中でも特に、山猫と蜥蜴の件を聞いたら、軍として黙っていられないと思うぜ。ふつうじゃ剣が通らないとされている魔獣を、グウェナエルが実質一人で大剣で倒したってことは」
「ああ」
「そんな剣の使い手を、まず軍に欲しくなるだろう。それがうまくいかないとなったら次に考えるのは、こいつを他の領にとられるわけにいかないってことだ。監禁するか、最悪命をとることまで考えないとも限らねえ」
「何だい、そりゃ!」
「そうだねえ、領主や軍の上部はそういう思考になるかもしれないねえ」
熱り立つフラヴィをよそに、アルムは頷いた。
話題にされているグウェナエルは、顔をしかめて黙っている。
「悪いことしちまったかねえ」と、アルムはほとんど聞こえない声で呟いた。
それから首を振り、髪を覆った布を外して、問い返してくる。
「そうなると頭、あんたはどうしたいと思う?」
「確認したいんだが。小母ちゃんさっき、あんたたちはって言ったよな。小母ちゃんはちゃんと取り調べを受ける気はない、逃れる手があるってことかい」
ますます声をひそめて、ジョスランは問いかけた。
不穏なものを感じ始めたか、見張りの兵が腰を上げてこちらに耳を向けている。今のジョスランの言葉は聞こえなかったということだろう。
しかしアルムは気にしないように、脳天に盛り上げた髪を解きながらふつうの声を返した。
「まあそうだねえ。そろそろこの宿をお暇しようかと思っていたところさ」
「手段があるんなら、俺たちもつき合うぜ」
「後悔しないかい? この領からお尋ね者扱いということになるよ」
「構わねえ。この領を出てしまえばそんなの関係ないし、今言ったようにグウェナエルが目をつけられたとなると、同じようなもんだ」
「いいのかい」
ある程度聞きとったようで、見張りはすっかり立ち上がっている。
剣呑な話をしている連中を咎めるか外に報せに出るか、迷ったようだが後者を選んだらしく、こちらに背を向けた。
はああ、とアルムはこれ見よがしに溜息をついた。
「それにしても見張りが一人とは、舐められたもんだねえ」
「え、どういうことだ」
ジョスランが問い返すと。
いきなりグェッと呻き声がした。
喉の辺りを押さえて、見張り兵がこちらに向き直っている。
「な――貴様、何を――」
口を震わせ、目を見開き、呻き声が途切れ。
やがて膝をつき、ばたりと床に伏し倒れていった。しきりと手足を震わせているのが見える。
目を丸くして、フラヴィは隣を見た。
「え、え、小母ちゃん、痺れ茸? 取り上げられたのに、まだ持ってたの?」
「わずかだけど、いざというときのために髪の中に隠していたよ。三人くらいは倒せるだろうかね。あの連中、たいした身体検査もしないんだから、甘いもんだよねえ」
「呆れた――用意周到って言うか」
「それにしても小母ちゃん、見張りは倒したにしても、この格子はどうする?」
問いかけるジョスランを一瞥して、すぐにアルムの目はその奥に流れた。
寝台に腰かけた姿勢の大男に、呼びかける。
「小僧、あんたならできるよ。その格子、あんたたちから見て出入口のすぐ左側、思い切り蹴飛ばしてごらん」
「はあ?」
「頑張りな」
「いや、できるって言われても……」
ぶつぶつ言いながら、グウェナエルは腰を上げた。
言われた箇所に歩み寄り、一度足を上げて格子に宛がってみる。
「ここら辺か?」
「そうだよ」
「よし――こなくそ!」
数歩下がり、勢いをつけて思い切り木の格子に足の裏を叩きつける。
ガガーンと轟音を上げ、およそ二ガター四方の格子が蹴破られて通路に転がった。
「えええーーー、凄い!」
「何て力だよ、お前!」
両側から若夫婦が、とりどりに声を上げた。
構わず、グウェナエルは空いた隙き間から牢を出る。
「よくやった。ついでにこちらも頼むよ。この辺をさ」
「おお」
アルムに指さされた辺りを、大男は睨みつけた。
被害を避けようと、フラヴィとアルムは寝台の奥に下がる。
同様に勢いをつけて蹴飛ばすと、今度は一ガター四方程度の格子が破られた。
「上出来、ご苦労さん」
「よくやった、グウェナエル」
ご機嫌顔で、女二人は牢を出てきた。
その間にジョスランは倒れた見張り兵の様子を確かめていた。脈はまだうっているが、完全に意識を失っている。
見回すと、入ったとき確認したように、四人の持ち物は入口付近に固められていた。見張り兵の物置も兼ねているらしく、剣と盾が一つずつ壁に立てかけられている。見張りの常駐場所からすぐ手を伸ばして掴みとれる位置どりだ。
自分の愛剣を手に取り、奥に呼びかける。
「このまま外に出るのか、小母ちゃん?」
「ああそうだよ。それでもその前に、少し打ち合わせをしておこうかね」
杖を運んでやるとそれを使って、アルムは持ち物の場所に出てきた。グウェナエルの大剣、フラヴィの弓矢、木の車や粉類の袋など、ほぼそのまま積み上げられている。
二人はそれぞれの武器を装備し、アルムは大袋の中身を少しずつ小袋に取り分けて腰に結わえつけた。
「このまま城の外まで脱出するのか? たぶんすぐ見つかって、昨日のように兵が出てくるぞ」
「昨日は端から抵抗する気がなかったけどね。今度は少しやり返してみるさ」
「どうやる?」
「昨日、見ただろう。兵士たちは茸を警戒して鼻と口を布で覆っていたけど、目はそのままだ。アヒイをぶつければ、戦闘不能になるよ。新たにヤニクからアヒイの情報を聞いているかもしれないけど、目を保護する道具なんてあり得ないからね」
「そうだな。王都辺りじゃガラスなんていう透かして向こうを見るものがあるらしいが、とんでもない値段らしい。そんなの兵士全員に用意はできないわな」
「そういうことさ。だから、猿魔獣を相手した要領で何とかなる。むしろ猿より足が遅い分、やりやすいくらいだろうさ」
「マジかよ」
「問題は、粉が届かない距離からの弓矢だね。姉ちゃんはとりわけ、弓矢の存在を見つけるのに集中しておくれ。もしかすると建物の陰とか、二階の窓とかから狙うかもしれないからね」
「分かった」
「もし矢を射かけられた場合、あんたたちは対処できるかい」
「そうだな――よし、この見張り兵のものらしい盾をもらっていくか。これで射手の向きが分かれば、自分とフラヴィは守れる」
「俺は、大剣を盾の代わりにできる」
「そうかい、頼もしいね」
「それなら小母ちゃんは、俺が背負った方がいいな」
「そうだね。頼むよ」




