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転生調理令嬢は諦めることを知らない  作者: eggy
第2章 ミニョレー伯爵領

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13

 最初の数匹に少し遅れて、木の陰に次々と猿魔獣が姿を見せているのだ。

 さらに奥にも続いているようで、総勢何匹か見当もつかない。

 ジョスランに向かってきた三匹のうち、二匹は手前で痙攣しながら伏せ倒れた。アルムが痺れ茸を食らわせたらしい。

 痙攣しながらも飛びかかってくる一匹を、剣で斬り払う。

 アルムは右左を交互に見ながら、茸を飛ばしている。

 それで迫り足の鈍った魔獣を、グウェナエルも次々と斬り飛ばしている。


 キイイイイイーーー

 キイイイイイーーー

 キイイイイイーーー


 自分のいる左側よりアルムの右側の対処がやはり遅れるようで、ジョスランに向けて絶えず猿が襲いかかってきた。何とか茸を食らわせているようだが、効き目が回る前に肉薄してくることになっているのだ。

 フラヴィも手段を選ぶ余裕なく、次々と火魔法をぶつけている。

 ヤニクは小刀を抜いて、アルムの車を護っている。

 ジョスランが斬り捨てただけでもすでに十匹を超えるが、奥から駆け出すやつらはまだ続くようだ。


 キイイイイイーーー

 キイイイイイーーー

 キイイイイイーーー


 斬り捨てる。叩き飛ばす。斬り捨てる。

 息を継ぐ余裕もないほどに殺到が続き、ひたすら剣を振り回す。

 斬る。斬る。斬る。

 茸の効き目で倒れ伏すものと間に合わず飛びかかってくるもの、最初は前者の方が多かったが、徐々に逆転してきたようだ。それだけ、アルムの対処が限界に来ているのだろう。

 斬る。斬る。斬る。

 それが、数十ミーダ(分)も続いたか。


「きゃっ!」

「どうした!」


 細声の悲鳴とものの転倒の音が背後に立ち、ジョスランは一瞬振り返った。

 交互に両側に向き直っていたアルムが、振り向く弾みで車ごとひっくり返ったらしい。

 助けに行く、余裕もない。

 茸飛ばしが途絶えた分、勢いをもって魔獣が飛びかかってくるのだ。

 その数もいきなり増え、剣で払うのがやっとという現状になっている。

 辛うじて剣を掠めただけの個体が背後に駆け抜け、アルムとヤニクの位置に迫っていった。


 ギヒイイイーー


 拙い! と思ったが。何とかヤニクの小刀で始末できたようだ。

 必死に前に向き直り、新しい客を斬り飛ばす。

 そのうち、また目の前で痙攣し伏せるものが出てきた。地面に座り込んだまま、アルムが茸飛ばしを再開したらしい。

 ありがたい、とジョスランは剣を振る手に力を込め直す。


 キイイイイイーーー

 キイイイイイーーー


 さらに猿の出現は続いたが。

 斬る。斬る。斬る。

 その連続で、やがて殺到する数が減ってきたようだ。


 ギヒイイイーー


 目の前の一匹を斬り飛ばすと、その後ろに続きの姿はなかった。

 終わったか。

 木々の奥を確認し、背後を振り返る。

 ちょうどグウェナエルも、最後の一匹を斬り捨てたところらしい。


「それで終わりか?」

「らしい」

「やったああーー」


 隣で、フラヴィも両手を挙げている。

 道上に座ったアルムが天を仰ぎ、大きく息を吐いている。

 その横に、ヤニクもへたり込んでいった。


「とんでもねえぜ、この数」

「両側それぞれ、五十匹ぐらいになるか?」

「だな」


 ジョスランに問われて、グウェナエルは頷いた。

 大剣を放した右手を、しきりと振っている。筋肉が固まりかけているのだろう。

 ジョスランも、両肩を回してみる。

 そこへ、アルムが声をかけた。


「まだ、終わりじゃないよ」

「え?」

「痺れ茸だけで倒れているやつ、止めを刺しといて。でないと後から追ってくるかもしれないよ」

「そうだった」


 少しでも効き目の早い方法をということで毒ではなく痺れ茸を選択しているので、多くの魔獣がそのうち復活してくるはずなのだ。

 ジョスランとグウェナエルは両側の草むらに入り、倒れている魔獣の首を斬って回った。

 疲れ切った様子のアルムにフラヴィが手を貸して、元通り車に乗せている。

 ヤニクは少し距離をとって歩き、死骸の数をかぞえている。


「見えただけで、九十二匹だ。本当、とんでもねえ」

「いつもその群れをなしているって場所でも、こんなにいないのか?」

「俺が出遭ったのは三十何匹とか、多くても五十匹いってねえぜ」

「こいつらも何かの原因で、増えているのか」

「かもしれねえ。出てきた場所も、群れでこんな手前ってのは初めてだ」

「やっぱり状況が変わってきているってことか」

「かもしれねえぜ」


 歩き出しても、ヤニクの深刻な表情は変わらない。

 他の面々も、これまで以上に気を引き締めて足を運ぶ。

 が、少し進んだところでフラヴィが夫の肩を叩いた。


「ほらジョスラン、こういうとき緊張のし過ぎもよくないって言うじゃない。肩の力を抜いていないと咄嗟の行動ができないって」

「ああ、そうだな」

「あたいは、それほど悲観する必要もないって思うけどね。本来あたいたちだけじゃ対処できなかった大牙狼おおきばおおかみとか、猿九十匹だとか、小母ちゃんがいれば撃退できるんだ。小母ちゃんやっぱり、凄いよ」

「それは確かだけどな。しかし猿にしてももっと数が増えたり、もっと手強い魔獣が出てきたりしたら、どうなるか分からねえ」

「結局小母ちゃん次第だね。さっきの活躍は凄かったよ。そんなに動いてないって言っても、両側交互にずっと茸を飛ばしっ放しだったんだから、疲れるよねえ。今のうちに車で休んでいてよ、小母ちゃん」

「ああ、ありがとうね」


 車の方に笑いかけて、フラヴィはすっかりこの場を和ませるつもりになったようだ。

 思い出したように、口に手を当ててくすくす笑う。


「そう言えばさっき小母ちゃん、なんか可愛かったねえ」

「ん、何だい」

「車が倒れちゃったときさ、キャッて悲鳴、小さな女の子みたいだった」

「そう――だったかい。まああたしだって、女だからねえ」

「そうだよねえ」


 話しながら歩くうち、離れた木々の間に大きな影が見えた。

 熊か。

 一同緊張したが、アルムがアヒイをぶつけるとそのまま去っていったようだ。


「確かにそのアヒイか、便利なもんだぜ。本当に、たいていの魔獣に効き目があるみたいだな」

「特に嗅覚の優れたやつには、効き目が大きいみたいだね」


 感心したヤニクとやりとりしながら、その場を離れる。

 その後も変わらず、兎魔獣や小鬼猿の単独のものなどが接近したが、難なく剣で仕留めることができた。

 ヤニクの言う小鬼猿の群れが出やすい岩地というところも、この日はそうした姿が見られない。やはりさっきの群れが、ここから移動したものだったのだろう。

 予想外のことがあったにしても、行程は遅れることなく、この日の宿泊場所に到着した。



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