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夕食をとりながら、焚き火を囲み。
頬を大きく膨らませて、ヤニクが切り出した。
「やっぱりいろいろ見て、森の中が前より異常になっていると思うしかねえ。ここは考えもんだぜ」
「どういうことだ」
「小鬼猿の群れが南に向けて移動している。大牙狼もこちらに向けて大きいのが増えているみたいだ。てことは、北側に狼よりも強いやつの動きが活発になってるのかもしんねえ」
「例の、龍か」
「龍ならある程度領主様のところで管理できているからいいと言えるが、問題は龍と狼の間の強さのやつだ」
「そんなのが――まあ、いるわけか」
「こないだも言った、岩鎧蜥蜴なんてのがいる。それから灰色牙熊ってのが、これも図体が大きくて厄介だ」
「図体が大きいってことは、小母ちゃんの茸も効かないか効くまで時間がかかるか。グウェナエルの大剣も通じないかもってわけか」
「そういうことになる。いやこいつらはどっちも、今の季節ならまだあまり動きが活発じゃない。そう思って今回の行程に反対しなかったんだがな。もしかしてそんなのまで動き出しているかもしれねえとすると、この先進むのは考え直した方がいいと思うぜ」
「なるほどな」
「考え直すなら、今夜が最後の機会だぜ。もう明日は森の中央部に入って、引き返すのも大変なことになる」
「そうか」
相槌を打って聞いていたジョスランが、大きく頷いた。
そうして、残り三人の顔を見回す。
「今のを聞いて、どうする?」
「あたしは一人でも前に進むよ。ただあんたたちは、ここから引き返すのも自由だ。森の向こうまでっていう契約だけどね、ヤニクの言うように前提になる条件が変わっているんなら、ここで考え直してもいい。違反扱いしないで依頼料の半額は支払われるように、協会に向けて一筆書いてあげるよ」
「そうか」
「俺は、小母ちゃんと行く」
アルムの言葉を聞き終わって、グウェナエルがぶすっと声を入れた。
ジョスランとフラヴィは、やれやれと苦笑顔を見合わせる。
「言うと思ったよ」
「仕方ねえな」
肩をすくめて、ジョスランはヤニクに向き戻った。
小男は、これ以上ないほどに顔をしかめている。
「こいつがそう言うんなら、俺たちもつき合うことになる」
「マジかよ。正気の沙汰じゃなかったって、後悔するかもしれないぜ」
「まあ、決めたことだ」
「お前らがそうするなら、俺一人で引き返すわけにいかないぜ。俺の腕じゃ、これまで来た道も切り抜けられねえ」
「悪いな」
「マジかよ」
腕を組む案内人を見て、他の面々はかける言葉をためらっていた。
それでもややしばらくの沈黙を破って、アルムがぽりぽり頭をかきながら言った。
「蜥蜴と熊、って言ったね」
「ああ、とりあえずな」
「絶対とは言えないけどね。そんなのが出ても、あたしとこの小僧で何とかするよ。あんたは隠れていていい」
「何とかするって、簡単に言うけどよお」
「一応、算段はあるのさ」
「本当かよお」
「ああ」
「そんなにまでして小母ちゃん、行かなきゃならない用があるんかい」
「そうだよ」
「命がけの用ってわけかい」
「まあね」
「とんでもない依頼を受けちまったぜ」
深々と、溜息をつく。
その肩を、ジョスランがばんと叩いた。
「小母ちゃんはああ言ってくれてるけどよ、もともと俺たちはそんな危険も含めて依頼を受けているはずだろう」
「そうだけどよお。たぶん今のこの森の状態、俺が知る範囲を超えて危険になってる気がするぜ」
「それでも、お前の知識が頼りだ。頼むぜ」
「……ああ」
三日目の朝も、早くから行軍を再開した。
引き続き、山道は険しく狭くなってきている。
魔獣の襲来頻度も、高まる一方だ。
兎、猿、鼬、狐、などに形は似せて身体を大きくしたような魔獣が林の中をうろつくのに出遭い、すぐに餌発見、とばかりに駆け寄ってくる。
この程度の魔獣単独なら、二人の剣で屠ることができる。しかしとにかく襲来が頻発して、休む暇もない。各々の体力が心配になってくるところだ。
とは言え体力では人後に落ちないグウェナエルは、数時を経ても変わりなく車を引きながら大剣を振り続けている。
かなり坂が急になってきたところで、グウェナエルは車を背負子に変形し、アルムを乗せる形に変えた。
車に乗せてきた荷物は、鍋と食材関係をヤニクが持ち、アヒイや茸の袋をフラヴィが背負うことにする。剣士たちは原則、両手を空けておくことになる。
「いよいよ、森の中心部になるんだねえ」
「そうだぜ。昨夜言ったでかいやつはあまり高地にいないと思うが、今までかかってきていた小型から中型のやつは、ますます盛んになってくる」
「ますます気を抜けないってことだねえ」
木の茂りが密になり、周囲は薄暗さが増している。
何とも言えない剣呑な空気に、フラヴィとヤニクの会話も声を潜めたものになっていた。
この日の予定として昼食休憩はとらず、ジョスランの水魔法で喉を潤す程度にして一気に峠を越えようということになっている。
襲ってきた猿魔獣五匹を撃退し、見晴らしのいい岩場に出て飲水休憩をとった。
男たちに比べて疲労の色を見せるフラヴィは、足を伸ばしながら問いかけた。
「ここが森の中央ってことになるのかい」
「距離で行くと、中央より少しまだ南側だな。それでもまあふつうは、ここを真ん中辺と見当をつけているもんだぜ」
「これで半分かあ」
やや下り気味の道を進み始め、しばらくしたところで先頭のヤニクが足を止めた。
素速く周囲に耳を傾けている。
「何かでかいのがいるぜ。前方――と、右にもか」
「右の、後ろに回っているよ」
フラヴィも、右から後ろを見回した。
すぐにがさりと、前方に濃い茶色の大きな獣が現れた。
「茶眩山猫だぜ! 動きが素速いから注意しろ」
「ああ」
ヤニクが叫んで、グウェナエルの背後に隠れる。
前方を睨みつけて、大男は大剣を握り直した。
「後ろにも、山猫だよ!」
「くそ! 二匹一緒に来るなど、聞いたことがないぜ」
ヤニクが愚痴るその間に、前方獣の顔面に緑の粉が炸裂した。
ギャイイイーーーン!
すぐに振り向き、アルムは後方の一匹にもアヒイをぶつけた。
ギャイイイーーーン!
ジョスランは妻の前に立ち、後方の魔獣に向けて剣を構える。
グウェナエルはものも言わず、前方に向けて駆け出した。
「茶眩山猫は、狼並みに毛皮が硬いぜ!」
「おお!」
辛味の粉を浴びてのた打つ魔獣に肉薄し、グウェナエルは大剣を振り下ろした。




