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木々の間を進むことになり、かき分けた細い枝がバチバチと肩に当たったりする。
ゆっくり歩きながら、グウェナエルは背中の女を気遣った。
「小母ちゃん、大丈夫か? 枝が顔に当たったりしないか」
「あんたの広い肩で遮られてるし、顔は手で庇うから大丈夫さ。もっと速く歩いてもいいよ」
「そうか」
歩き進みながら、全員辺りの気配に耳を澄ます。
特にこうした気配察知はフラヴィの役目ということになっているので、森の外とはうって変わって真剣な表情になる。同様にアルムも、目を細め口を一文字にして集中しているようだ。
やや奥に来て、草地の開けた場所に出た。
「いる。兎かな」
「左手だね、あんたたちから見て」
「うん、あの木の陰」
フラヴィとアルムが潜めた声で報せ、男たちは剣に手をかけた。
フラヴィは弓に矢をつがえる。広い場所なら火魔法で機先を制するのが彼女の役割だが、山火事を起こしそうな場所では使えないので、弓矢と併用する習いだ。
その点この日は、アルムが替わってその役目を果たすことになっている。フラヴィの火魔法と同様に確実な射程距離は三十ガターくらいということだが、魔獣の足を止める威力がどの程度か三人は興味津々だ。
二人が気配察知した木は、五十ガター程度先にある。四人揃って、そちらに目を向けた。
アルムは背負子の中で身を捻り、グウェナエルの肩越しに顔を出すという姿勢になっている。
「来た!」
「あいよ」
木の陰から、飛び出す姿があった。そこまでの間は草が茂って認識しにくいが、目を凝らすとガサガサと茶色の頭部が見え隠れしながらかなりの速さで突進してきている。
その距離、三十ガターくらいになったかと思われるところで。
キィィーーー!
かすかに高い声が上がり、その足どりが乱れた。
勢いづいたそのままに十ガター程度近づいたが、やがてバタリと前のめりに倒れたようだ。
キィィという声が、やがて途絶えた。
「やったか?」
「静かに。また来るよ」
ジョスランの呻きを、アルムが制した。
見ると、今獣が出てきた木と少し離れた陰から、同様にガサガサと草の中の疾走が始まっている。
その動きも、途中で乱れた。先行者より少し長い時間がかかったかというところで、バタリ倒れて気配が消える。
ややしばらく様子を窺って、ジョスランは仲間たちの顔を見た。頷きかけて、獲物を確かめに進み出る。
その背へ、アルムが声をかけた。
「初めのやつに痺れ茸、次のに毒茸を食らわせたよ。痺れの方は時間が経つと動き出すから、止めを刺しておいとくれ」
「分かった」
頷いて、言われたように確認と処理をしている。
もう危険がないと判断して、フラヴィとグウェナエルもそちらに寄っていった。
絶命した足太兎を覗き込んで、フラヴィは唸った。
「確かに、三十ガターぐらい先に一発必中できるんだねえ。そのぐらいで食らわせれれば、こっちに着く前に動かなくさせれると」
「そのようだな」
「これは、あたいの火魔法より効果あるね。あたいのだと兎や鼠、猿とかなら同じぐらいの距離で突進を止めれるけど、それだけで仕留めるわけにはいかないもの。猪ぐらいになると、突進の足を緩めるのがせいぜいだ」
「猪だと最大量の痺れ茸を食らわせればこちらに着く頃には意識朦朧って感じだから、飛びかかられても身を躱してお終いだね。狼魔獣だと、動かなくなるまでもう少しかかる」
「そうか。痺れ茸だと命は奪えないが、動けなくなるまでの時間は少し短いのか」
「今見た通りくらいの差だね。ほんの数ミン(秒)の違いかもしれないけど、場合によっては大きい」
「そうだな」
確認して、ジョスランは頷いた。
横で、フラヴィは改めて目を大きくしている。
「――って、小母ちゃん、狼魔獣と闘ったこともあるの?」
「一回だけさね。こっちはこの脚で躱すだけでもぎりぎりだから、毒茸が効くまで生きた気がしなかったよ」
「そりゃそうだろうさ。大牙狼はあたいたちの他に数人でかかって、ようやく一頭狩ることができた相手だよ」
「だろうねえ」
「本気かよ」
三人で、呆れた顔を見合わせた。
溜息をついて首を振り、ジョスランは考えを整理する。
「てえことは今のように、三十ガター以上先で接近を見つけれれば、小母ちゃんが茸を食らわせて足止めできる、と。効くのが遅くて飛びかかられたら、俺とグウェナエルが対処すればいい。まずはフラヴィと小母ちゃんの気配察知が大事、ということだな」
「そうなるね」
「それと――」
「ちょい待ち、次のが来たよ」
アルムが左手を指さし、三人は揃って振り向いた。
すぐに、草の中にガサガサと音が近づく。
「今度は足止めだけにするからね、頭、あんたが対処しとくれ」
「え?」
アルムの声とともに、接近していた獣がギャッと跳び上がった。そのままその場に横転、のた打ち始める。
見るや、ジョスランは駆け出した。
草の中を転がり回る兎魔獣に近づき、一刀で首を落とす。
「おい、今のは何なんだ? さっきのより効き目が早かったじゃないか」
「アヒイの粉を顔面にぶつけたのさ。それだけで仕留めるわけにはいかないが、即効で少しの間動きは止められる」
「何と――」
「アヒイ?」
「確かに、効きそうだな」
こちらで、フラヴィとグウェナエルも唸っている。
さらに首を振りながら、ジョスランは戻ってきた。
「つまり小母ちゃんは、三種類の攻撃手段を持っているわけか」
「そうだよ。できるだけ状況に合わせて使い分ける。例えば狼魔獣を追い払うだけなら、このアヒイの方が効果的だよ。完全に息の根を止めるには、別の攻撃が必要だけどね」
「なるほど、な」
「小母ちゃんこれ、例えば魔獣が一斉に走ってきたときは、相手できるの?」
「三十ガター以上離れて十匹以内なら、なんとかなるよ。群れを作る小鬼猿でも、それ以上横並びで一斉に来たというのは見たことがない。せいぜい数匹ずつであとは縦に続いてくるから、対処できるね」
「そうなんだ」
「いちばんの問題は、この粉類がなくなったらお終いということさ。今日はこの小袋だけど本番のときは十分な量を準備するから、運ぶのを手伝っておくれ」
「なるほど。乾燥しているのならそう重量はないだろうな」
「そうだね」
「了解だ」
ではそれぞれの攻撃法を組み合わせてやってみよう、ということになり、主に兎魔獣狩りを続けた。
試しながら、主にジョスランとアルムで三種の粉の使い分け、剣士たちの動きなど、打ち合わせをする。
一通り試し納得し、その頃には魔獣の出現も収まっていた。四人は見晴らしのいい草原に腰を下ろして、相談することにした。
「これで納得してくれたかね、あたしの魔獣狩りについては」
「ああ、納得だ。これなら小母ちゃんの言うように、四人で組めば狼魔獣までは対処できそうだ」
「だねえ」
「ああ」
「それで――」とジョスランは仲間たちの顔を見て、確認をした。「そういうことなら小母ちゃんの護衛、引き受けられそうだ」
「そうかね」




