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転生調理令嬢は諦めることを知らない  作者: eggy
第2章 ミニョレー伯爵領

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 喜ぶかと思いきや、アルムは苦笑のような顔でいったん口を閉じた。

 そうしてひと息の後、改めて口を開く。


「ある程度判断をしてくれた後でこれを言うのは、まったくもって申し訳ないんだけどね。まだ言ってなかった依頼の詳細を聞いてから、もう一度考えてもらいたいのさ。依頼の目標は、魔の森の奥で終わりじゃないんだ」

「え、どういうことだ」

「くれぐれも他言無用で頼むよ。今回の依頼の実際は、魔の森の向こうなのさ。向こうの領都まで、あたしを生きて送り届けることなんだ」

「向こう――領都?」

「そうだよ」


 息を呑んで、ジョスランは仲間二人の顔を見た。

 二人は、思ったほどに狼狽していないが。


「道中魔獣を撃退できるかは、奥までと向こうまでで同じだな。噂の龍でも出てこない限り、向こう側でも魔獣の強さは変わらないはずだ」

「そのはずだねえ」

「ああ」

「問題は、向こうに着くまで五日程度かかることか。往復で十日以上見なければならん」

「旅から帰ってきたばかりであたいたち、別に決まった予定もないよねえ」

「ああ」

「じゃあ二人とも、領都まで行くことに反対はないか」

「ないよお」

「ああ」

「うーーむ……」


 結局いつも通り決断はジョスランに丸投げされるわけで、腕を組んで熟慮することになる。

 そのしかめ顔に、アルムが続けた。


「あとこれも、はっきり言っておかなくちゃならない。依頼内容はあたしを領都まで届ける、そこで終了だ。あんたたちはそこから急いでこっちへ戻っとくれ」

「何だい、急いでってのは」

「事と次第によっちゃ、あたしは向こうで領のお尋ね者になるかもしれないんでね。あんたたちは関わりにならないようにしたい」

「何だよ、お尋ね者って」

「詳しくは言えないけどね。あたしはあっちに、盗られたものを取り返しに行くのさ」

「盗られたもの――」

「これ以上は言わないよ。あんたたちを巻き添えにしたくない」


 言って、アルムは口を一文字に結ぶ。

 それでもジョスランが渋い顔で黙っていると、ためらう様子ながら言葉が続いた。


「腹を割らせてもらうとね。本当は誰にも助けを求めず、一人で行きたいのさ。しかし見せた通り、魔獣相手は死に物狂いで何とかなるかもしれないにせよ、あたしの脚ではどうやっても領都まで行き着けないんだよ。魔の森縦断はふつうで早くても五日というならあたしなら十日でも無理だ。同伴者なしなら睡眠もとれないことになるしね。森を迂回する街道は半月以上かかると言うけど、あたしなら途中で体力回復しながらということになって、何ヶ月かかるか分かったもんじゃない」

「ああ……」

「だから正直、本当に欲しいのはあたしを担いで運んでくれる人手なのさ。ただそれで魔の森を越えるには、それなりに戦闘力も必要になる」

「まあ、そうだな。だから俺たちが適任なわけか」

「そうさ」

「小母ちゃん」


 唐突に、それまで黙っていたグウェナエルが口を開いた。

 じろり、とアルムはそちらへ目を移す。


「何だい」

「その盗まれたものってのは、小母ちゃんの大切なものか」

「命に替えてもってやつだね」

「取り返したら、犯罪になるのか」

「一般的には微妙なところだろうけど、今回の場合はまず領に睨まれることになるだろうさ」

「それでも、絶対やるのか」

「やるよ。あんたらに断られても、絶対諦めないさ。何とかでも、森を越えて運んでくれる人を探す」

「そうか」


 いつになく積極的に話し始めた弟分を、仲間二人はぽかんと眺めていた。

 表情を変えず、グウェナエルはそちらに向き直った。


「ジョスラン、俺は一人でも小母ちゃんにつき合う」

「突然、何だよおい」

「この人がこの身体で、命を賭けてもやるって言ってるんだ。黙って見ていられねえ」

「お前らしいっちゃらしいがな」

「今の話なら、最低俺一人でもできる依頼だ。お前らは今後少し稼いだら、落ち着いて子どもを作ろうかって言ってただろう。無理することはないと思う」

「まあ、言っちゃいたけどな」

「何言ってんのさ」


 いきなり、フラヴィが声を上げた。

 びくり、とグウェナエルが目を瞠る。


「うちらは三人で一組だろう。あんた一人に任せらんないよ。小母ちゃんを運ぶだけならあんた一人でできても、ジョスランの判断とあたいの気配察知は必要だろうさ」

「まあ……」

「それにさ」少し悪戯めかした顔で、夫を見る。「今回の依頼料、三人で一年近く暮らせる額って言ったよね。子ども作るのにもありがたい収入じゃないか」

「まあ、そうだな」

「何あんた、迷ってるのさ」

「いや、迷うっつうか――考えていたのは、別のことだ」


 頭をかいて、妻に首を振り。

 ジョスランはアルムの顔を見直した。


「実を言うとさ、俺たち魔の森を完全に抜けたことは一度もないんだ」

「ああ、聞いたね」

「今日試したので、魔獣対策は目処が立ったかもしれない。それでも森の中央部からさらに向こうに行ったことはなくて、街道は一本道だということだが、魔獣の出やすい場所だとか休憩に適したところだとか、そんなことがよく分からねえ。できたら、そんなところに詳しい奴を一人一緒に連れていきたい」

「ああ、もっともな話だね」

「何人か心当たりのあるのがいるから、そんなの一人を仲間に入れていいか。依頼料は今のを四人で分けるから変わらない」

「依頼料は要相談だけどね。それよりも、信頼できる人間かどうかだ」

「俺たちが何度も組んで森に入った奴だから、人間は保証する」

「そこはあんたを信用するしかないかねえ。分かった。とりあえず一度、会わせておくれ」

「おう」

「急がせて悪いけど、今日これから探せるかい」

「やってみるよ」

「それで、引き受けるってことでいいんだね」

「そうだな」

「それなら、小僧はもう少しここで、あたしと連携を練習してもらいたい。あんたたち二人で、その人を探してくれるかい。ああ、今さっき言ったあたしの目的は秘密でね、森を縦断したいということだけで打診しとくれ。引き受けそうならこの茸の件は伝えておいていいよ」

「分かった。二人、いいな?」

「いいよ」

「ああ」


 そういうとり決めで、ジョスランとフラヴィは街に戻ることにした。

 街の壁目がけて歩きながら、フラヴィは夫の横顔に苦笑を向けた。


「あんなにグウェナエルが前向きになるなんて、予想してなかったねえ」

「ああ。あいつらしいとも言えるが」

「困っている子供やお年寄りがいたら、黙っていられない性格だもんねえ」

「あまり護衛対象に入れ揚げたら、自分を護ることが疎かにならないか心配だよ」

「見たところは大丈夫だと思うよお。むしろ小母ちゃんの方がグウェナエルを護る場面もありそうだし」

「状況によりけりだよな。困った事態にならなければいいが」


 魔狩人協会に寄って尋ねてみると、探し人はすぐに見つかりそうな手応えが得られた。数日間の泊まり込み任務から昨日帰っているので今日は休んでいるだろう、という情報なので下宿を訪ねてみることにする。

 古びてがたつく階段を登り、ジョスランは木の扉を叩いた。


「ヤニク、いるか?」

「おう、いるぜ」



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