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4話 そんな装備を明かして大丈夫か?

これまで奥野と切岸さん以外に教えていなかった指輪の存在を明らかにしたことで、二人から「内密はもう良いんですか?」と言いたげな表情を向けられるが、ここは敢えてこう答えよう。


「大丈夫だ、問題ない」と。


というのも、だ。

そもそもこれらの指輪は、俺の妹や奥野の妹、さらには藤本興業の令嬢こと紗季嬢にも貸し出す予定だったので、遅くとも来年には但馬さんにも指輪の存在が露見することになることが確定している。


そのときになって『これまで積み重ねてきた信頼関係は嘘だったのか?』などという感じになるくらいなら、付き合いが浅く、それほど信頼関係を築いていない今この時に「今までは信用が足りなかったので秘密にしていました」と堂々と明かした方が、将来的な面倒が少なくなると判断したのである。


また、この場にシータさんがいるのも、理由としては大きい。


彼女は、前回の探索で俺が貸した【ステータスの上昇値を五〇%上昇させる指輪】を装備したままレベリングを行い、レベル以上のステータスを有するに至っている。


彼女と彼女の上司は、今回の探索では前回以上の成果が得られると思っているだろう。


その考え自体は正しいが、微妙に足りていない。


正直な話、このままレベリングを重ねても、近い将来彼女はインドネシアにおいて最強の探索者になれる。

なれるが、最強の探索者になった後はどうするのか?

インドネシアに帰って向こうのダンジョンに潜る?

ありえないとは言い切れない。

インドネシア政府の判断によっては、そうすることもあるだろう。

しかし、インドネシアがその選択をする確率は、極めて低いと言わざるを得ない。


なぜなら、通常ダンジョンとは一人で攻略できるようなモノではないからだ。


最低でも単純な戦闘要員が二人と、罠や敵を発見するための斥候役が一人は必須なので、この時点でまず三人。

さらに人数分の水や食料、武器や防具はもちろんのこと、テントや簡易トイレなどの道具類を持ち込み、管理する後方支援要員も必要となるので、これで四人。

そこに、交代要員や後方支援役の護衛を入れれば六人。

最低でもこれだけの人員が必要となるのである。


つまり、特殊なスキルと経験がある上に、レベル一の段階からチート装備を使っていた俺だからこそ単独での攻略が可能なのであって、普通は単独での攻略など不可能なのである。


故にインドネシアは彼女にパーティを組ませる必要があるのだが、悲しいことに彼らは強化されたシータさんを活かすことができるレベルの人員を用意することができない。


そうなるとシータさんは、他のメンバーを護りながらダンジョンを探索することになるのだが……それをやれば、極めて高い確率で過労で倒れるか、実質的に足手まといとなっている他のメンバーに対して負の感情を抱くことになるだろう。


パーティーの中で最強の探索者が多大なストレスを抱えるようなパーティーの探索が、上手く行くはずもない。


良くてもパーティー崩壊。

悪ければシータさんを含めたパーティーの全滅。


どちらに転んでもインドネシアに得はないし、当然、そうなることは予見できるだろう。

故に、彼らはこう考えるはずだ。


『我が国の発展のためにはシータと同等のパーティメンバーを作る必要がある。そのためには同じ効果を持つリングを手に入れる必要がある』と。


そして現状、彼らが求める指輪を用意できるのは俺だけだ。


なので、インドネシアは彼女を俺に張り付かせようとするはずだし、インドネシアを味方に付けたい俺としてもそれはありがたいことなので、彼女を拒絶するつもりはない。


そこまでは良い。

問題は、今のままだとシータさんが俺たちの探索に付いてこられなくなるという点にある。


そもそも俺が求めているのは”インドネシア最強の探索者”ではない。

一定以上の信用が置ける上に、将来的には俺と一緒にダンジョンの最深部に挑める程度の能力を備えた探索者を求めているのだ。


信用に関しては、インドネシアという国が担保しているので問題はない。

状況によっては裏切られる可能性もあるが、そんなのは誰だって一緒だ。

むしろ彼女の場合、インドネシアという国に対して適度に飴を与え続けることができれば絶対に裏切らないのだから、ある意味では筧さんたちよりもやり易いとさえ言えよう。


この時点で、彼女は俺の目的に巻き込むだけの価値がある。

残る問題は彼女個人の能力。


チート装備とチート職業のおかげで記憶の中の俺と比べても倍以上のステータスになることは確定しているとはいえ、お客さんを守護りながら攻略できるほどダンジョンは甘くない。

特に六〇階層以降は、文字通りの魔境だ。

そんな場所に連れて行くのだから、俺に全力を尽くさないという選択肢はない。

故に、前回彼女と出会い、今回こうして彼女がこの場に来た時点で【ステータスの上昇値を倍加させる指輪】の存在を明かすことは決まっていたのである。


尤も、この理屈であれば霧谷のお嬢さんにまで指輪を渡す必要はないのだが、まぁ、あれだ。

元々「シータさん一人が強くなるのはズルい!」と言って乗り込んできた彼女が、シータさんと自分が装備している指輪の違いに気付かないなんてことは考えづらいし、バレたときに「ズルい!」と臍を曲げられたら面倒なことになりそう――具体的には西川さんが絡んできそう――だったので、言われる前に開示した次第である。


そんなわけで、現時点で【ステータスの上昇値を倍加させる指輪】を装備しているのは、俺と奥野と切岸さんとシータさんと霧谷組のお嬢さんの五人。

組織別でみれば、龍星会が三つ、鬼神会が一つ、インドネシアが一つとなり、筧さんが所属する河内連合だけがこの恩恵に与れていないということになるのだが。


「凄いの持ってるんやねぇ。ちなみにそれは、僕らの分もあるん?」


「え? ありませんよ」


あるはずがなかろう。


「……なんで?」


なんでもなにも。


「筧さんはともかくとして、筧さんが所属している河内連合さんはまだ信用していませんので」


「……さいですか」


しょんぼりした筧さんには悪いが、襲撃する前に事実上の無条件降伏をした西川さんと、失敗したとはいえ襲撃を仕掛けてきた上に、今も上下関係がはっきりと定まっていない河内連合が同じ扱いな訳がないんだよなぁ。


恨むなら、数日前にあのゴツいおっさんを止めなかった過去の自分たちを恨んでくださいってな。


閲覧ありがとうございました


以下宣伝



3月13日に、拙作の三巻が発売となりました。

約12,000文字の加筆に加え、細部の修正、書き下ろしSSやコミカライズの情報なども載っていますので、興味がある方はお手に取っていただければ幸いです


よろしくお願いします

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