3話 釣れた魚には餌をあげましょう
本日3月13日に拙作の三巻が発売となりました
よろしくお願いします
「と、まぁ簡単に纏めるとこんな感じやな」
「はぁ。つまり西川さんとしては、ただお嬢さんの我儘を赦したわけではない、と」
「せや。最初はな、俺もさすがに厚かまし過ぎると思ったさかい、話を聞いたあとで適当に言いくるめて指輪を回収しようと思ったんや。けど、今はお嬢の意見もあながち間違いやないと思っとる。もちろん、そっちの思惑はどうあれ、これが厚かましいお願いやってことは重々承知しとるつもりやさかい、対価はきちんと支払うで」
「……なるほど」
確かに、霧谷のお嬢さんの言い分は間違っていない。
間違っていないどころか、実際に俺は彼らを巻き込むつもりで指輪を貸したのだ。
よって、巻き込む以上はそれなりに役に立ってもらわないと困るというのは、その通り。
お嬢さんが人質に取られた時点で裏切るような連中に信用が置けないというのも、その通り。
そこから「自分が弱点になるなら、自分自身が襲撃者よりも強くなればいいよね」という発想に至り、即座に実行に移そうとする行動力は、正直「良いところのお嬢さんとしてどうなんだ?」と思わなくもないが……見方を変えれば、彼女は近い将来に起こる可能性が極めて高い問題を想定し、その解決策を自分で考え、さらには「なんで自分がいるのか?」という疑問に答える形で、西川さんと俺が交渉を行う場を作っているのだ。
この交渉がなければ、鬼神会が得られる指輪の数は一つで収まっていたことを考えれば、彼女は交渉人としてかなり優秀な部類に入るのではなかろうか?
さらに言えば、彼女は俺では絶対に得られない武器を持っている。
「へへへ。シータちゃんだけ抜け駆けはさせないからね!」
「いや、ズルいとか抜け駆けって言われてましても……私も巻き込まれた側でしてぇ……」
その武器とは、愛嬌だ。
真正面から、それも笑顔で『抜け駆けはさせない』と宣言されたシータさんはドン引きしているが、他はそうでもない。
「お嬢。後輩に抜かれたくないって気持ちは俺もわかっとるけど、あんまし迷惑かけたらあかんよ」
「まぁまぁ、西川さん。若い子にはそれくらいの勢いがあった方が良いって」
「ですなぁ。パソコンの前に座ってグチグチと能書きを垂れるだけのお子さんよりはよっぽど健全やと思いますよ?」
「そらそうなんやけどなぁ。それとは別に、もう少し、こう、罪悪感ってのを滲ませた方が兄さんの同情を誘えると思わん?」
「演技の話かよ」
とまぁ、元々お嬢さんを全肯定するような下地があった西川さんはもちろんのこと、同じくらいの年齢のお嬢さんを知っている但馬さんや、そういう年代の娘さんとは無関係なはずの筧さんまで「しょうがねぇなぁ」って感じの空気になってしまっているではないか。
尤も、但馬さんは俺がたくさん指輪を持っていることを知っているが故の余裕ありきで、筧さんに関しては、お嬢さんが唱えた『あの人は例の指輪をたくさん持っている説』を確かめるために賛同している節が見え隠れしているので、純粋にお嬢さんの人柄や考え方に感化されたわけではないのだが、それでも彼らに否定的な感情を抱かせなかった時点でお嬢さんの勝ちと言ってもいいだろう。
ちなみに俺も、彼女の行動に悪感情は抱いていない。
むしろ、向こうから自分たちの弱点を潰しに来てくれたことに対して、感謝の気持ちを抱くまである。
もちろん交渉の場に於いて、厚かましいお願いをされた側の人間が、厚かましいお願いをしてきた側の人間に感謝を伝えるわけにはいかないので、馬鹿正直に口に出したりはしないが、この気持ちに嘘はない。
だからまぁ、変にごねたり隠したりせず、正直に答えよう。
「……お嬢さんが予想した通り、例の指輪はまだ在庫があります。対価によっては貸与ではなくお譲りすることも吝かではありませんよ」
「ほうか! そら助かるわ!」
「えっと、なんか勝手に決まりましたけど、但馬はんはそれでええんですか?」
「まぁ、ぶっちゃけあの指輪は兄さん個人のモンだからな。兄さんが良いってんなら、俺にどうこう言う権利はねぇんだわ」
「……さようで」
「なるほどのぉ。ま、その辺はそっちで納得してるならそれでえぇわ」
俺の言葉を聞いて、一番厄介な問題が片付いたと思ったのか、対価の内容を聞く前から喜色満面の笑みを浮かべる西川さんと、胡散臭い笑みを浮かべる筧さん。
筧さんの立場を考えれば、今の彼が何を考えているかなんて想像に難くない。
「そんなら松尾クン。その指輪は僕らにも条件次第で売ってくれるんよな?」
そうだよな。
西川さんが貰えるなら自分も欲しいよな。
それが自分のところで使うのか、それとも河内連合の会長さんに渡すのかは知らないが、貴重品はあればあるだけ欲しいと思うのが当然だよな。
だからこそ、筧さんからその問いかけがくることは想定内であり、想定していたからこそ、答えはすでに決まっている。
是、一択だ。
「もちろんです。少し前ならいざ知らず、今の西川さんと筧さんは大事なお仲間ですからね」
「ほうほう。お仲間、ときたか」
「怖いなぁ」
「ははっ」
そう、もはや彼らと俺らは一連托生なのだ。
想定される敵はギルド、どころで収まる話ではない。
河内連合が加わったことで既存の政府までもが仮想敵となり、シータさん(正確には彼女の背後にいる【ベスティア】)を加えたことで将来的には世界の国々ともやり合うほどの組織になる――なお、その巨大組織の運営は但馬さんに丸投げするものとする――のだ。
俺が垂らした釣り針により深く喰いついた時点で、彼らの未来に平穏なんて文字はなくなった。
今日この時を以て、隠れ蓑とする予定だった貴方たちは、但馬さんと一緒に世界を敵に回す組織の舵取りをしてもらうことが確定したのだから。
それなら少しくらいは気前の良いところも見せようというもの。
さらに言えば、俺は釣った魚を生簀に入れて餌もやらずにずっと生殺しにするブラック企業の連中とは違い、釣った魚にもきちんと餌をやる男である。
「あ、そうだ。それならお嬢さんにはこの指輪をお貸ししましょう。さすがにこれはあげられませんけど」
言いながら取り出したるは、二つの指輪。
「ん? 指輪を、二つ?」
俺が出した指輪を見て首を捻る西川さん。
彼が疑問に思うのも無理はない。
ダンジョンにおいて、装備品としてのアクセサリーは二つまでしか意味がない。
それ以上装備した場合は、お互いの効果が反発しあうのか、装備品としての意味がなくなる。
また、普通に市販されているネックレスでさえ、ダンジョンの中で装備し続けていれば、いずれ微量な魔力を纏う装備品となってしまい、既存の装備の効果を打ち消してしまうこともある。
故に、アクセサリーの類はできる限り吟味すべし。
西川さんほどの人物が、この探索者の常識とも言える知識を知らないはずがないのだから。
彼が持つ探索者の常識に鑑みれば、お嬢さんはすでに【レベルアップ時の成長率を五〇%上昇させる指輪】と【全能力+50の指輪】を装備しているわけで。
その上で、指輪を二つ渡されたところで「余るのでは?」と考えるのは当然のことだ。
誰だってそう思う。
何も知らなければ俺だってそう思うだろう。
しかし、それはあくまで現在の装備が最良の装備だった場合の話。
それ以上の装備品を発見したら、そちらに乗り換えるのが探索者にとって当たり前のことなのである。
「まずこちらの指輪の効果は【全ステータス+一〇〇】となっております。先日お貸しした指輪と比べて倍の効果ですね」
「「なっ!?」」
「お、ここでそれを出すのか」
+五〇でさえ破格なのに、その倍?
驚く二人に対して、但馬さんはあっけらかんとした感じのまま呟いた。
まぁね。
但馬さんはもう装備しているから、驚く理由はないよね。
しかし、その余裕もそこまでだった。
「で、そっちの指輪は……あぁ。兄さんと同じヤツ。ここで出すってことは、まぁそういうことなんだろうな」
「なんや? 俺は一体何を見せられとるんや?」
「まさか……」
どこか諦めたような表情を浮かべる但馬さんに、焦りの表情を浮かべる西川さん。
筧さんに至っては、細い目を限界まで見開いているではないか。
まぁ、さすがにこの流れなら読めるよな。
俺としても、ネタがわかっているのを勿体ぶって引き延ばす趣味はないので、さっさと効果を明かすことにする。
「皆さんが予想している通り。こちらは【ステータス成長率を倍化させる指輪】です」
「やっぱり、か」
「な、なん……やと?」
「倍化? まさか、そんな……」
驚愕する三人の大人たち。
その表情だけで、彼らがどれだけ衝撃を受けているのかがわかる。
そうだ、驚け。
そして気付け。
目の前の男が、レベル一のときからこの指輪を使ってレベリングをしていた可能性に。
目の前の男のステータスが、自分たちの想像を絶するモノになっている可能性に。
それに気付いたら、もう裏切ることなどできないだろうからな。
ふふふ。
貴方たちには任せたい仕事があるんだ。
だから、な。
絶対に逃がさんぞ。
閲覧ありがとうございました
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本日、3月13日に拙作の第三巻が発売となりました。
だいたい12000字の加筆と各種修正を加えております。
また、書き下ろしのショートストーリーは、約3000字のお話を三つほど書いております。
内訳は、書籍購入用が一つと店舗用が二つとなっております。
店舗用のSSに関しましては、アース・スター様のサイトから確認お願いします。
巻末にはコミカライズの情報も載っていますので、興味のある方は、是非お手に取っていただければ幸いです。
何卒よろしくお願いします。















