5話 この絶対に儲かる情報を、あなただけに教えます!
なんと、自作のコミカライズが開始した日に投稿をしなかった不届きな作者がいるらしい。
私だ。
本当にすみませんでした。
3月26日からスタートしています
ヨロシクオネガイシマス。
「と、いうわけなので、筧さんはお預けです。残りは一つしかありませんが、最後のこれは但馬さんにお預けしたいと思います」
「……いいのか?」
「えぇ。むしろ開示が遅くなって申し訳ございません」
「……いや、これほどのモンなら兄さんが慎重になるのも無理はねぇさ」
うむ。
「最初からコレを出せ」とか「二〇%に驚いていた俺って……」とか、色々言いたいこともあるだろうが、それらを全部飲み込んで理解を示してくれる上司ほどありがたい存在はないな。
散々酷使した上に大した報酬も渡さなかったギルドの役員どもは、但馬さんの爪の垢を煎じて飲むべきだと思う。いや、マジで。
まぁ但馬さんの立場では黙って飲み込まざるを得ない状況だから色々諦めている可能性もあるが、それはそれ。
俺にとって悪くならないなら、それでいいのである。
一応釘は刺すけどな。
「残念ながら差し上げることはできません。なんなら来年の今頃には藤本興業のお嬢さんに使ってもらおうと思っていますので、それまで貸すって感じになりますが、その辺もご了承願えますか?」
あくまで貸与。
それも期間限定の、だ。
これが普通の探索者なら、手放すことを嫌がるだろう。
なにせこの指輪を装備しているだけで、レベルアップのたびに伸びる成長値が倍になるのだ。
”強さこそ正義”を地で行く探索者業界において、これほどわかりやすいアイテムはないのだから。
装備していないときとの落差を考えれば、手放すという選択肢を取れるはずもない。
だがしかし、それはあくまで指輪を渡される相手が知らない探索者で、かつ代替案が無い場合の話。
「お嬢さんに、か。まぁ確かに必要だわな」
そう、西川さんが己よりも霧谷組のお嬢さんを優先するように、但馬さんもまた己よりも藤本のお嬢さんを優先する人間なのだ。
よって、指輪が渡る先が藤本のお嬢さんになるのであれば、彼に否はないのである。
さらに代替案もある。
「兄さんのことだ。この指輪をお嬢さんに渡した後は、こっちの五〇%上昇させる指輪を貸して貰えるんだろう?」
「もちろんです。なんなら倍加する方も新しく手に入ったら優先的に回しますよ」
俺とて但馬さんを弱体化させたいわけではないからな。
後ろ盾が強くなるなら、それに越したことはない。
「助かる。それまではありがたく使わせてもらうぜ」
「えぇ。活用してください」
但馬さんは平日もダンジョンに潜っているが、その間ずっと俺がいるわけじゃないからな。
俺が学校に通っている間もレベリングに励んでほしいところである。
「さて、但馬さんに”納得”してもらったところで、筧さんにも”納得”してもらいましょうか」
信頼度が足りないと言って納得させるのは簡単だが、モノがモノだけにしこりが残るのは避けられない。
しかし、現時点で彼にあまり不満を持たれても困るわけで。
「お、こっちもなんか貰えるん?」
「えぇ。といっても、現物ではありませんが」
龍星会の強化が終わっていない現状、さすがにこれ以上向こうを強化させるわけにもいかんからな。
大事なのは順序。
古事記にもそう書いてある。
「こっちは貰う立場やからね。なんであっても文句は言わんよ」
そう嘯く筧さん。
彼は俺が何を提供する心算なのか見当が付いているのだろう。
彼の考えは正しい。
「指輪の入手方法、知りたくないですか?」
「……釣った魚を渡されるよりも、魚を釣る手段を得た方がえぇってか」
「えぇ。欲しいでしょう?」
「モチのロンや」
情報の重要性を理解している筧さんにとって、この情報はまさしく喉から手が出るほど欲しいモノだろう。
それこそ、目の前で見せつけられたお宝を天秤に載せても釣り合うと判断できるほどのモノになるはずだ。
「けどそないな情報、タダで貰ってえぇんか?」
「タダ、ではないですね。河内連合さんにはこれから色々協力してもらう予定ですので」
なんなら矢面に立ってもらう予定だからな。
「霧谷のお嬢さんが言うように、僕らも弱すぎたらあかん、か」
「そうですね」
盾が弱くては意味がない。
お嬢さんは本当に良いことを言ったと再確認したところで、話を進めよう。
「で、この指輪の入手方法なんですが」
「うん」
「宝箱の中に入ってました」
「なるほど、宝箱な。……は? 宝箱?」
俺の言葉を聞いて呆ける筧さん。
そこに普段纏っている胡散臭さや剣呑さはない。
完全に虚を突かれた感じである。
尤も、彼ほどの人間がこうも無防備な表情を見せるのも、当然と言えば当然のこと。
なにせダンジョンに現れる宝箱とは、魔物三割に罠七割で構成された悪意の塊であり、ギルドが流した嘘まみれの噂以外ではこれまで一度も中身を確認されたことがないとされる魔性の箱であり、触れたら周囲を巻き込んだ災害になることが広く知られているため、今では宝箱に夢を見ている新人以外は触れようともしない特級呪物と知られているのだ。
よって探索者としての経験が長い人ほど「宝箱の中に入ってました」なんて言葉が詐欺の常套句でしかないことを理解しているし、筧さんのような人であれば配下の人間に開けさせるなどして、その悪辣さを実際に体験していてもなんらおかしなことではない。
いや、罠とわかっていて部下に宝箱を開けさせるのはどうかと思うが、試すくらいのことはしているはずだ。
そんな彼だからこそ、俺が『宝箱の中にありました』と言ったことに衝撃を受けているのだろう。
虚偽を疑うか、それとも俺が宝箱を開ける方法を知っていると取るか。
「普通なら、入手方法を隠すために嘘を吐いとるとみるべきや。その指輪にはそれだけの価値がある」
「そうですね」
嘘に信憑性を持たせるなら、少しの真実を混ぜればいい。
この場合の『真実』とは、もちろん『普通では手に入らない効果の指輪という現物』である。
普通では手に入らないモノがあるからこそ、宝箱の中にあったという情報に信憑性が生まれるのだ。
「そんで、その言葉を信じた僕らは率先して宝箱に群がり、罠にかかって死んでいくわけやな」
下っ端の構成員を減らしたところですぐにどうなるというわけでもないが、基本的にこの罠で減ることになる兵隊とは、ダンジョンに潜れる探索者である。
探索者と一般人との戦力差を考えれば、河内連合に所属している探索者を減らすことが河内連合全体の弱体化につながるのもまた事実。
加えて、情報を持ってきた筧さんの立場は間違いなく悪くなる。
構成員の減少、幹部同士の仲違い、それによる組織の弱体化。
一石二鳥どころではなく、一石で三鳥を得られる妙手だ。
「避けたいけど現物がそれを許さん。ほんま、怖い手やね」
「そうですね」
間違っていない。
実際にギルドが河内連合を潰そうとしたら、似たような情報戦を仕掛けるだろうし。
ただし、それはあくまでギルドがやる場合であって、俺が同じことをやる理由にはならないんだよな。
「怖いけど、それはあくまで君が僕らを敵として見ている場合の話や。盾として見ているなら話は変わる」
「そうですね」
そう、何度も言うように、俺にとって今の彼らは”敵”でも”仲間”でもなく”盾”なのだ。
現状、政府やギルドの横やりから俺を護ってくれる”盾”を弱体化させる必要はない。
「君は嘘を吐いていない。ほんならソレはほんまに宝箱の中に入ってたんやろね」
「そうですね。で?」
俺から答えは出さない。
なぜなら、人は他人から教えられた情報より、自分で辿り着いた情報に重きを置く生き物だから。
「君は宝箱を開ける方法を知っていて、それを僕に教えてくれる。そういうことやろ?」
正解。
これで俺が齎す情報の正確さを筧さんが担保してくれる形となったわけだ。
あとの懸念は、この情報にどれだけの価値を見出してくれるか、だが。
「そうなります。これは河内連合さんを納得させる報酬として足りますか?」
「十分、いや、それ以上や」
「ハハッ。それはよかった」
にんまりと嗤う筧さんを見て、俺は河内連合が抜け出せない沼に足を踏み入れたことを確信するのであった。
閲覧ありがとうございました
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