亡羊のドワーフ
これだから剣を打つのはやめられねぇ。
ワシが、ありったけを込めて打った剣が輝いていやがる。
おまえもうれしいのか。
ドズウェルの奴に見せられた剣もすごかったが、おまえはその上を行くすげぇやつだ。
ミスリルに、なけなしのオリハルコンを混ぜて打ったが、思っていた以上のもんが出来た。
今はおまえ以上の剣を打てる気がしねぇ。
とにかく酒だ。飲まなくちゃやってられねぇ。
これだけの剣を打った後だからな、腹いっぱい飲んで寝るだけだ。
ワシらはこうして好きなものを、力の限り作って、飲めれば最高なんだ。
難しいこたぁいらねぇ。
おい、おめぇたち。ぼやっとしてねぇで、酒持ってこい。
向こうの蔵に仕舞ってあったろうが。
グスタフ、てめぇはどこまでグズなんだ。酒って言ったらドンブリだろう。湯呑なんか持ってくんじゃねぇ。
ワシらは一仕事終えて、明け方まで酒を飲んでいた。
一樽空けたところまでは覚えているが、あとはどうなったか知らねぇ。
気が付いたら作業場の床の上に転がっていた。
昨日仕上げた剣は神棚に上げてある。
鍛冶神様に奉納することも考えたが、やっぱり道具は使わなくちゃいけねぇ。
何のためにワシが精魂込めて鍛えたんだか分からなくなっちまう。
この剣を使いこなしてくれる奴に出会えればいいんだが。
それにしても、ワシらドワーフがしゃかりきになってもこれぐれぇの剣しか打てねぇってのが癪に障るぜ。
その昔古代文明の時代には、その刃姿を見ているだけで背筋が氷るほどの剣があったと聞くのに。
その剣に切れねぇ物はねぇってぐらいスゴイ剣だったらしい。
一目見てぇと思うが、噂だけで本当にあるのかは誰も知らねぇ。
見たことがある奴ってのも聞かねぇ。
それから、仲間を助けるために狂王と戦って死んだ、ドワーフの初代王のオヤジが振るっていたといわれる聖剣もあったみてぇだが、あの戦いで主もろともなくなっちまったらしい。
惜しいよな。
一目見たかったぜ。
死ぬまでにそんな剣にお目にかかりたいもんだ。
そして、その剣を持つに相応しい使い手にも会ってみてぇな。
寸分違わずに標的を切り裂き、己の手足の如く剣を扱う奴。
研ぎ澄まされた心には邪念の一欠けらもない。
それほどの使い手がいるのか?
まぁ、このご時世そんな奴がいるとも思えねぇけどな。
何てたって、魔法の威力がモノを言う世の中だ。
ちまちまと剣の業を磨いている奴なんざいねぇだろうな。
風の噂じゃあ獣王やその騎士団長辺りは結構使うらしいが、どうにもあの連中は力まかせに振り回している感じしかしねぇ。
何ていうか、あいつらには頭が足りねぇ。
もうちっと相手の技を封じ込めるような、手を出させないために剣を遣い、一手二手と追い込むようなそんな使い方は奴らには無理だ。
ただ切ればいいってもんじゃねぇハズなんだ。
相手を潰すだけなら、こん棒で十分だ。
剣でやる必要はねぇ。
そういう意味では魔剣の公爵様もかなり使うと聞くが、あれは魔法とセットみてぇなもんだからな。
純粋な剣技とはちと違う気がする。
まぁ、作るだけで使えねぇワシが言ってもしょうがねぇがな。
どうにも、こうして作業場に籠って剣を打っているだけじゃ分からねぇことが多すぎる。
剣を使う奴は、何がしたいのか。
切りたいのか? 叩きたいのか? 潰したいのか?
ワシは剣は切るものだと思っているが、使う奴もそう思って使っているのか?
作れば作るほど、何がいいんだかわからなくなっちまう。
どうしたもんだろうな。
若いうちであれば、国の外に出てあちこち見て回るってのも良かったかもしれない。
しかしこの歳になると、なかなか腰が上がらねぇもんだ。
腰を上げるぐらいなら、鋼の一つでも鍛えた方がいい。
そんなことを考えちまう。
ワシも歳をとったもんだ。
ワシらドワーフは体が頑丈に出来ているせいか、四、五百年くらいは生きられる。
そう考えると、ワシもまだまだ生きられる。
だがな、外の世界で魔物と戦いながら生きて行くとなると、少々腰が引ける。
ワシもそれなりに戦えると思ってはいるが、南にはこの辺にはいないような狂暴な魔物が多いと聞く。
そんな奴らと戦いながら、剣や人を探して彷徨うのもなかなか厳しいんじゃねぇかと思う。
まさか弟子の奴らを連れて行くわけにはいかねぇから、ワシ一人でやっていかないといかんだろう。
一人では難しいな。酒があれば生きていけるが、魔物に囲まれるようなことがあればいけねぇ。
それでも、見てみたいと思う。
ワシが思ってもみないような剣を使う者。
正確無比な剣筋で相手を追い詰める者。
力に頼らず、技で圧倒する者。
様々な剣の使い手を見てみたいもんだ。
そういう連中の望む剣がどのような物なのか、じっくりと聞いてみたい。
剣を使う者にしても、作り手が押し付ける剣じゃなく、自分の考えに合った剣が必要だと思うんだがな。
そんなことを考えていても、なかなか今の暮らしを変えられねぇ。
昔から決められた価値観で剣を作ること。
弟子たちと騒ぎながら酒を飲むこと。
簡単には止められん。
難儀なもんだ。
昔は剣を打つことだけ考えていた。
難しいことは考えねぇ。
ただ師匠について剣を打った。
そして、うまい酒をたらふく飲めればそれでよかった。
その剣をこのまま打ち続ければいいのか?
ワシにはわからん。
わからんから剣を打つ。
どんな形がいいのか、どんな役割を持つべきなのか。
打つ度に変わっていく。
もう少し打っていればわかるのか?
ワシには何も分からなくなってきた。




