表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
エルフ公爵は呪われ令嬢をイヤイヤ娶る  作者: 江本マシメサ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

112/122

元嫁は、しぶしぶ猫化する

 シオン・ローダンセは一歩前に踏み出したが、その場にくずおれる。


「カ、カナリア姫、あちらを、なんとかしてくださいまし!」

「制御の魔法は、容れ物であったガラスに刻まれておりました。それを破壊した今、命令することなど、不可能です」

「なんですって!?」


 ハイドランジアは有無を言わさず、魔力を含ませた拳を握ってシオン・ローダンセに殴りかかった。


 だが拳は急所に届かず、空振りとなる。翅をはためかせ、宙に浮いて回避したようだ。


「私と同じ姿をして、不愉快だ!」

『同ジ、言葉ヲ、返ソウ』

「喋りましたわ!」


 魂は籠もっていないのに、なぜなのか。カナリア姫は首を傾げている。


「あなた、制作者でしょう?」

「ええ。ですが、動けるはずがないのです。どうして、あのように均衡を保ち、宙に浮かんでいる上に、言葉を解すのか……!」


 ハイドランジアは、シオン・ローダンセと拳を交える。

 拳を突き出し、回避されたら肘鉄砲を食らわせ、相手がよろめいた隙に回し蹴りで床の上にたたき落とす。

 戦闘面では、ハイドランジアのほうが上手のようだった。


『ク、クソ……ネコチャンニ、会イタカッタ、ダケ、ナノニ』

「猫チャン……だと?」


 ハイドランジアとシオン・ローダンセの視線が交わった。じっと見つめ合い、こそこそ話をして、何か意思の疎通を図っている。


 ヴィオレットが胡乱な視線を二人の男に向けていると、ポメラニアンが現れた。


『あの妖精もどきは、ハイドランジア・フォン・ローダンセの魔力に呼応し、動き出したようだ』

「それは、同じ魂を持つ存在だからですか?」

『まあ、そうだな』


 ポメラニアンが喋り始めたのを目の当たりにしたカナリア姫は、悲鳴を上げていた。


「な、なんですか、この、中年男性の声を発する生き物は!?」

「ポメラニアンですわ。カナリア姫にも紹介いたしましたが」

「ポメラニアンちゃんは、可愛らしい犬です。こ、このように、低い声で喋るわけ、ありません」

『すまんな』

「間違いなく、ポメラニアンですわ。伝説の大精霊ですの」

「……」


 カナリア姫はポメラニアンを可愛がっていた。丁寧にブラッシングし、散歩にも連れて行き、全身なで回して頬ずりまでしていたのだ。

 それが千年以上生きる大精霊だと知るやいなや、明らかに落胆していた。


 カナリア姫はさておいて。

 何やら熱く語り合うハイドランジアとシオン・ローダンセに、ポメラニアンが突っ込みを入れた。


『お主らは、何をしているというのだ』

「猫チャンの素晴らしさについて、語り合っていた」

『それはお前の意思に感染したものぞよ! お前はお前自身と、猫の話で盛り上がっていたのだ』

「なん、だと。嘘だろうが」

『嘘を言うか!』


 シオン・ローダンセの転生体はハイドランジアである。意思があるわけがない。ポメラニアンは呆然とするハイドランジアに、丁寧に説明した。


「やはり、そうだったのか」

『気付いていたのか?』

「なんとなくだが……しかし、私は私だ」

『そうぞよ。お前はお前。シオンはシオン。双方、比べものにならぬくらいの、破天荒な男だった』

「褒め言葉ではないのだろうな」

『当たり前だ!』


 すっかり大人しくなったシオン・ローダンセであったが、一つ願いがあるのだという。


「どうやら、猫チャンとやらに触れ合いたいらしい。猫チャンとやらと触れ合えたら、この世に未練はないと」


 ハイドランジアはじっと、ヴィオレットを見つめながら言う。

 暗に、猫化してくれと言いたいのだろう。


「……わかりましたわ」


 ヴィオレットは猫化の呪文である「にゃー」という鳴き声をあげる。すると、瞬く間に猫の姿となった。


「なっ、ヴィオレットさん、あなた、変化魔法を、使えるのですか?」

『ええ、まあ』

『ネ、ネコチャン!!』


 シオン・ローダンセが四つん這いの状態で駆け寄ってきたが、ヴィオレットは恐ろしく思って猫パンチに加えて、頬を思いっきり引っ掻いてしまった。


『ネコチャン、大丈夫ダ……! 怖クナイ、怖クナイ……!』

『怖いですわ!!』


 ハイドランジアが、シオン・ローダンセに優しい声で助言する。


「おい、四つん這いでヴィーに接近するのは止めろ。気色悪い」

『ム、ソウカ』


 ハイドランジアはヴィオレットを抱き上げ、シオン・ローダンセにそっと差し出す。


「力を込めてはいけない。綿を持ち上げるように、そっと抱えるのだ」


 ヴィオレットは全身の毛を逆立たせていた。


『アア……ネコチャン、ネコチャン、ネコチャーン!!!!』


 シオン・ローダンセの体は光に包まれる。

 そして、散り散りとなって消えていった。

 解放されたヴィオレットは一回転したのちに、床に降り立つ。


 残ったのは、大きな輝く金色の珠。コロコロと転がってハイドランジアの足下にたどり着く。


「これは――!」

『ハイドランジア様、それはなんですの?』

「金の珠だ」

『見ればわかりますわ』


 ハイドランジアの代わりに、ポメラニアンが答える。


『それは、ネコ好き変態エルフの魔力の結晶体だ』

『まあ! でしたら、ハイドランジア様を苦しめる魔力は!?』

「もう、ない」


 シオン・ローダンセの体が、ハイドランジアの魂と呼応し、魔力を吸い取ってくれたようだ。


 これで、ハイドランジアの寿命は延びた。

 心配事は、晴れてなくなったのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ