純粋エルフは、決意を固める
カナリア姫の問題と、ハイドランジアが抱える危機は、同時に解決した。
ただし、ハッピーエンドというわけではない。
事件を知ったマグノリア王子は、頭を抱え込む。どう対処すべきかと。
このまま、カナリア姫を突き返すわけにはいかない。双方の国の親交を破壊する大問題になりかねないからだ。それに、カナリア姫を迫害していた男尊女卑の環境も、無視できない。
このまま返したら、最悪殺されてしまう。国で保護するしかなかった。
まず、カナリア姫は魔法が一切使えない塔に軟禁となった。期間は決まっていないが、しばらく反省してもらう。
マグノリア王子との婚約については、どうするのか決まっていないらしい。
それは、絶対にできない。
ただ、結婚しなかったら、カナリア姫の身柄は生国へ帰さなければならないだろう。
世界の滅亡をもくろむほどの野心ある女性を、国母として迎えるわけにはいかなかった。
非常に繊細で、難しい問題である。今後、国王とマグノリア王子が話し合いで、決定するようだ。
マグノリア王子はハイドランジアを呼び出し、疲れが滲んだ表情で憤る。
「トリトマ・セシリアの件といい、カナリア姫の暴走といい、事件はなぜ、私のいないところで静かに起きているのか!」
「真面目に王太子をしていたら、悪人の暗躍など気付かないだろう」
「ですが、国の危機が迫っていたのに、何もできなかったのが悔しいのです!」
「終わった話をどうこう言っても、仕方がない」
「そうですが」
「それで、カナリア姫はどうするのか?」
妖精を支配下に置けるほどの実力のある魔法使いであるカナリア姫を、野放しにはできない。かと言って永遠に軟禁するのは、カナリア姫の出生を考慮すると情状酌量をする必要があるだろう。
「国王陛下と何時間も話し合いました。陛下は、カナリア姫は亡くなったことにして、魔法の研究や趣味ができる環境を作って、静かに暮らすようにすればいいと言っていましたが――私は反対です」
また、人工妖精を作り出し、世界の破滅を目論む可能性はゼロではない。
「残った案は、予定通り私が彼女を娶って、常に監視する、というものです。ハイドランジアはどう思いますか?」
「いや、いいんじゃないか?」
ハイドランジアの返答に、マグノリア王子は「はー」と深いため息をついた。
「どうしたのだ?」
「他人事だと思って、適当に返事をしていませんか?」
「そんなことはない。もしも、カナリア姫が問題を起こしたとしたら、真っ先に駆り出されるのは、魔法師団の師団長である私だろうが」
「そうでしたね」
「お前は、私をただの、耳が長い相談相手か、話し相手だと思っていないか?」
「すみません。いろいろ忙しかったものですから」
「ご苦労なことだ」
ハイドランジアはマグノリア王子に手をかざし、回復魔法をかけてやる。
すると、たちまちマグノリア王子の真っ青だった肌に、赤みが差し込む。
「ありがとうございます」
「ふむ。礼の心は失念していなかったようだな」
ハイドランジアは、マグノリア王子とカナリア姫の結婚には賛成だった。
抜け目ないマグノリア王子の目があれば、カナリア姫も悪さはできないだろう。
それに、彼は人を正当に評価できる。カナリア姫の実力を認め、互いに助け合えるよい夫婦になるだろうと考えていた。
マグノリア王子とカナリア姫は、交換日記を交わしているらしい。
びっしりと古代文字で交わされる内容は、ささいな日常だった。
「驚きましたよ。ここまで堪能に、古代文字を使える女性は初めてです」
「これくらいであれば、ヴィーも書けるぞ」
「張り合わないでください」
しっかり向き合ってみれば、双方の印象は悪くない。
カナリア姫の軟禁が解けるまで、相互理解を深めることになるだろう。
「では、帰るぞ。もう、退勤の時間だ」
「相変わらず、魔法師団はきっちり終わるのですね」
「当たり前だ。残業という無駄な時間は一秒たりとも許さない」
マグノリア王子がヒラヒラと手を振ったので、ハイドランジアはその場で転移魔法を展開する。着地したのは、執務室だった。
「どわーーーー!!」
今日も、ビビリ症のクインスを驚かせてしまった。毎回こうなので、謝罪もせずに無視している。
「閣下、お帰りなさいませ」
「ああ。仕事は終わったか?」
「ええ」
「だったら帰れ。今すぐに」
「えと、はい。お先に失礼いたします」
クインスはペコリと会釈し、執務室から退室していった。
入れ替わりになるように、ヴィオレットがやってくる。ハイドランジアが呼び出していたのだ。
「ヴィー、来たか」
「ハイドランジア様、用事はなんですの?」
「話があったのだ」
キョトンとした表情を向けるヴィオレットを、心から愛おしく思う。
こんな気持ちは、ヴィオレット以外に抱くことはない。
最初は彼女が猫に変化する女性だからと決めつけていたが、違った。
イヤイヤ結婚したはずのハイドランジアを心配したり、ローダンセ公爵家の女主人として家を切り盛りしたり、使用人にも心砕くヴィオレットと共に過ごしたりするうちに、彼女自身に惹かれていると気付いたのだ。
いろいろあって別れたが、もう一度、結婚したいと思っている。
ハイドランジアはヴィオレットの前に移動し、その場に片膝を突いた。
驚きの表情を見せるヴィオレットに、今までずっと言えなかった言葉を伝える。
「ヴィオレット、私と、結婚してくれ」




