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07-A

 フランカとの再会から10日後。

 とある人物から手紙が届いた。


 差出人の名は、アイヴィー・プライス。

 三大新聞社の一つ「スクルド」に勤める若き女記者で、1ヶ月くらい前に知り合い、……というか友達になった。


 住所は教えてないはずだから、傭兵支援協会で調べたんだろう。



 時刻は昼過ぎ。

 昨日は遅くまで仕事だったから、今日は昼まで眠っていた。

 適当に昼食を作って食べて、さぁそろそろ家を出ようかと思っていたところで、その手紙が届いたわけだ。



「……え」

 封筒から取り出した便箋に目を這わせてすぐに、その一文が目に入ってきた。



 ――AAAランク傭兵、ローレンツ・キストラー氏の情報を得たので、取材に行きます――



 ……ローレンツ?

 その名を目にした瞬間、あの日の告白を思い出す。


 取材に行くってことは、彼の居場所がわかったってこと?

 少しずつ速くなっていく鼓動を感じながら、続きを読む。


「……護衛?」


 アイヴィーから届いた手紙の内容は、ローレンツの取材に行くためにヘルムヴィーゲ王国へ行くから、その護衛を私にしてほしいという、仕事の依頼だった。


 ……どうして、私なの?

 護衛を頼むなら、もっと実力に信頼を置ける人を選べばいいのに。


「……」

 出発は、3日後か。


 シャノンに、しばらく稽古には行けないって手紙を書いておこう。

 それと、家族にも伝えておかないと……。




 かくして私は、アイヴィーからの依頼を引き受けることに決め、3日後、彼女との待ち合わせ場所である首都カランカへ向かうのであった。




 カランカの駅に着くと、私を見つけたアイヴィーが歩み寄ってきた。


「ありがとう、ティナ。やっぱり来てくれたんだね!」

「まぁ、一応友達の頼みだからね」


 ぴったりとした動きやすそうな服装の彼女は、大きめのバッグを重たそうに持っている。

 着替えとか取材道具とか、いろいろ入れてあるんだろう。


 私も、彼女ほどとはいかないまでも、長期の旅を見越して大きめのバッグを持ってきたし。


「友達だなんて、嬉しいこと言ってくれるじゃない」

 アイヴィーは、眩しい笑顔でそう言った。


「何言ってんの。この前友達になってって言ってきたのは、あなたでしょう?」

「そうだけど、実際そう言ってもらえると嬉しいんだって。私、あんまり友達いないからさぁ」


「へぇ、そうなんだ。なんか、誰とでも仲良くなっちゃう感じがするけど」

「そうかな? まぁ、こういう仕事をしてると、誰とでも喋れなくちゃいけないからね。でも、友達と呼べる人は少ないよ」

 なるほどね。


「……ところで、その、AAAランク傭兵がヘルムヴィーゲにいるっていうのは、確かなの?」

 問うと、アイヴィーは「う~ん」と曖昧に頷く。


「彼がフォルネルっていう街にいるっていう情報を得たのは、4日前だからね。もう、別の場所へ移動しちゃってるかもしれない」

「えぇ?」


「仮にまだ移動してなかったとしても、ここからヘルムヴィーゲに入るまでに5日くらいかかるし、そこからフォルネルまでどのくらいかかるかわからないからね。向こうに着くまで、彼が街を出ないことを祈るしかないかな」


「……つまり、賭けってこと?」

 呆れて言うと、アイヴィーは「そういうこと」と笑う。


「でも、なんだか会える気がするんだよね。記者としての勘、ってヤツかな」

「……」

 新米のくせに、偉そうなことを言う。


 ……でも、まぁ、彼女の勘に期待してみるかな。

 会える可能性は、ゼロじゃないし。


「じゃあ、そろそろ行こうか。もうすぐ汽車来るし」

「そだね」

 私は、彼女と並んで歩き出す。


 会えたらいいなと、思いながら。




 フォルネルという街は、ヘルムヴィーゲの中央南側にあるらしい。


 私たちが入国後に入る北部の街からだと、直線距離で約800キロメートル。

 汽車の路線は無いということなので、馬車での移動になる。


 道中何事もなく進めたとしても、結構かかりそう。

 アイヴィーは、10日くらいかかるんじゃないかと見込んでいるようだ。


 仮に10日かかるとして、ヘルムヴィーゲまでの5日を含めると、計15日。

 それだけの間、彼が同じ街に居続けるなんて考えられない。


 ……あまり期待しない方が良さそうだ。

 むしろ、絶対会えないって思っていた方がいいかもしれない。

 だって、期待しすぎると、会えなかった時のダメージが大きそうだし。



 ……ああ。

 やっぱり私、彼に会いたいんだなぁ……。



「ねぇ、ティナぁ」

「! ん?」

 アイヴィーの声に、ぼんやりとしていた頭が晴れる。


 窓から彼女へと首を巡らせると、楽しげな顔と出会った。


「ローレンツさんって、どんな人なのかなぁ」

「え?」


「若くして、傭兵の頂点であるAAAランクに上り詰めた天才。顔は知らないけどさぁ、まだ20歳だし、なんだかすっごく格好いい人な予感がするんだよね~」

「……」


 まぁ、うん。格好いいと言えば、格好いいよね。

 ……でも、そっか。アイヴィーは、彼の顔を知らないんだっけ。


 実は、もう見てるんだけど。


「彼の写真とか、無いの?」

 聞くと、アイヴィーは、「それがねぇ」と眉を歪める。


「どういうことなのかわかんないけど、AAAランク傭兵ってみんな顔写真を残してないんだよ。採用試験受験の時に、写真撮ってるはずなのにね」

「ふぅん」

 ……確かに妙だな。


「それ以外にも、彼らを収めた写真ってホントに無くてさぁ。傭兵支援協会に聞いても、なぜかAAAランク傭兵のことだけは、ほとんど把握できてないみたいだし」

「そうなんだ……」

 幻の存在って言われてるのには、ちゃんと理由があるってことか。


「だから苦労したよ。この前のルイスさんの時もそうだったけど、探そうにも、そもそも情報を持っている人が少ないからさ。ルイスさんが国境地帯の視察をするって情報は、ホントに偶然手に入ったようなものなんだ」


 なるほど。

 アイヴィーがルイスの屋敷を訪ねなかったのは、単に情報を掴めてなかったからか。

 あんなところに住んでるのにわからないなんて、おかしいと思ってたんだよ。


「今回も、大変だったよ。私たち記者に情報を売ってくれる情報屋の人たちも、AAAランク傭兵だけはわからないってこぼしてたし。そのせいで、余計な取材費まで使っちゃってさぁ。まったく……」


 溜め息と同時に、肩を落とすアイヴィー。



 ……でも、彼女のおかげで、ローレンツに会える可能性が出てきたわけだ。


 あの告白の日から、まだそんなに日は経ってないし、あの時から気持ちは変わってないけれど、会えるものなら会っておきたい。


 だって、少しでも彼のことが知りたいからね。


 ……彼を、好きになるために。



「……ところでさ、アイヴィーさんはどうしてAAAランク傭兵の取材をしてるの?」

 気になってたことを聞くと、彼女は「それはね」と笑みを浮かべる。


「なんとなく、だよ」

「は?」

 なんだそりゃ。


「なんとなーく、AAAランク傭兵が気になるなぁって思って。研修が終わってさ、いざ記事を任された時に、さて何をネタにしようかって考えたら、それが真っ先に浮かんできたんだ」

「……それだけ?」

 呆れる私に、アイヴィーは「それだけ」と頷く。


「気になったらさ、調べたいじゃん? だから、新人のくせに金遣い荒いなって嫌味言われながらも、AAAランク傭兵を探し回ったの」

 思い立ったら即行動、か。


「以前のルイスさんの取材記事は、結構評判良かったんだよ? 読んでくれた?」

「あ、いや、私の家、スクルド新聞取ってないし」

 そう答えると、「ふぅん」と目を細めるアイヴィー。不満げだ。


「なんか、ごめん」

「いいよいいよ、気にしないから」

 結構、顔に出てたけど?


「でね? その記事のおかげで、私、傭兵部門に回されたんだよ」

「傭兵についての記事を書くの?」

「そうそう。……AAAランク傭兵が気になったからあの記事を書いただけであって、特に傭兵に興味があるってわけじゃなかったんだけどさ、まぁいいかなって」


 そしてアイヴィーは、私の目をじっと見つめる。


「だからぁ、これからもよろしくね、ティナ」

「?」


「この先、あなた有名になるかもしれないでしょ? だから、今のうちから仲良くなっておこうと思ってね」

「……」


 有名になった私を、独占取材しようって?


「随分評価してくれてるんだね。まだ私の実力も見せてないのに」

「だって、信じてるから」

「え?」

 何を?


「クレイグさんの娘であるあなたが、そこらにごまんといる並の傭兵のまま終わるわけないってね」

 言って、アイヴィーは笑みを深める。


 笑ってるけど、目の奥は笑ってない気がして、ちょっと怖かった。


 ……でも、父の名前を出されたら、謙遜したり自分を過小評価するような言葉は吐けないな。


「心配しなくても、そんなので終わるつもりなんか無いよ」

 今はまだ、並の傭兵だけど。


「あなたが、取材させて下さいって泣いて頼むくらいの傭兵になってやるんだから」

 言ってやった。自信が無いわけじゃない。


「へぇ~、言うねぇ」

 にやりと、楽しげに口の端を上向かせるアイヴィー。


「じゃあ、とりあえず、私の護衛を最後までちゃんとこなせるか、見させてもらおうかな」

「楽勝だよ。見てなさい」


 ただの強がり。後に退けなくなっただけ。そんなのわかってる。

 でも、言っちゃったものは仕方ない。


 こんな新米記者に認められてなんになるとは思うけど、たぶん、こういう積み重ねが大事なんだろう。


 仕事はきっちりこなす。やってやる!




 2日後、ようやく隣のヴァルトラウテ王国に到着。

 南へ行く汽車がある街まで移動し、そこで一泊することに決めた。


 以前、フランカとヘルムヴィーゲ王国へ行った時と同じ行程だ。



 宿の一階で遅い夕食を済ませて部屋に戻った私たちは、窓辺で並んで、夜の街並みを眺めていた。


「この国も、東や南はファミリアが多いんだよね?」

 街並みから空へ視線を移動させつつ、アイヴィーが聞いてくる。


「そうらしいね。ヘルムヴィーゲとの国境があるし」

 どこかで聞いたことを、返答とする。


 隣国だけど、この国のことはあまり知らないんだよなぁ。

 ていうか、知らない国の方が圧倒的に多い。


 ……改めて考えてみると、自分の住んでる国のことすら、あまり知らないな。


「もしかしたら、明日辺り見られるかもね。あなたの実力」

「え?」

 くるりと身を翻し、窓辺から離れていくアイヴィー。


「ファミリアに出会ったら、よろしくね。ティナ」

 そしてまたくるりと回り、笑顔を向けてくる。


 彼女に対し、私は胸をバシッと叩く。


「任せといて。私に倒せる奴なら、ズバッと倒すから」

「倒せない奴だったら?」


「そんなの、どうにかして逃げるに決まってるじゃん」

「何それ。カッコわる」


「格好悪くても、死ぬよりマシでしょ」

「……ま、それもそうね」


 そうして、笑い合う。


「んじゃ、そろそろお風呂入ろっかな」

 そう言って、アイヴィーは服を脱ぎながら浴室へ向かっていく。


「ちょっと! 脱衣所があるんだから、そこで脱ぎなさいよ」

 言ってる間に、彼女はもう下着姿だ。


「あ、ごめんごめん。つい癖で」

「どんな癖だよ。……って、ちょっとぉ!」

 私の言葉なんか聞かず、アイヴィーは浴室へ入っていった。


「……ったく」

 ムカつきながらも、彼女が脱ぎ散らかした服を拾い上げていく。


 それを畳んでいると、浴室のドアが開いた。


「ねぇ、一緒に入らない?」

「はぁ?」

「その方が、一回で済むでしょう?」

 ……確かに、そうかもしれないけど。


「お断り。今日は1人でゆっくり入りたい気分なの」

「じゃあ、明日は一緒に入ろうね」

 私が何か言う前に、バタンとドアが閉まる。……やれやれ。




 アイヴィーの服を畳み終えた後、再び窓辺へ。

 そして、星が煌めく夜空を見上げる。


 ……あなたも今、この星空を見上げているのかな。


 私が行くまで、どこにも行かないでね……。

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