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ある、男と女がいた。
男が若い頃、大切な存在を理不尽に奪われ、絶望していた。
そんな男を少女だった女は献身的に支えた。
男は女の支えに持ち直し、やがて大人になった二人は愛し合い、結ばれた。
奪われた喪失は男の胸にあったがそれでも向き合えるようになったのは全部女のおかげだと男は考えていた。
幸せにしたい。
大切にしたい。
そう思っていた。
そうするはずだった。
しかし、運命は再び男の下から残酷にも大切な存在を奪い取った。
その絶望は男の心を滅茶苦茶に切り裂いた。
一度目は女が崩れ行く男を支えてくれた。
だが、二度目は………誰も、男を支えきることはできなかったのだ。
女は子供を生んでいた。
男の子だ。
そして、子を生んだかために女は死んでしまった。
この子さえいなければ。
暗い感情がいくつもいくつも湧いてくる。
気づいたら眠るわが子の首に手をかけていることさえあった。
頼りないその感触。力を入れてしまえば折れる首に手をかけている自分に恐れを感じた。
愛おしいと思うと同時に憎らしいという気持ちがこびり付いていた。
殺してしまうかもしれない。
小さく細い首。男の片手でもまだ余るその小さな首に手をかけた感触が忘れられない。
子が成長していく。
自分の面影を宿して。
愛おしい彼女の面影も宿して。
愛せない子。
愛したい子。
どうすればいいのか。
どうしたいのか。
男自身にももう、分からない。




