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王子が消えて、王は魔術師をすぐ、呼んだ。
異世界への扉を開く方法も力も彼かもしくは彼の力を付与された者にしか持ち得ないものだからだ。
『命をかけて、あなたに残したんでしょが!たった一人の自分と貴方を繋げる家族をっ!そんなことも判らないなら王様なんてやめてしまえっ!』
怒りと悲しみの表情でそう言い放った異世界の少女の言葉はどうしようもなく王の心を抉った。
似ているのだ。
顔も声も年さえ違うのに………まっすぐに射抜くあの瞳が、もう見ることの叶わない緑色の瞳にとてもよく似ている。
………さま!
遠い昔にまだ、王と呼ばれるずっと前に向けられていたまっすぐな眼差しを思い出させる。
「私は………どうすればいい?」
今はもう、見ること叶わない二つの懐かしい面影を思い王は目をつぶった。その時、王の胸によぎったのはもう戻らない過去の残滓だった。
「ナツは意外と向うみずなところがあるみたいだねぇ~~~」
声とともに部屋の中にもう一つ、気配が現れる。
目を開ければそこには見慣れたフード姿をした世界の傍観者。
「魔術師か」
ひらひらと手を振りながら魔術師はなんでもないことのように説明をしようとした王を遮る。
「事情説明はいいからね」
まだ誰にも伝えていない王子「誘拐」をすでに把握している魔術師に思う所がないわけでもないが今はそれどころではない。
「分かっているのなら話は早い。王子を連れ戻してくれ」
報酬は払うと告げると魔術師は面白そうにニヤニヤ笑う。
「ふ~~ん。連れ戻すだけ?ナツはいいの?曲がりなりにも王族をしかも次期王を誘拐したんだよ?」
「今ならまだ、私の心の中に収めておける」
異世界の少女。王族を誘拐した罪は重いが彼女がリカルドに害を加えるとも思えない。幸いなことに他者に知られていないこの状況だ。リカルドをこちらに返還したのちこちらの世界とのかかわりを絶てばそれでいいと王は考えていた。
「へぇ?そう」
のらりくらりと会話を引き伸ばすばかりで魔術師は返答をしない。
「魔術師、返答は?」
しかし、途方もない力と知識をもった迷惑の権化は答えない。
まるで誰の意にも従うことない世界そのものようだ。
「ねぇ、王様?僕の忠告を覚えているかい?」
唆すような魔術師の言葉にいつか交わした言葉が甦る。
「君は死者に囚われすぎている、って話。せっかく忠告してあげたのに君の手には死者がのこり生者は飛び立ってしまったんだね」
魔術師が手にした杖の先をまっすぐに王に向ける。
「ねぇ、王様?君は最愛の妻を奪った息子を恨み、厭いながらもかの王子を完全に排斥することもできなかった王よ」
窓の外が暗くなる。一雨きそうだ。
だが、執務室の二人は空が翳ったことも気づかないかのようににらみ合っていた。
「恨む気持ちと同時に君は愛したいという気持ちも捨てることはできなかった。相反する感情の末に君は王子に極力事務的に接し関わりを最小限にすることで己に対して一応の平穏を得た」
愉しげだ。
とても愉しげな声で魔術師は語り続ける。
王は、止められない。
それは反論できないほど抱いたことのある感情だったから。
「………そして、いま、君達親子の均衡は破られた。異世界の女の子のわがままでね。生者は飛びたち、死者だけが君に残された。でもそれは本当に君が望んだものかい?」
王の答えはない。何も答えない。何かを失望したかのように魔術師は肩をすくめた。
「………もう少し、君に時間をあげるよ。王様」
「魔術師?」
「王子様を連れ戻すよ。だけどそれは君が僕に言い返せるようになったら、だ」
「なにを………」
魔術師が杖を一振りする。
それだけで魔術師の姿は影に消えていく。
「王子は事業の成功により長い休暇を与えたことにしなよ。ああ、僕もその裏工作には一役買ってあげるから誘拐だなんて物騒な話はでないよ………それより王様はみつけなよ」
影と同化していく魔術師が最後に言葉を放つ。
「君が息子とどう向き合っていきたいのかを、さ」
ぷつりと魔術師の姿が消える。もどった静寂に王は深く息を吐き、そして背もたれに強く寄りかかった。




