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夏休みの主婦は戦場です。
眠る弟妹達を文字通りたたき起こし、ラジオ体操に送り出し、その間に食事の準備を済ませ、帰ってきた弟妹達に食事をさせて、掃除、洗濯などの家事の合間に宿題を故意に忘れるものに目を光らせ、勉強時間を取らせる。
私とリカルド君、ザクロちやんの二人と一匹の時だと考えられないぐらい賑やかでせわしない毎日が続いていた。
めまぐるしい毎日の中、リカルド君は下の弟妹達にやれ、ラジオ体操だぁ~~~プールだぁ~~川遊びだぁ~と毎日毎日つれまわされていた。
「おいお前ら、あまり無茶すんなよ~~」
保護者兼お目付け役であるハルトが暴走する弟妹たちに一応の声をかける。
歩き出していた秋彦たちは振り返りおのおの返事を返してくる。
「わかってるよ!」
手を上げて満面の笑みで答えるのは秋彦。
「だいじょうぶ~~~~!」
大きく手を振るのは冬香。
「(ぐっ)!」
無表情で親指を立てる秋信。
「ちょ、まて、ひっぱるなぁぁぁぁ~~~~~!!」
双子に両手を掴まれて連行されるリカルド君の背中を冬香が楽しそうに押している。
賑やかに騒ぐ三人に近所の子供達が一人、二人と合流して最終的には結構な人数で走っていく。
「にぎやかねぇ」
「こどもは元気だな」
「に、にゃ?(本当に大丈夫なのでしょうか?)」
それをほのぼのと見送る私と部活に行くために制服姿のハルトにどうしてかおろおろして私たちと遠ざかるリカルド君たちとを見比べるザクロちゃん。
そんなザクロちゃんをひょいと抱き上げてから私は制服姿のハルトを見る。
「さて、そろそろオレも部活に行くか」
そう言って竹刀袋を背負い直すハルトを見送ろうとしたんだけど………。
「いってら………」
「い~~~~や~~~~~~~~ち~~~こ~~~~く~~~す~~~~る~~~~~!!」
非常に聞き覚えのある少女の雄たけびに発しかけていた言葉をかき消され、私たちはぴたりと動きを止めた。
「「…………」」
またか、と声なき声でお互いにつぶやく間にもお隣からは騒々しい声と音が響いてくる。
「夏期講習がはじまる~~~~~!!」
「静かにしなって何度言えば理解するんだい!この馬鹿娘!」
「ひゃ~~~リボン、リボンがな~~~い~~~!!」
「朝ごはん!朝ごはんを食べな!」
「おむすびだけもらう~~~~~~~~~!!」
蛇足だがお隣の朝ごはんには寝坊しまくる娘のためにおむすぶやサンドイッチなどといった手軽に食べられるものが常備されている。
「むぐ、むぐぐぐぐっ~~!」
叩き付けるように扉を開けて閉める音。
「扉は静かに開閉しなって何度言えばわかるんだい!」
おばさんの怒声をBGMに弾丸のごとく飛び出してきたのはハルトと同じ高校の制服を着た女の子。
ふんわりと波打つショートボブの茶色の髪、ちょっとキツイけど切れ長で涼やかな瞳、ぷるんとして口紅を塗ってないのに赤く色づいた唇。長いまつげ、長身のすらりとした四肢。
美人さんだ。
美人さんなのだが………。
いくら美人でもおむすびを口の中いっぱいに詰め込み、左手にアルミホイルに包まれたおむすびをもち、鬼気迫る顔でスタートダッシュを決める女の子を美人と称するのは幼馴染の立場からでもいささか躊躇うわ~~。
「また寝坊したのかよ。ササパンダ」
慌てているためこちらに気づかず通り過ぎようとしていた篠だけどハルトの余計な一言に見事にとまった。
っていうか右腕と左腕が上がった状態で器用にとまっている。その姿はさながら実写版非常口に書かれている緑色の人(正式名称ピクトグラム)のようであった。
「いま、なんっつた?」
ぎぎぎぃと音がしそうな動作で振り向いた篠の顔は般若だった。
そのまま神楽に出れそうなぐらいリアル般若。
正直に言おう。見慣れ(しまっ)た私ですら直視し続けるのは嫌だった。
だけど般若を引き出した張本人であるハルトは口角を上げて楽しそうだ。
この二人、幼馴染だというのに昔から仲が悪い。
篠の逆鱗は「パンダ」というあだ名(本名の半田篠から連想され、子供時代に誕生)なのだが当の本人が呼ぶ相手すべてを腕っ節で黙らせたため近隣でそう呼ぶやつはいない。
我が家の長男以外は。
嫌いな相手の弱点は逃さないぜっと言わんばかりにことあるごとにあだ名で呼ぶのだこの弟は。
「にゃっ!」
二人の放つ禍々しい空気に胸の中でザクロちゃんが涙目になってすがり付いている。私はこのあと起きるであろうバトルを思いうんざりした。




