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この世界において御伽噺レベルの存在である食の女神は何故だか料理人たちにとっては崇拝すべき守護神なのだそうだ。
女神の加護と与えられた知識、植物の多くを人間は己自身の愚かさゆえに失った。
しかし、それでも辛うじて残った女神の遺物ともいえる知識や植物達は戦いの後の飢えた人々の命を助けたという。
「元々食の女神は人々に美味なる料理法を伝え、様々な植物の種や苗を与えていたと言われています。そんな女神を我々料理人が守護神として崇拝するのは当たり前のこと。そのご尊顔を拝見でき料理人一同感涙のきわみでございます」
横に広い人影………この宮廷の厨房を統括する料理長さんの言葉に縦に長い人影………料理長さんをサポートする副料理長さんがうんうんと頷いている。
えっと………自己紹介はしてもらった。状況も把握。ここでも食の女神様に間違われている!
「あ、あの!申し訳ないんですけど!私は食の女神ではありません!異世界の人間です!」
「なにをおっしゃって………」
料理長さんと副料理長さんがそろって同じ方向に首を傾げる。
外見は真反対なのにその仕草がやけにそっくりだ。
「そいつの言う通りだ。全く、おまえら料理人は料理に関することには盲目的に驀進するくせを直せ!」
リカルド君が腰に手をあて頭より大分上にある料理長さん達をしかりつける。
「巷では食の女神が降臨しただのと言われているようだがこいつは魔術師が異世界の料理を俺に食べさせるために召喚した別の世界の人間だ。お前達が押しかけてくる………」
「「異世界の料理!!」」
「そこに食いつくのか!」
私が人間だということよりも異世界の料理という単語に食いついてきた料理長さん達に利カルド君が思わずっという風に突っ込む。
だが、料理関係には盲目的に驀進すると言われた二人の耳に届いてはいない。
「食の女神様でないと王子は言われましたが貴女がこの国、いやこの世界にもたらした食の恩恵ははかりしれないのですよ!」
「是。新たな調味料・食材の思っても見ない調理法。挙げればキリがない」
「食の女神ではない………異世界の人間と言われても貴女のされていることはまさに伝え聞く食の女神そのままなのです」
「女神と同じ。食の調理法を伝えてくれる」
「はっ!もしや貴女様は食の女神の名を新についだ次代さま?」
「!それ、ありうる」
「ええ。それならば納得です」
「是」
はっ!あまりのマシンガントークに目を白黒させていたらいつの間にか二代目女神さまにされそうになっている!
「ち、違う違う違う~~~~~~~~~!!二代目でもないの!私はただの一般市民!普通の十八歳の女の子なのよ~~~~~~~~~~~~~~!!」
力一杯否定する私の叫びが王宮に響き渡った。
二人を説得して、私が人間だということを納得してもらうのにはトト君以上の時間と労力がかかりました。
な、何なの?この世界の料理人は皆思い込みが激しすぎる人種なの?
リカルド君とざくろちゃんと三人がかかりで説得してどうにかこうにか納得してもらえたけど代償としてテーブルには陸にあげられたマグロのような影が三つできあがっていた。
勿論、魔術師さんは全くちっとも手伝ってくれなかった。
ニヤニヤと笑いつつ紅茶を飲んで隙あらばクッキーに手を伸ばすので説得をしつつそれを阻止する攻防戦も同時にこなした私の疲労は半端ないものであった。
「なんでこいつらはこう、思い込んだら一直線なんだ………」
「うにゃ~~~」
「………」
思い込みの激しい人の説得ほど疲れることはない。
そう身に染みた一件でした。




