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「このジャムというものは果物を煮詰めていくのか………」
「うん。保存もある程度はきくよ」
「う~ん。お前の世界は保存ができる食品が多いな。この前もって来てくれた味噌という調味料はびっくりした」
そういえばいつだったか日本の心の味っ!と思って味噌汁と味噌を塗って焼いたおにぎりを配達したなぁ~~。
うちはお母さんが料理好きで味噌も手作りしていたのだ。味噌って少量ならそう時間をかけずに家で作る方法もあるんだよ。どうやら食いしん坊だったらしく色々な料理を試してみては家族に振舞う母を見て育っていたせいかわが家は皆食べることが好きなのよね。
私もおいしいものを食べるためなら手間隙惜しまないし。
「私の世界はこの世界のように魔術っていう便利な力がなかったからね。食材を少しでも長持ちさせようと色々な工夫をしたんだよ」
外国の話だがソーセージーを作るため、豚を一頭絞めた場合肉は勿論血の一滴も無駄にしないでソーセージーにするというのを映像で見たことがある。
貴重な食料は血ですら肉にまぜ、彼らはソーセージーにするのだ。
日本も同じ。
魚が貴重な地域では酢漬けや干物など知恵を絞って保存方法を確立させていった。
私達の世界の多種多様な食文化。
考えてみればそれらは自身を生かす貴重な食物を少しでも長く貯蔵しておけるようにそして少しでも美味しく食べられるようにと先人たちが知恵を振り絞った結果だ。
「易々と食物が手に入る環境でないから手に入れた食料の保存に知恵を絞って、どうせ食べるなら美味しいほうがいいと工夫を重ねた。それらの積み重ねに今、私達が恩恵に与っているのね」
ジャムをつけたスコーンをパクリと食べながら私はそう絞めくくった。
「何だい?僕にこんな苦行を押し付けておきながら自分達はお菓子片手に食文化談義かい?いいご身分だね~~~」
頬杖をついて口を尖らせる魔術師さん。
その手は何度もスコーンに伸ばされていたんだけど獲物に届く前に私がぺシリと叩いて撃退していた。
「魔術師さんも懲りませんね」
「なんで君は僕の動きが分かるのかな………?」
だって魔術師さんの行動ってつまみ食いを狙ううちの弟妹達にそっくり同じなんだもの。
認識するよりも早く体の方が反応してしまうのだ。
「僕が魔術で速度上げても気付くんだもんなぁ~~」
そこまでして食べたいんですか?という問いは大人しく飲み込む。
「あ~あ!ご馳走があるのに食べられないってどんな拷問なんだか!」
頭の後ろで腕を組んで天上を仰ぐ魔術師さん。
「自業自得だろうが」
「そうですね」
王子様と使い魔の的確すぎる突っ込みに魔術師さんの空気が本格的にいじけてくる。
ぱくぱくむしゃむしゃ目の前で自分が食べられないお菓子をおいしそうに食べられたらそりゃ荒むだろうけど。
「あはは………」
こくりと紅茶を飲む。
非日常だと思っていた光景だけど………知らない間にすっかり馴染んじゃっているなぁ………。
「痛っ!また叩かれた!」
「物思いに耽っているのにつまみ食いは見逃さないのか」
「すごいです!さすがご主人さま!」
なにやら外野がうるさいけど気にしない~~~。
「本当になんで逆らえないんだろう………った!」
話しを進めながらも隙を見てスコーンに伸ばす魔術師さんの手を見もせずに私は叩き落とす。
「魔術師さん?いい加減におとなしくしてくださいね?」
「うううっ………はい」
がくりと俯きながら手を引っ込めた魔術師さん。
「「おおおっ!」」
そして感嘆の声を挙げる異世界出身者達。
くっ!ざくろちゃん。猫の手でパチパチってそれなに!可愛いじゃない!
思わぬ可愛らしさにめろめろになりかけているとトントンと扉を叩く音がした。
入ってきたのは従者の人でリカルド君の耳元で何か囁く。
「………なに?」
リカルド君の顔が王子様のものに変わり、ちらりと私の方に視線を向ける。
え?なに?
だけど視線を向けられたのは本当に一瞬で私が何か口を開くよりも早く視線は外れてしまう
小声でなにかを早口で伝え、それに頷いた従者の人が一礼をして部屋を辞した。
ふぅ、とつめていた空気を緩めるようにリカルド君が息を吐いた。
「何があったんだい?」
開口一番に口を開いたのは魔術師さん。
面白そうな匂いでも感じ取ったのかその口元は愉快そうにゆがめられている。
野次馬根性を感じてはいたのだろうが魔術師さん相手に隠し事は無駄だと悟っているのだろう、子供とは思えない酷く気疲れした表情を私達に見せた。
「………いや、まぁ、あの“双子”がな」
あの双子?
私にはサッパリ分からなかったのだが魔術師さんにはそれだけで伝わったようで納得したように頷いた。
「ああ。“ふとっちょ”と“のっぽ”かぁ!そうだねぇ~確かにそろそろ騒ぎ出しても可笑しくないねぇ~~」
「「????」」
勝手に納得した魔術師さんとは反対に私とざくろちゃんは顔面中に疑問符を浮かべまくっていた。
ちょ~~~~っと!君達!二人だけで納得してないで説明をしてください!
物言いたげな私達の視線に気付いた二人が顔をみあわす。
あの、気のせいでなければ無言で説明を押し付け合ってないですか?
そこまで説明を躊躇するほどの話しなんですか?双子ってキーワードは!
結局、押し負けたリカルド君が説明役をしてくれるようだ。
「あ~えっと、な。実はとある人物達がナツに逢いたいと言って来ていているんだが………」
「「そのとお~~~~~~~~り!!」」
リカルド君の台詞を遮るかのように朗々たる声が響き、入り口の扉が音を立てて開かれる。
目を丸くする私達の視線の先に現われたのは二つのシルエット。
横幅の広い影と縦にひょろながい影。
あれ?可笑しいな?光なんてないはずなのに彼らの背後に強い光があって逆光でよく見えない!
っていうか何、このどこぞの特撮ヒーローの登場シーンのような光景は?
幻覚?幻覚なのか?
「あ~~~待ってろって言ったのに………」
「あはははっ!彼らは僕とは違う方向で“自分勝手”だからね。無理だよ」
展開についていけてない私達をよそに何かしら情報を握っている組はなにやらボソボソ話している。
いや、なんで君達そんなに落ち着いているの?
「そちらにおられる女性!」
「え?私?」
横幅の広い方の人影がびしっと私を指差す。
「是」
のっぽの方が重々しく頷く気配。
気付けば人影は椅子に座る私を見下ろせる位置まで近づいていた。
い、いつの間に!
想像以上の素早い行動についていけない!
だけど、ここまで近づき、人影をよく見られるようになると私は彼らの正体を断片的にではあるが悟ることができた。
「え、その服って………」
それを口にするよりも早く、二つの人影が私の足元に膝をつく。
「ひっ!」
驚きで飛び上がる私は軽く無視して人影はキラキラした目で見上げてくる。
ああ~~間違いない。そう遠くない昔にこれとそっくり同じ視線を向けられたわ。
この人たちは……きっと………。
「「御逢いしとうございました!食の女神さま!」」
あははは…………やっぱりトト君と同じ職種の方達でしたか。




