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異世界の人間であるナツと出逢い、少年は色々なことを知った。
彼女の世界の料理がとても美味しいこと。
それらの料理がこちらの世界にも存在する食材で作られており、自分の世界にはまだ沢山の美味なるものが存在していること。
そして。
「リカルド君。はい。どうぞ!」
誰かと同じテーブルについて同じ物を食べるということがこんなにも楽しくて心が温かくなることだということを少年は初めて知った。
ナツが来るまでは少年は誰かと食事を共にとることなど殆どしたことがなかった。
母は彼を産んで数日で亡くなり、母を愛していた父は唯一残された息子である自分を顧みることなく距離を取っていた。
母を愛していた父はきっと母を殺して生まれてきた自分を許せないのだろう。
幼いながらもそう、感じ取った少年はそれでも父に認められたくて必死に努力した。
子供っぽさなど見せない、父の誇りになるような立派な王子として勉学に勤しみ振る舞った。
だけど、父が誉めてくれることはなく王としての顔しか見せてくれなかった。
愛して欲しい、だけど母の命を犠牲にして生まれた自分が愛されることはないのだと少年は十歳になる頃には悟っていた。
「砂糖に強力粉・薄力粉の生産開始に各種食材の調理法の見直し………発端である私が言うのもなんだけどここまで大事になるとは思わなかったわ………」
本日は料理長さん以下厨房の人たち&リカルド君が進めている新たな食材の加工と流通計画の参加者達による仕事の一環を見学させてもらうために異世界を訪れた私は目の前の光景に目を奪われてしまった。
「何、あのサトウキビをすり潰している巨大な機械もどき!何を動力で動かしているの!」
そう、現代日本に比べるとかなり原始的な巨大な器具の数々がどういう訳だか自動で動き着々と原材料を加工している。
人の姿はないから人力ではないのは確かなんだけど………。
「精霊達の力を借りて動かしてもらっているんだ。精霊達にも味覚があってよかった。対価はおいしいご飯を仕事の後に提供することだ。ナツの教えてくれた料理はうちの厨房でも再現できるようになったものが多いからな………あ、ちゃんと労働時間は決めているし、休憩時間もとっている。いかに精霊といえども力を使い続ければ疲れるからな」
リカルド君が施設を案内しつつ説明してくれる。
どうやら一般人には見えない従業員がいたようです。
ってか精霊!精霊なのか!
「風の精霊と火の精霊………あ、水の精霊もいます。不純物を取り除くためでしょうか土関係の精霊も少ないですけどいますね」
私と違って見えているらしいざくろちゃんが補足説明をしてくれる。
だけど見えない私からしたらサトウキビが勝手に浮んで機材に飛び込んでいたりしているように見えるんだよね。ポルダーガイストかと言いたい。
「あ、ねぇねぇあの人たちは何しているの?」
施設の要所要所にいる人たちは何かを確認したり、誰もいないところに話しかけたり頷いたりしている。
………精霊がいるって知らなければちょっと危ない人に見えるわね。
「あれはここの現場指示者達だ。全員精霊と意思疎通ができる人間で作業工程の確認や精霊への指示、全体の管理、体調維持が主な仕事だな」
へぇ………中々どうしてしっかりした体制ができているみたい。
私はちらりと横で歩きながら説明をしてくれているリカルド君を見る。
これを企画立案実行まで陣頭指揮をとっているのが私よりもずっと小さい男の子だっていうんだから凄いよね。
その癖、施設を案内しているリカルド君の顔は自慢のオモチャを見せびらかす子供そのものだ。
「精霊達の数が一定人数集まることが絶対条件だったんだが精霊は気まぐれだし不安だったんだが説明をして、お前の作った料理を賄賂代わりに持っていってみたら二つ返事で了承してもらえたんだ。人間側の人員についてはツデがあったし、資金も俺の資財とあとは商人が何人か援助してくれてようやくこの施設を稼働させることができたんだ」
どうだ!と言わんばかりに胸を張るリカルド君を私は思いっきり褒める。事実、心の底から彼のしていることはすごいと思ったからね!
「凄い!リカルド君、頑張ったね!」
「へへっ………完全に流通していくのはまだまだ先だろうけど今、少しづつここで出来た砂糖なんかを市場に出してもらっているんだ。今まで見向きもされていなかった食材についても認識を改めてもらおうと色々手を打っている途中だ」
それに、とリカルド君が少し、照れくさそうに笑う。
「上手くいけば、父上にも誉めてもらえるかもしれない」
ぽつりと小声で呟かれた声は機械の音に紛れてしまいそうだったけどその切実さの滲んだ声はどうしてだか私の耳に届き、いつまでも残っていた。
施設の見学の後、私達はお城の厨房にお邪魔していた。あ、ざくろちゃんは動物の毛が調理場に落ちるのは問題だろうと自主的にお部屋に帰っちゃいました。
リカルド君の案内でやってきた厨房は夕飯の仕込みの途中なのだろう野菜の皮を剥く人、お鍋を掻き回す人、材料を切る人と皆忙しなく動いていた。
「あ~~~ナツさんじゃないっすか!」
戸口にいた私達に真っ先に気付いたトト君がジャガイモの皮剥きをしていた手を止めブンブンと手を振ってくる。
あはは。相変らず元気だなぁ。
「いつ、手を止めていいと言いましたか?」
穏やかな声と共にトト君の頭に拳骨が落とされる。
「いってぇ!」
「全く。サボってないで手を動かしなさい」
相変らず丸い料理長さんがその体格に見合わない素早さでトト君の背後に現われたのを私は確かに見た。
料理長さんはトト君が涙目で皮むきを再開したのを確認するとこちらにやって来て頭を下げた。
「これはこれは王子殿下にナツ殿ようこそいらっしゃいました」
ふくよかな頬に埋れた目を細め料理長さんがにこりと笑う。
笑うとなんだかクマのヌイグルミみたいでちょっと可愛い。
「今日は施設の方もご見学されたとのことですが………」
「はい。とてもすごかったです!私の世界には精霊はいないので大きな機械を精霊が動かしているって聞いた時はビックリしました。それに精霊への対価がご飯だってことにも驚きです」
私の言葉に料理長さんは益々笑みを深くした。
「精霊は食の女神と深い縁があった、とされる伝説があるのですよ」
「え?そうなんですか?」
「詳しいことはやはり戦争によって失われてしまっていますし、精霊達も何も語りはしませんが食の女神の周りには精霊が多く集い、女神は人にも精霊にも料理を振舞ったとあります。………案外、精霊達が協力してくれたのもナツ殿の料理が女神様のことを思い起こさせたから、かもしれませんね」
茶目っ気たっぷりにそんなことを言う料理長さんに私はまさかと笑って流す。
だって、ねぇ?
それって、私が作る料理と女神様が作った料理が似ていた、ってことにならない?
異世界の創世の時代の神サマが作った料理と現代の日本の人間が作った料理が似ていることなんてありうるわけがない。
「でも、ナツ殿おかげで私達料理人は新しい食材や調理方法に嬉しい悲鳴ですよ」
忙しそうに動く料理人達もそしてそれを見詰める料理長さんも皆とても生き生きとしていて彼らの役に欠片でも立てているのだと思うとなんだか私まで嬉しい。
「でも、いつまでもナツ殿ばかりにご教授してもらうわけには参りませんからね、近いうちにわたくしともの手で生み出したこの世界のご料理をお出しいたしますのでその時は是非、ご賞味いただけますか?」
返す返事なんて一つだけ。愛想笑いなんかじゃない心からの笑顔を添えて。
「ええ!もちろん!楽しみにしています!」




