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T-DAY:台湾戦争  作者: 中央国家安全委員会主席
第8章 奈落

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203Y年3月16日 台北

203Y年3月16日

中華民国/台湾 台北市


「私は、前の中国共産党中央軍事委員会副主席兼中華人民共和国国防部部長にして、現在、わが党中央の厳粛なる委任により、中国共産党総書記臨時代理、および中華人民共和国国家主席臨時代理の大任を拝命した、陳世東上将である。本日は、偉大なるわが祖国の十四億人民、ならびに全世界の人々に向け、この一か月間、神聖なるわが領土で進行していた未曾有の事態について、その歴史的真実を宣布するためにこの場に立っている」


画面の中の陳世東は、鉄条網のような硬い表情で、カメラの向こう側にいる全人類を威圧するように言葉を継いだ。


「偉大なるわが国、不屈のわが人民に告げる。わが祖国は過去数週間、建国以来最大とも言える内部の卑劣なる裏切りと、帝国主義勢力による悪辣なる陰謀の直撃を受けていた。今ここに真実を明らかにする。

わが英雄的なる人民解放軍による、台湾海峡における『防疫および治安維持活動』が予期せぬ停滞を余儀なくされた原因は、わが軍の勇猛さの欠如でも、わが党の偉大なる指導の誤りでも断じてない。そのすべては、国家安全部長という重職にありながら、日米の帝国主義勢力の走狗に成り下がった売国奴、李建国による、党を内部から瓦解させようとする大規模な反革命陰謀であったのだ!」


陳が机を叩くと、演台に並ぶ将軍たちが一斉に頷く。その背後には、紅の地に黄色の鎌と槌を配した中国共産党の巨大な党旗が、まるで血の壁のようにそびえ立っていた。


「李建国という稀に見る売国奴は、敵対勢力から巨額の賄賂を受け取り、わが軍の最高機密を敵に売り渡し、戦場において意図的に指揮系統を攪乱した。台湾同胞を解放しようとするわが軍の正義の歩みを止めたのは、外部の敵ではなく、内部に潜んでいたこの一握りの毒虫であった。

そして、私は全人民と共に、慟哭の血を流しつつこの悲報を伝えねばならない。党と国家の偉大なる指導者、周華平主席は、この陰謀をいち早く察知し、最期まで祖国と人民の尊厳を守り抜くべく、孤独にして苛烈な闘争を続けておられた。しかし三月十四日未明、追い詰められ正体を現した裏切り者、李建国の卑劣極まりない凶弾により、周主席は壮絶なる殉職を遂げられたのである。主席はわが民族の永遠の英雄として、その魂は万里の長城と共に不滅である!」


陳世東は一度言葉を切り、鋭い視線を張遠平へと向けた。


「わが人民解放軍は、現在中央軍事委員会副主席兼国防部長に昇格した張遠平同志の果断なる指揮の下、ただちに武装警察と連携してこれら反革命分子を徹底的に掃討した。人民の敵、李建国はその場で正義の断罪を受け、処刑された。

全人民よ、聞け。栄光ある中国共産党は常に偉大であり、党の判断は常に正確であり、永遠に無謬である! わが国の前進を一時的に妨げたのは、党の内部に寄生した一個人の醜悪な野心に過ぎない。わが党はこの膿を完全に出し切り、歴史の試練を経てさらなる純化を遂げたのだ。

現在、わが人民解放軍は、裏切り者によって乱された戦列を整え、国家安全を鉄壁にするための『戦略的再編』として、台湾周辺海域から各基地への一斉撤収を開始している。これは敗北ではない。より強固な勝利を達成する準備を整えるための、戦略的な一歩後退である。わが中国共産党はこれからも台湾解放、祖国の完全統一という歴史的任務を決して放棄することなく、中国の最も偉大な夢、中華民族の偉大な復興を完遂する唯一無二の正統な灯台として、永遠に君臨し続けることをここに宣言する!」


演説が終わると、避難所には氷を投げ込まれたような静寂が訪れた。誰もが、そのあまりにも強引で、しかし独裁体制を維持するためにはこれ以上ないほど完璧な「虚構の論理」に言葉を失っていた。


「……信じられない」


雨婷が、震える声で呟いた。


「周主席を聖なる犠牲者に仕立て上げて、すべての失敗を死人に着せた……。自分たちのクーデターを、『正義の粛清』に書き換えたんだわ」

「党の無謬性を守るための、究極のトカゲの尻尾切りだ」


マークが、冷徹なジャーナリストの目で画面を見つめたまま言った。


「これで北京の連中は、負けたという事実さえ『戦略的再編』という言葉で上書きし、明日からまた『正しい指導部』として君臨し続ける。戦争は終わるが、あいつらのシステムは、その邪悪な本質は一ミリも変わっていない」


祐希は、無言でカメラを回し続けていた。画面の中では、撤収を開始した中国艦隊の映像が、勇壮な軍歌「義勇軍進行曲」とともに流されている。

一カ月にわたる血みどろの戦争。核の恐怖。与那国島の悲劇。そして、台北の路上に転がった無数の犠牲。それらすべてが、北京が捏造した都合の良い「物語」の中に飲み込まれ、急速に消去されていく。


「……でも、終わったんだね」


雨婷が祐希の肩にそっと頭を預けた。

窓の外、台北の夜空には、もう爆弾の落ちてこない、静かな暗闇が戻ろうとしていた。嘘にまみれた平和。欺瞞の上に成り立つ休戦。

それでも、この島の人々が血を流して守り抜いた「自由」という名の現実は、対岸に広がる巨大な暗黒の独裁国家の前で、小さく、しかし決して消えない確かな光を放ち続けていた。

祐希は、レンズの向こう側の北京を見つめ、静かにシャッターを切った。

記録されるべきは、北京が放送する公式発表の「真実」などではない。

この地獄のような暗闇の中で、愛する者を守るために確かに脈打っていた、名もなき人々の不屈の鼓動だった。

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