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T-DAY:台湾戦争  作者: 中央国家安全委員会主席
第8章 奈落

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203Y年3月13日 日本/中国/米国

203Y年3月13日

昨日の「200発の弾道ミサイル」という中国側の狂気的な暴挙に対し、自由の陣営による鋼鉄の回答――作戦名、復讐の嵐リベンジング・ストームが発動された。


漆黒の闇に包まれたグアム島アンダーセン空軍基地。湿り気を帯びた熱帯の夜気を、八発の巨大なエンジン音が切り裂いた。戦略爆撃機B-52H「ストラトフォートレス」の編隊が、最大離陸重量に近い巨体を揺らし、滑走路を舐めるように加速する。翼下の兵装ステーション(ハードポイント)には、空中発射巡航ミサイル(ALCM)が、獲物を待つ牙のように隙間なく装着されていた。テニアン、そして豪州北部のティンダルからも、同様の「死の怪鳥」が次々と北上を開始した。

同時に、日本の各基地――那覇、新田原、築城からも航空自衛隊のF-15JとF-2が、増槽(ドロップ・タンク)と長距離ミサイルを抱えて緊急発進した。特にF-2の翼下には、国産の十二式地対艦誘導弾能力向上させた航空機発射型の「スタンドオフ・ミサイル」が、冷たい月光を浴びて鈍い銀色の輝きを放っている。


波荒い東シナ海とフィリピン海。米第7艦隊のミサイル駆逐艦群と、海上自衛隊のイージス護衛艦「まや」「はぐろ」が、水平線の向こうにある敵拠点をレーダーと衛星マップの慈悲なき光で捉えていた。


「目標、寧波(ニンポー)福州(フージョウ)汕頭(スワトウ)。トマホーク、ッ!」

 艦橋に響く乾いた号令。直後、垂直発射システム(VLS)のハッチが次々と跳ね上がり、凄まじい衝撃波(ブラスト)とともにトマホーク巡航ミサイルが夜空へと突き上げられた。オレンジ色の巨大な火柱が海面を照らし、ロケットブースターが切り離されると、ミサイルは小型の主翼を広げ、低空へと身を躍らせた。

 空、そして海。あらゆる領域(ドメイン)から放たれた巡航ミサイルの総数は、実に三百発。それは海面スレスレを這う超低空飛行(シー・スキミング)で、あるいは複雑な山間部の地形を縫うようにして、大陸沿岸の「神経系」へと殺到した。


大陸沿岸に張り巡らされた中国軍の強力な防空網、HQ-9やS-400が牙を剥く。

闇夜を数千の対空砲火と、迎撃ミサイルの噴射炎が埋め尽くした。空中で鋼鉄と鋼鉄が衝突し、指向性弾頭が放つ破片がミサイルの外殻をズタズタに引き裂く。夜空は、無数の「人工の星」が瞬く地獄絵図と化した。

三百発のうち、六割を超えるミサイルが中国軍の執拗な迎撃によって空中で四散した。しかし、残る百発余りの「死神」たちは、防空網のわずかな隙間、あるいは飽和攻撃によって情報処理の限界を超えた火器管制システムの盲点を突き、標的へと吸い込まれていった。

寧波。東海艦隊司令部近傍の主要通信センターに、五発のトマホークが寸分違わず着弾した。

ミサイル先端の目標検知センサ(TDS)が目標との距離をミリ秒単位で計算し、強化コンクリートの屋蓋に接触した瞬間、圧電式信管が作動。瞬時に伝爆薬(ブースター)が起爆し、主弾頭内の高能爆薬(PBX)が爆轟を引き起こした。

爆薬の化学エネルギーは爆轟波デトネーション・ウェーブとなって音速の数倍の速さで伝播し、タンデム弾頭の前段が外壁を穿ち、後段の主弾頭が室内の酸素を巻き込んで膨大な熱と圧力波(オーバープレッシャー)を放出した。内部の通信機器は一瞬でプラズマ状の火炎に呑み込まれ、巨大なパラボラアンテナのタワーは根元からねじ切れ、ゆっくりと崩落していった。


福州。前線航空基地の広大な燃料貯蔵タンク群に、F-2から放たれたスタンドオフ・ミサイルが着弾した。

鋼鉄のタンク外壁を貫いた瞬間、遅延信管によって内部で爆発が制御される。数万キロリットルの航空燃料が、爆圧によって微細な霧状となり、次の瞬間、二次爆発によって巨大な火球へと変貌した。

「――ドォォォォンッ!!」

大地を揺らす重低音。劫火は滑走路に駐機していた戦闘機を紙屑のように吹き飛ばし、補給ラインは猛烈な炎によって完全に寸断された。

汕頭。沿岸の岩陰に隠蔽されていた地対艦ミサイル陣地の上空で、米軍の巡航ミサイルがクラスター弾を炸裂させた。

空中でキャニスターが分離し、数百個の子弾(サブムニッション)が雨のように降り注ぐ。それぞれの子弾に内蔵された成形炸薬(シェイプド・チャージ)が地表激突時に起爆し、数千度の高温を伴う超音速の金属噴流(メタル・ジェット)を放射。発射車両のレーダーは蜂の巣のように粉砕され、むき出しのミサイルキャニスターが次々と誘爆を起こした。

爆発の衝撃波は大陸の土を激しく震わせ、北京の指導部へ向けて、血で書かれた明確なメッセージを刻み込んだ。  


「我々は、撃たれっぱなしではない」


リベンジング・ストームは、まだ吹き始めたばかりだった。


サイバー空間では自由陣営による目に見えない「第二の矢」が、音も光も伴わずに放たれていた。


米国メリーランド州フォート・ミード

NSA本部の最深部にあるTAOの作戦ルームでは、極秘裏に選抜された数人のオペレーターが、青白いモニターの光に照らされながら、中国人民解放軍連合参謀部情報局の電話盗聴網に対して、精密な「会話」の割り込ませを開始していた。

TAOがこの瞬間のために費やした時間は五年を下回らない。彼らは、人民解放軍の指揮命令系統が集中する北京市西山の地下施設群に対し、物理的に外部ネットワークから隔離された「エアギャップ」を突破するため、執拗なサイバー探査を続けてきた。この作戦の要となったのは、台湾のNSBによる命懸けの人的情報収集(HUMINT)との密接な連携であった。北京市内の通信インフラの保守を請け負うある企業内にて、NSB第二処のケース・オフィサーにより「獲得」された協力者が、メンテナンスを装ってルーターのファームウェアに「インプラント」(隠しプログラム)を仕込み、そこから漏れ出す微弱な信号を、NSAが秘密裏に運用する電波情報収集衛星を経由して拾い上げる攻撃経路を確立していたのだ。NSAとNSBは、一年前にやっと獲得したこの情報源から、中国のインテリジェンス・コミュニティーにおいて国家安全部と双璧をなす人民解放軍の情報機関、連合参謀本部情報局が世界各国にどのような「特工」(特務工作)を仕掛けているのか極めて貴重な情報を入手し続けていた。よって、このルートを利用したあからさまな破壊活動などは差し控え、わずかでも中国側に露見する恐れのある行動は、「いざという時」まで一切回避して静かな情報収集に専念する方針が米台間で合意されている。しかし、まさに「いざという時」が到来していた。


「……ターゲットのサーバーに完全同期。ファームウェア層でのルートキット(サイバー攻撃の「裏口」を隠蔽するマルウェアツール)は安定しています。音声合成、不自然さ無し。タイムラグは一五ミリ秒以下。報復攻撃の混乱に乗じて、奴らの耳に直接『毒』を流し込みます。……発信」


彼らが秘匿ネットワークの隙間に忍ばせたのは、ある最高幹部同士の「極秘通話」を装った、AIディープフェイクによる完璧な偽造音声であった。生成敵対ネットワーク(G A N)によって数万時間の生体音声データを学習したAIは、最高幹部たちの特有の訛りや、極限状態での呼吸の乱れ、さらには軍用無線特有のノイズの乗り方までも完璧に再現していた。

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