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T-DAY:台湾戦争  作者: 中央国家安全委員会主席
第8章 奈落

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203Y年3月11日 北京

203Y年3月11日

中華人民共和国 北京市 中南海


@RealPokerPotus

中国は完全にメチャクチャだ! 我々のインテリジェンスは最高に素晴らしい。周が朝食に何を食ったかまで筒抜けだ。人民解放軍の一番上から一番下まで、我々の『友人』たちが山ほどいる。全くだ、彼らは秘密を守るのが下手すぎる! 周よ、君の机の下の機密ファイル、昨日のうちに全部読ませてもらったよ。実にお粗末(Sad)だ!#MAGA #TotalTransparency #USWin


「……これを見ろ。この下劣なペテン師の書き込みを!」


周華平主席の震える指先が、タブレット端末の画面を突き刺した。画面には、ポーカーが投稿したふざけたトーンの文章が、自動翻訳によって無慈悲な中国語に変換されて映し出されていた。

目の前に呼び出されたのは、中国の秘密警察・諜報機関の頂点に立つ李建国国家安全部部長である。彼は冷や汗を流しながらも、冷静さを保とうと努めた。


「主席、これはあまりに稚拙な心理工作です。情報機関の常識として、敵内部に獲得した情報源の存在を公の場で自慢するなど、絶対にあり得ないことです。ポーカーは我々を撹乱し、指導部内の猜疑心を煽り、自滅を狙っているに過ぎません」

「常識だと? 李よ、貴様はあの男の『前例』を忘れたのか!」


周の怒声が、静まり返った部屋に響いた。


「あの男は以前、極秘の特殊作戦で使った『無敵の最新兵器』について、記者団の前でペラペラと自慢げに喋り倒した。さらに、イランのミサイル基地を捉えた最高機密のはずの偵察衛星画像を『これは美しい写真だ』とツイートして世界中に晒したこともある! あの男は、自分の手札が最高だと思えば、それをひけらかさずにはいられない異常者なのだ!」


李部長は言葉に詰まった。確かにポーカーという男は、既存のインテリジェンスのルールが全く通用しない、ある種の「正直すぎる狂気」を抱えていた。


「もし、今回の言葉がブラフでなかったらどうする? 人民解放軍のトップからボトムまで筒抜けだと言っているんだ。……李よ、私は思い当たることがある」


周の瞳に、暗く濁った猜疑心が宿った。


「与那国島でのあの不可解な『偽降伏勧告』事件だ。捜査では『サイバー攻撃による日本軍の捏造』『ディープフェイク』として片付けられたが、本当にそうか? 東部戦区司令員の張遠平が、実は最初からアメリカの飼い犬で、計画的にわが軍を辱めるために降伏を命じたのではないか? そう考えれば、あのあまりにも手際の良い日米の反撃も合点がいく」

「……しかし主席、張司令員は長年党に忠誠を誓ってきた男です。そのようなことは……」

「忠誠など、ドル札の山とアメリカの永住権の前では紙屑も同然だ!」


周主席は立ち上がり、窓の外の灰色の空を睨みつけた。


「北京から、上海、アモイに至るまで、誰が敵と繋がっているのか、私にはもう何も信じられん。中央軍事委員会のすべての通信記録を、過去一年分、徹底的に洗い直せ。裏切り者を一人残らず炙り出すのだ」


李部長は深く頭を下げたが、その背中を戦慄が駆け抜けていた。

ポーカーの一言のツイートが、中国指導部という巨大な怪物の中に、修復不可能な「疑心暗鬼」という毒を回し始めていた。


そして、ロンドン、ニューヨーク、東京、そして香港。主要紙の一面に、示し合わせたかのような衝撃的な見出しが躍った。


「米情報当局、北京の『将軍粛清リスト』を傍受。東部戦区司令官ら処刑の危機」

「中央軍事委員会に迫る『血の土曜日』 周政権、責任転嫁の嵐」

「中南海の崩壊―傍受された通信が示す周主席の極限的な猜疑心」


報道の出所は、いずれも「匿名を条件とした北京の外交筋」や「党内部に精通した情報源」とされていた。これらは、日米台の情報機関が慎重に織り交ぜた「真実」と「加工された疑惑」の混成物であった。

「グレート・ファイアウォール」の内側でも、未曾有の事態が起きていた。普段は即座に削除されるはずの「禁忌」の情報が、SNSに洪水のように溢れ出したのだ。


「周華平の弟が、スイスの銀行に三百億ドルの隠し資産を持っている」

「主席の娘が、極秘裏にメキシコのパスポートを取得し、北京を脱出する準備を整えている」


証拠として添付された預金通帳のコピーや、航空券の予約画面のスクリーンショット――その真偽が確認される前に、情報は億単位の国民の目に触れた。貿易の遮断による物資不足に耐えてきた国民の不満は、指導部への不信感というガソリンを注がれ、爆発寸前の臨界点に達していた。街角では、当局の目を盗んで「自分たちだけ逃げるのか」という怒りの囁きが広がり、一部の地方都市では小規模な暴動さえ発生し始めた。

東部戦区司令員、張遠平上将は、タブレットに表示された海外紙の日本語訳と英語原文を、穴が開くほど凝視していた。


「……粛清リスト、だと?」


張は、震える手でデスクの上の煙草を掴んだ。

与那国島での「偽降伏命令事件」の際、周主席から受けた凄まじい罵倒が、耳の奥で蘇る。あの時の、独裁者の血走った瞳。それは、国家の存亡よりも、自らの面子を汚した部下への殺意に満ちていた。

張は窓の外を、何気なく見下ろした。

官舎の入り口に、黒いセダンが数台、音もなく停まっているのが見えた。車内には、国家安全部の捜査官らしき男たちが、表情を消して座っている。

最近、自分の個人用回線に微かなノイズが混じることや、家族の住む住居周辺で「見慣れない修理工」が頻繁に目撃されていることを、張は察知していた。


「国家安全部め……。ポーカーのツイートを真に受けて、本当に私を売国奴として仕立て上げるつもりか」


張は、これまで党に捧げてきた数十年の忠誠が、一瞬にして砂の城のように崩れていくのを感じた。

新聞に書かれている「粛清リスト」が、たとえアメリカの仕掛けた偽情報であったとしても、いや、張はほぼ九割の確率で偽情報だと思ったが、周主席の猜疑心そのものが本物である以上、そのリストは明日には「現実」になり得る。


「……座して死を待つか、それとも」


張の脳裏に、かつて共に訓練に励み、今は同じく監視下に置かれている戦友たちの顔が浮かんだ。


「次の作戦の成果で主席の機嫌が治ればいいんだがな……」


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