26話
「暗闇はお好きですか?」
僕はいつの間にか暗転させられていたのか、耳を塞がれただけではなく触れられただけで目も耳を感覚さえ閉じられ暗闇の中をただ漂っているような感覚になっていた。唯一マリルの妖艶で怪しげな囁き声だけがテレパシーのように僕にささやきかけてくる。
「人間の体の構造を熟知すればこんなことは簡単にできるんですよ。それに究めればいろいろできちゃうの。例えば人形みたいにね。」
パン!
大きな手を叩くと僕は一瞬で衣装を着替えた。手や腕、足に胴、あらゆるところに紐がついてるような操り人形のような僕。
そして光輝くステージに立たされ踊り始める。僕自身が操り人形のようになり歌い、舞台せましと飛び跳ねる。いつの間にか黒子が用意した横笛を吹きながら舞台から飛び跳ね空中を飛び回る。そして、スポットライトが舞台中央に集まると僕は笛を投げ捨てステージ中央に立ち歌い劇場最後部まで響くような美声を轟かせながら熱演をする。まるでミュージカルの主役を演じさせられるがごとく舞台せましと踊り狂う。
音楽演奏が盛り上がり共演者たちが華やかに終わりを告げようと僕の周りに集ま大団円。いつの間にか僕の横にハクが来て僕の右手を握り、大きく腕を持ち上げて最後のご挨拶とばかりに共演者と大きな礼をしてフィナーレを迎えた。
客席から大きな拍手と共に花束を持ったマリルが駆け上がってきた僕の左手を持ち上げ手の甲にキスをした。そして目が合うと花束を僕の真上に放り投げた。そして花束に目を奪われている隙にマリルがパンと1回だけ大きな拍手をした。
するとまた僕は暗転したかのように暗闇の中に取り残されるようにさせられた。
「人間の体は面白いでしょ。無意識に操られるなら諦めが着くけど、意識あるのに誘導されるのは許せない気になるんだもん。でも、意識があっても無意識に貶められることは多々あることなのよ。ダンに教わったでしょ。目線の誘導とか呼吸の仕方やいろいろね。だからこそまずは自分が持つ体や能力やスキルや技を限界まで知り尽くし、どう活用するか・・・まー限界を知ることが近道なのよ。」
マリルがそういうと、暗闇の中にいる僕を撫でまわし始める。僕の体の至る場所で関節や肉だけではなく骨までが悲鳴を上げた。
ボキバキバキバキキキキ・・・
「あぁぁぁ・・・・・うぅぅぅぅ・・・・・・」
体が引き裂かれるだけではない。踏みつぶされ叩きこまれ引きちぎられるそんな感覚が一日以上続くような気がするほどの絶望感に落とされる。
僕の体から精気だけではなく魂までを粉々に変えるような衝撃のさなか、マリルがようやく僕に語り掛けた。
「どうです。1Km先の草むらの中でこちらの様子を観察しているのぞき魔たちがいることが判りますか。何をしゃべり、どんな匂いがして、何者かまでわかりますか?」
「お母様も気づいていましたか?」
「ハク、貴方は黙りなさい。今はアース様に尋ねてるんですよ。」
「ありがとうマリル。今の僕ならわかるよ。悪餓鬼どもだね。僕たちの湯あみの服を狙ってるようだ。」
マリルの手ほどきのおかげでいつの間にか、超絶感覚ともいえるものを習得できたらしい。多分10kmぐらいまでなら大地に針が落ちる音も聞こえ、50㎞先の獣の匂いも判別できる。それに眼もやたらよくなったみたいで、望遠鏡と顕微鏡の切り替えがとっさにできるようになり、ゾーンに入ったかのようなゆっくりとコマ送りかスロー再生するのように時をゆっくりと流すかのような動体視力を手に入れた。
多分まだまだ超感覚が発展しそうなぐらいの感覚が僕を進化させていく。体に流れる血液以外の何かさえも感覚でわかる。気の満ちていく感覚が細分化され、神経パルスを活発化させる。霊力妖力魔力気力に精力に神力・・・本来感じるはずのない力の流れさえ感じてくる。そして視力聴力といった五感を超えた第六感をも超えた新たな感覚が体に流れてくる。
1km先の悪餓鬼から伝わる悪戯に近い悪寒のような波動が電磁波を受けるように皮膚から警告のように翻訳されて脳を痺れらせる。
さらに感覚が次のステージに移行するように魔眼のように進化する。それに伴い脳内を駆け巡る電流のような神経伝達物質が新たなるホルモンを生み落とすように僕を守ろうとする。いや僕が攻められるようにしているのかもしれない。魔眼の見つめる先の悪餓鬼たちが一瞬で眠りに落ちたかのように突っ伏したかのような大地に転がった。
「あらあら、すごい、もう既にそこまでできるようになってしまわれたのですねアース様。その感覚を鍛えれば、あらゆることができるようになりますわ。それが戦術となり、応用して組み合わせれば戦術の幅もひろがりますわよ。まずは己を知り敵を知ることですからね。」
嬉しそうなマリルが指を鳴らすと突っ伏した悪餓鬼たちは大地に溶けるように消滅していった。
「さぁ、レッスン2と洒落こみましょう。自分ができる能力を活用すればどんなことができるのか善から悪へ悪から善へ目くるめくる駆け引きの果てに何を得るかを知ることになるでしょう。まずはハクから料理を作ってもらいましょう。料理はレシピの善し悪しだけだは決まらないのよ。経験と相手を思いやる心で美味しくも不味くもなるんだからね。」
マリルは不敵に笑いながらハクの首根っこを掴み、訳も分からず何やら料理を作らせるようだ。
パチンと鳴らした指の音でまた幻術世界に僕たちを包んでいく。
そして大勢の観客が見守るキッチンスタジオに僕たちは立たされていた。




