23話
「露天風呂で爆睡すれば極楽いけるよ。」
「それ誰の知識?」
「経験談だよ。さあ、この私の我がままボディに飛びこんで!」
そんなことを言われても、赤子の体に戻った僕はそれどころではない。筋肉疲労や精神疲労、挙句の果ては激しい倦怠感と頭痛にも襲われている。
ハクは眠そうな顔にも関わらず、抱き枕のように僕を抱えて露天風呂に瞬殺された如く、いびきをかきながら爆睡し始める。
僕もハクのいびきがなければこの極楽にどっぷり味わいながら寝落ちしただろう。しかし、案の定この状態が目に見えていたのか、予想できたのか数人の湯あみを手伝うメイド達が現れた。
「あらあら、マリル様の言われた通りですね。すでにあられのない恰好で熟睡してますわ。さっさと治療と癒しを施しましょう。」
湯あみ服を着た5人の特徴的な獣耳や角の生えた妖艶な妖人・獣人・亜人メイド?たちに代わる代わる湯あみ服を脱ぎ、下に着込んだ水着になって僕たちに近づき手を伸ばした。
ある者は癒しの手で僕の頭をなで、ある者は僕を包み込むように抱きしめる。ハクに至っては体中を弄られる様に揉みしだかれる。あんなにうるさかったいびきがいつの間にか嬌声が混じったような呼吸にかわる。赤子の僕の体でも垢が落ちていくような感覚が浮遊する感覚にさえなってしまう。
体の洗濯が心の洗濯に感じるまで数分が数時間のように微睡の世界が広がっていって意識を飛ばす。
体に負荷がかかって硬直することさえ気持ちよくなってしまう。
時間の感覚が狂い、ある種の薬や酒を飲まされたような自分を達観しているような意識から覚醒しはじめたころマリルが既に露天風呂に入っていたことに気づいた。
体の芯までほぐされて脱力した赤子の僕を圧倒的な大迫力の胸のおしつぶされながら片手で抱きかかえながら、もう一方の腕をハクを脇に抱えて露天風呂の横にある水風呂に入っていく。
脱力している体と停止している脳にキンキンに冷えた水風呂は生命の危機を促す。ドクドクと脳まで響く心臓の音が一瞬で体の脳を覚醒させた。
体に硬直を感じたマリルは露天の横にいつの間にか置いてあったハンモッグにハクを横たわせ、僕に柔らかい湯あみ服を着せた。マリルも無造作に置いてある湯あみ服を着始めた。
「この飴を舐めて喉の渇きを癒してください。ハクは癒し水を用意してますよ。」
「お母様も一緒に飲みましょう。聞いてくださいよ。お祖父様とお父様の修行ったら無茶苦茶ですよ。」
「でも、スキルも増えて一段と強くなったんでしょ。」
「そうなんだけど・・・強くなったけど・・・」
「ハイハイ。今はこの自然の風に当たって何もかも忘れなさい。心と体の調和がとれて、整ったらちょっとした昔の話を聞かせてあげるわ。」
心地よい風と草木のざわめきが脳にしみる。時折聞こえる雑音が心をほぐすかのように1秒1秒が暗闇に満ちた空間に光が満ち始め、体の中の器官や感覚を輝かせていく。満ちていく光のさざ波が満ちていく。
沈黙が雑音を際立だせ、この数日の修行が走馬灯のようにフラッシュバックしていく。そんな感覚になったころ、マリルが僕とハクを連れて、ゆっくりと露天風呂に再度入るように促した。
「昔、この賽の河原に来た頃、服を脱がされ、体と魂を切り離され、体から精気が抜けて腐り始める。そんな状態で早く死んだ私は聖女様に悲しい思いさせたことを後悔していたの。河を渡ったらもうどうにかできないと感覚的に感じたら、河原を渡る前に聖女様に少しでも気持ちが晴れるように
石積みの塔をつくり上げて、聖女様に祈りを捧げようとしたの。でも、石積みを始めて、直ぐに鬼が現れては石塔を壊し、石を積んでも積んでもまた石塔を壊すのよ。でも、私は諦めなかった。諦めてはいけないとさえ思ったわ。」
そんな話をしながらマリルは蜃気楼をつくりだした。そこには石積みをしている女児が数千人記簿で映し出された。
ハクは蜃気楼で映し出された細かい霧状の一人の女児と石塔を触ってみた。
「ウゲッ。何んなのこの子の感触、エッ!これ本物の石!」
「本物そっくりの幻影よ。ハク、そっちの石塔触ってみて。」
「石塔が勝手に動いた。触れない。ヨッと!捕まえられない。どうして、生き物?」
「私の母がいなくなる前に母さんから教えてもらった魔術よ。それに、石塔が生き物に変化した変化の技は児童養護施設で私を可愛がってくれた聖女様の師匠に当たる賢者様に教わったのよ。一人になってもさみしくならないようにってね。」
「そうなんだ。祖母様にも聖女の御業か何かは教わったの?」
「皆が仲良くなるようにって、慈しむ優しい心を教わったのよ。怒っても、悲しくても、恐ろしくても、お腹がへっても大丈夫だからねって。」
「凄い!お母様。」
僕とハクの手をマリルが握ると僕には飴、ハクにはパンがいつの間にか握られていた。
「そしてね。何回も何回も石塔をつくっていたら聖女様にあえて。ここの賽の河原にいた子供を助け始めたのよ。」
「母様の技はそれだけではないでしょ。」
「いろいろ固有の技や術にスキルもあるけど・・・・寂しくてたまらなかった時に得た特技なんだけど・・・」
マリルは幾重の複数の音を口笛を奏でた。そして指を鳴らし、舌を鳴らし、鼻笛のような音にならない音を出した。
すると、聖獣やら聖鳥に空を飛ぶ聖魚に妖からロボットにも似たゴーレムが突然、歪んだ空から続々と現れたのだ。




