22話
「父上様。お願い。駄目だよね。はー・・・完徹って何日すれば死ねるの?」
「ここでは死なん。たとえ死んでも狂って別の何かになるだけだ。煉獄ではそうだったぞ。」
祖父は地獄から鬼畜勇者なだけに放逐され、父は煉獄から破門された。ようするに煉獄でやらかしすぎて出禁されたらしい。ダンいわく、煉獄の連中は信念や根性が足りないらしい。まー僕からしたらこの親子は脳筋らしい。もちろんハクも同様だ。
それでもダンは集中力がすごく、それはまるで執着執念に近く、一旦目標が決まれば諦めることを知らずとことんやりすぎてしまうらしい。
だからこそ、幼い時からあらゆる格闘技術から暗殺術まで極めてしまったのかもしれない。もちろん、矜持もプライドも関係なく、興味を持てば女、子供、浮浪者や老婆でも、技術やスキル取得のためには誰彼構わず頭を下げて教えを乞うことに躊躇はなかった。そのおかげダンの父である勇者ジオが政敵に貶められた時は父勇者の名誉回復のために自らの能力を使って動いた過去がある。
そんなダンに煉獄の話をサクッと聞くとつまらなそうな顔をしたことがあった。
「煉獄ですか。あそこは同じ夢をみさせるだけの刑務所みたいなとこですよ。その割には看守がゆるいんですよ。それに別に夢見るだけならいいけど同じ結末ばっかで飽きるんですよ。だから、つまらない、面白くない、残念で後悔しないような結末に変えろってね。ちょっとビシッと生活指導から道徳指導など今までの慣習を変えてやったんですよ。」
「えっ。どんなふうに」
「獄卒看守の代わりに基本は掃除だ。なんていいながら身の回りを身きれいに整理整頓清掃清潔躾作法・・・いろいろ指導したな・・・」
教わる技術は教える技術って本当らしい。身から出た錆ではなく身から出た金(禁)だから出禁か・・・ハハハhahaとりあえず僕は愛想笑いで笑っとく。
理論から実践、見本から応用まで親切丁寧に寝る間を惜しんで指導してくれるダン。鬼神勇者が熱血根性指導ならばダンは結果重視した冷徹完璧指導だ。
特にマジック手品のような奇術に関する体の動かし方の基礎は心を折りかける思いをした。なぜかといえば、目線や動作、言葉による誘導で錯覚や戸惑いなどの感情を呼び起こし心の欺瞞を起こさせるからだ。まだそれだけならいいが、マインドコントロールなどの心理的な誘導や錯覚、思い込みをさせる催眠術を使ったり、魔術や妖術を加えたりしながら暗殺術の深淵を基礎段階で感じさせる徹底ぶりだ。
だからこそ、筋肉や呼吸、目の動き、そして癖やしぐさから推察して予測していた行動が全く読めずある種のジレンマに陥ってしまう。そんなときはダンは勇者ジオに模擬戦を行って打開策を教えてくれる。もちろん、勇者ジオは当然簡単にいなすだけだ。
ガン!
「いまさらフェイントの練習かダン。つまらん!」
「すいません。お前たちどうして父様が剣筋を簡単に捌いたかわかるか。目だけに頼ってないからだぞ。騙されるな!体温や汗、殺気、空気の流れ、魔力妖力生命力の流れ感じれるものをすべて感じて対処しろ。」
勇者ジオは第三眼を開くだけではなくあらゆる未来予測をしているようであり、最適動作を無意識で繰り出すかのように当然の所作として身に着けているようだ。そんな勇者を超えようと日々努力し続けるダンも恐ろしいくらいの実力を秘めているのだろう。
空腹で睡眠まで削られる苛烈な指導。幻聴、幻覚まで見える状況でもそれさえ活かせという指導は度を越えているかもしれないが勇者の単調な動作をしながらの瞑想がここにきて生きることを感じていた。
どんな状況でも頭をクリアにしてくれる瞑想は空腹感や睡眠欲を抑えるどころか新たな力の吸収を満たすスパイスとなったのだ。この地にあふれる妖気や瘴気、それに獣の殺気や流れる水の精気や死肉の臭気さえ僕たちのエネルギーとなるように自然と体に溶け込んでくる。
新たな感知ができる第三眼が生まれたように、ファンタジー世界の魔素やら妖気などを取り込む器官が生まれてくる。そうなれば、取り込んだエネルギーを体の隅々に流せるようにするだけだ。血液に流れる新たな酸素にかわるエネルギーが新たに僕の力となる。魔法のように、超能力のように、妖怪や神仏が使う何かのエネルギー湧きあがり僕の力として生かすのだ。
ハクも僕も幻覚や幻聴、内なる幻想さえその力で実現できるようになるころにはダンからお墨付きを得た前衛職と言われるスパイや盗賊にも似た免許皆伝の暗殺技術さえも習得していたのだ。
それでもダンいわく、鬼神勇者ジオには遠く及ばず傷一つ与えられないと呟いたが理論や応用技術を磨けば勇者から褒められる程度になるらしい。と己の技術を過少評価しているダンの向上心という執念執着は偉大なる父の背中を見続けたいという欲求に近いものを感じる程だ。
ジオもそんな息子のダンの止まらない成長にほくそ笑みながらも、親を越させないといわんばかりの
新たな覚醒を目指しているそうだ。
修行ありがとうございます。心の中で僕とハクはつぶやく。
ハクも僕もさらなる高見を目指し、幻覚のような僕たちの精悍な擬態を創り、気配消しながらそろりそろりと脳筋たちの高笑いを背にしながら帰宅の途につくのであった。




